米アンソロピック、IPOに向け医療AIをアピールもFable 5は創薬研究に利用不可

2026年8月13日 17:15

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記事提供元:Tech Times

“Claude AI by Anthropic” by Anthropic, CC BY 2.0

“Claude AI by Anthropic” by Anthropic, CC BY 2.0[写真拡大]

Anthropicは9月または10月上旬のIPOを目指し、投資家に対してヘルスケア分野への進出を成長戦略としてアピールしていると報じられている。しかし、同社の最新モデル「Fable 5」は安全上の理由から専門的な創薬研究には利用できず、この制限がいつ変更されるかは明らかになっていない。投資家は、同社が描く医療AIの将来性と、現在の製品が抱える利用制限とのギャップをどう評価するかを問われることになる。

■投資家へのアピール内容

The Wall Street Journal(WSJ)が8月11日に報じたところによると、Anthropicは9月または10月上旬を目標とするIPOに先立ち、投資家候補と非公開で面会している。同社は一部の投資家に対し、ヘルスケアや生物学分野への進出が、AIに懐疑的な一般の人々を説得するうえでも役立つと説明しているという。一方、同社の最も高性能なモデルは専門的な創薬研究には明確に使用できず、その状況がいつ変わるかも示されていない。この投資家面会については、8月11日に公開されたWSJの報道を引用する形で複数のメディアが報じている。

この矛盾は、世界で最も企業価値の高い未公開AI企業が、株式市場に向けた成長ストーリーをどのように構築しているかという問題の中心にある。企業評価額9,650億ドル(約153兆4,350億円、1ドル=159円換算)のAnthropicは、エンタープライズ向けコーディングやAPIインフラにおける優位性を超える成長ストーリーを必要としており、その市場として医療を選んだ。同社のシリーズH資金調達ラウンドは2026年5月28日に完了した。投資家が生物学分野について聞かされている内容と、生物学研究者が現在Claudeで実際にできることは一致していない。

WSJの報道によると、ヘルスケア分野へのアピールには、商業面と評判面の2つの目的がある。商業面では、医療をエンタープライズソフトウェアに次ぐAnthropicの主要な収益分野として位置づけている。評判面では、データセンター、AIのエネルギーコスト、最先端モデルの少数企業への集中を巡って高まっている反発に対し、別の見方を提示する狙いがある。こうした説明は、2年前と比べて2026年には難しくなっている。

投資家向け資料の背景には、実体を伴う充実した製品・事業群がある。2025年10月、Anthropicは研究室や研究業務のワークフロー向けに構成した「Claude for Life Sciences」を発表した。2026年1月には、HIPAA対応のインフラと医療データベースへの接続機能を備えた「Claude for Healthcare」を発表し、医療機関が事前承認など、保護対象保健情報(PHI)を扱うワークフローにもClaudeを導入できるようにした。

2026年4月には、元Genentechの計算生物学研究者らが設立し、非公開で事業を進めていたバイオテクノロジー企業Coefficient Bioを、全額株式交換で買収した。買収額は約4億ドル(約636億円)と報じられている。6月30日には、ゲノミクス、単一細胞RNAシーケンシング、プロテオミクス、構造生物学、ケモインフォマティクスにわたる60以上の科学データベースとツールキットを統合したアプリケーション「Claude Science」のベータ版を公開した。

この製品・事業群の中で最も注目を集めているのが、AlphaFoldの共同開発者で、2024年のノーベル化学賞受賞者でもあるJohn Jumper氏だ。同氏は6月にGoogle DeepMindを離れ、Anthropicに加わった。Jumper氏の移籍は、Anthropicがライフサイエンス分野に本腰を入れていることを示している。AlphaFoldによるタンパク質構造予測は、過去10年間で最も重要な科学的成果の1つとして広く評価されてきた。

ただし、タンパク質構造予測が臨床試験や規制当局の審査を加速させるわけではない。これは創薬標的の特定を支援する技術であり、医薬品開発プロセスの上流工程に当たる。公表されている推計によれば、このプロセスは承認薬1つ当たり10年以上を要し、18億ドル(約2,862億円)を超える費用がかかる可能性がある。

■最新モデルがまだできないこと

WSJによる投資家面会の報道が公開される5日前、Anthropicは主力モデルの生物学関連セーフガードに関する重要なアップデートを発表した。同社によると、製品全体で生物学関連の「フォールバック」、すなわち問い合わせをより性能の低いモデルへ自動的に振り分ける処理を約85%削減した。これにより、医療従事者は検査結果の解釈や疾患の症状の把握といった臨床業務で、Fable 5レベルの回答を得られるようになった。

同じアップデートでは、変更されなかった点も明確にされている。Anthropicによると、Fable 5はウイルス学、毒性学、分子設計を含む「専門的な生物学研究や医薬品開発にはまだ使用できない」。その理由は、同社の表現では、生物兵器の開発を試みる人物の能力を「大幅に高める」可能性があるためだ。これらの分野に関する問い合わせは、引き続き、より性能の低いClaude Opus 5へ振り分けられる。

Anthropicは6月9日のFable 5発表時、研究者向けの専門的なアクセス手段を設ける意向を示した。しかし、8月7日のアップデート時点でも、その提供時期は示されていない。

同社が示している理由は具体的だ。米国インテリジェンス・コミュニティの「2026年年次脅威評価報告書」は、合成生物学やゲノム編集の進歩によって新たな生物学的脅威が生まれる可能性があると警告している。また、複数の国家主体が攻撃目的の生物・化学兵器プログラムを維持している可能性が高く、最先端AIがそれを加速させるおそれがあるとしている。

Anthropicは、このリスクを管理するためにバイオセーフティ分類器を使用している。これは、許可される内容と安全対策の対象となる内容を区別するルールに照らして、入力された問い合わせを審査する小規模なAIシステムである。同社は8月に分類器を再訓練し、無害な問い合わせに対する誤検知を減らすためにルールを改定した。

それでも専門研究への利用制限が残っているのは、正当な創薬作業とデュアルユース技術の悪用を、最先端モデルの能力を提供しても問題ないほどの信頼性では、まだ区別できないと同社が判断しているためである。

■同じ能力、2つのストーリー

投資家向けの説明と製品アップデートを併せて見ると、構造的な緊張関係が浮かび上がる。AnthropicがヘルスケアAIの大きな可能性を説得力をもって主張できる理由は、専門的な生物学研究へのアクセスにギャップが存在する理由と同じである。

Anthropic自身のテストによれば、Fable 5の生物学的推論能力は、病原体を設計しようとする悪意ある人物に意味のある支援を提供できる水準に達している。この最先端の生物学的能力があるからこそ、製薬分野の投資家に対する創薬AIの説明にも説得力が生まれる。

しかし、その能力こそが、同社の安全対策によって専門研究者には提供されていない。Anthropicは、創薬のワークフローと兵器開発に関する問い合わせを十分な信頼性で区別できず、専門研究市場にモデルを責任をもって開放できる段階にはまだ達していないからだ。

投資家向けの説明では、ヘルスケア分野の機会は短期的かつ商業的に重要なものとして提示されている。一方、現在の製品構成を見ると、その機会はまだ存在しない専門研究者向けアクセス手段の提供を待つ状態にある。

■Bristol Myers Squibbとの提携とエンタープライズ導入の限界

Anthropicが投資家に示せる最も具体的な実績は、2026年5月20日に発表されたBristol Myers Squibb(BMS)との提携である。この契約では、BMSの研究、臨床開発、製造、営業、管理部門などにClaude Enterpriseを展開し、3万人を超える従業員がAnthropicの高度な推論機能やAIエージェント機能を利用できるようにする。

Anthropicで生物学・ライフサイエンス部門を率いるEric Kauderer-Abrams氏は1月、この構想の全体像を示していた。数千のデータソースに接続されたClaudeが、基礎となる治験データから臨床試験報告書を生成し、数十年分の社内研究から科学的な背景情報を抽出し、製造工程で発生した逸脱の根本原因をリアルタイムで追跡するという構想だ。

一方、BMSの最高デジタル・テクノロジー責任者であるGreg Meyers氏による説明は、より現実的な内容だった。同氏は発表の中で「ほとんどのエンタープライズAIはチャットボットで止まっている。本当に価値があるのは、数十年にわたるデータサイロの奥に眠ったままの、まだ活用されていない価値だ」と述べた。

この導入では、組織内の知識を結びつけ、治験関連書類、規制当局への提出書類、製造品質の監視、医療従事者とのコミュニケーションなどの文書業務を効率化することに重点が置かれている。これらは企業にとって意味のある効率化用途だが、投資家向けの説明が想起させるような、AIによって加速された創薬そのものではない。

Anthropicはまた、Claudeが腫瘍学、神経科学、血液学、免疫学における創薬標的の特定と最適化を支援することも明らかにしている。これは実際の研究に関わる重要な用途である。ただし、現在Claudeに許可されている生物学関連機能の範囲内で行われるものであり、2026年8月時点では、Fable 5の安全対策によって制限されている最先端の能力は含まれない。

■ヘルスケア構想の裏にある収益状況

投資家がヘルスケア分野の説明をどのように受け止めるにせよ、AnthropicのIPOを支える財務面の根拠には、重要な注意点こそあるものの、極めて大きな数字が並んでいる。同社の年換算売上高、いわゆるランレートは2026年5月に470億ドル(約7兆4,730億円)を突破した。主な原動力はヘルスケアではなく、Claude CodeとエンタープライズAPIの普及である。

WSJによると、Anthropicは投資家に対し、2026年第2四半期の売上高を109億ドル(約1兆7,331億円)と予測していると説明した。これは第1四半期の48億ドルから130%の増加で、四半期として初めて5億5,900万ドル(約889億円)の営業利益を計上する見通しだという。

ただしAnthropic自身も、計画しているデータセンター投資によって、その後の四半期には再び営業赤字に転じる可能性があり、この収益性が続くとは限らないと投資家に注意を促している。

470億ドルのランレートには、公開予定のS-1、すなわち米国での上場登録届出書で説明される必要がある、もう1つの重要な注意点がある。Anthropicは収益の相当部分を、一部の競合他社が採用するネット、つまり純額ベースではなく、グロス、つまり総額ベースで計上している。

この方式では、AWS、Google Cloud、Microsoft Azureとのクラウド再販契約を通じたエンタープライズ顧客の支出について、Anthropicの取り分だけでなく顧客の支出総額を収益として数える。そのため、470億ドルという数字を、自社の取り分だけを純額で計上している同業他社と単純に比較することはできない。SECの審査過程で監査済みの完全なS-1が公開されれば、こうした会計処理が報告売上高に与える影響を投資家が初めて確認できることになる。

市場での位置づけについては、5万社を超える米国企業の支出データに基づくRamp AI Indexの4月の数値によると、Anthropicは2026年4月、米国企業のAI支出で初めてOpenAIを上回った。プラットフォーム上の企業に占める割合はAnthropicが34.4%、OpenAIが32.3%だった。

■中国モデルの台頭とIPOへの影響

投資家との面会でAnthropicが対応している課題は、ヘルスケアだけではない。投資家候補は、Kimi K3やQwen 3.8など、中国の開発企業が提供する低価格のAIモデルについて懸念を示している。これらのモデルが欧米の最先端モデルとの能力差を縮めたことで、Anthropicがかつて主張していた6~8カ月の能力面でのリードも小さくなっている。

WSJの報道によると、Anthropicは投資家に対し、多くのユーザーはその時点で最も優れたモデルを求めるとの前提に立ち、利用可能な中で最も高性能なモデルを開発し続けることで、低価格の代替モデルに対抗する計画だと説明している。

この主張は、最先端の能力が製品の成果に直接つながるコーディングやAPIインフラでは説明しやすい。一方、ヘルスケアでは、製品上の優位性を生み出す最先端の能力そのものが、同社の安全対策によって商用提供を制限されている。

9月または10月上旬にIPOを実施すれば、Anthropicは競合するOpenAIよりも先に上場することになる。OpenAIは以前、2026年秋の上場を目指していたが、現在は2027年を検討していると報じられている。Anthropicが先に上場すれば、OpenAIが独自の評価額を示す前に、公開市場におけるAI企業の評価基準を設定することになる。

■投資家はギャップをどう評価するか

公開市場は、ヘルスケア分野に関する説明が将来を見据えた情報開示なのか、それとも実現を目指す構想の提示なのかを判断する必要がある。実際にはその両面があり、両者の隔たりは、Anthropicが専門的な生物学研究向けのアクセス手段をいつ提供できるかによって決まる。しかし、同社はその時期を明らかにしていない。

Kauderer-Abrams氏は、2025年10月のClaude for Life Sciences発表時に、実現できることの限界について率直に語っていた。Claudeが関与したからといって、3年かかる臨床試験が1カ月になるわけではないという。

この発言は、文書作成の自動化、文献レビューの迅速化、数十年分の組織データの連携といった用途の価値を損なうものではない。これらは、いずれもBMSへの導入が示している用途である。ただし、現在の限界も明確にしている。今日の医薬品開発におけるAIは、業務の流れを速めることはできても、医薬品開発パイプライン全体を大幅に短縮するものではない。また、AIによって発見された医薬品で、FDAの正式承認を受けたものはまだない。

専門的な生物学研究へのアクセス制限が存在しないかのようにAnthropicのヘルスケア事業を評価する投資家は、同社の安全部門がまだ安全に提供できないと判断している能力を評価額に織り込むことになる。一方、ヘルスケア事業を完全に無視すれば、文書作成、データ統合、臨床試験の調整など、BMSとAnthropicが現在実用化している企業向けの機会を見落とすことになる。

9月の上場機会は狭まりつつある。公開市場がAnthropicの生物学分野に関する説明と、実際の製品とのギャップをどのように評価するかは、同社の上場初日の評価額だけでなく、その後に続くすべてのAI企業のIPOにおける価格設定の基準を左右する可能性がある。

■注目ポイントQ&A

●Claude Fable 5は専門的な創薬研究開発に使用できますか?

現在は使用できません。Anthropicが2026年8月7日に行ったFable 5の生物学関連セーフガードのアップデートでは、日常的な健康関連用途や教育用途を含め、問い合わせを性能の低いモデルへ自動的に振り分ける「フォールバック」が約85%削減されました。

しかし、Fable 5は生物兵器の開発を試みる人物の能力を大幅に高める可能性があるため、ウイルス学、毒性学、分子設計を含む専門的な生物学研究には、引き続き使用できないことが明確にされています。これらの分野の問い合わせは、より性能の低いClaude Opus 5へ自動的に振り分けられます。Anthropicは研究者向けの専門的なアクセス手段を設ける意向を示していますが、その提供時期は明らかにしていません。

●AIによって発見された医薬品で、FDAの正式承認を受けたものはありますか?

ありません。2026年8月現在、AIの支援によって発見された新薬候補は臨床試験に進んでいます。最も進んでいるものは、Insilico Medicineが特発性肺線維症向けに開発しているrentosertib、旧称INS018_055です。同薬は第IIa相試験を完了し、2026年7月に第III相試験が登録されました。

しかし、人工知能だけによって発見された治療薬で、FDAの正式承認を受けたものはまだありません。標的の特定から医薬品の承認までには通常10~15年かかります。AIは初期段階の創薬や文書作成では測定可能な成果の可能性を示していますが、臨床試験や規制当局の審査を加速できることはまだ実証されていません。

●Bristol Myers SquibbとAnthropicの提携は実際に何を行っているのですか?

2026年5月20日に発表された契約により、BMSのグローバル事業全体で3万人を超える従業員にClaude Enterpriseが導入されます。

重点分野は3つです。Claude Codeを使ったソフトウェアおよびAI開発の迅速化、主要な科学・営業ワークフローへのClaudeエージェントの組み込み、同社のデータシステム全体に分散している組織知識の接続です。具体的な用途には、臨床試験文書の自動作成、規制当局への提出書類の作成、製造品質監視の支援などがあります。

これは組織内の知識活用とワークフローの自動化によって大規模な価値を生み出す取り組みです。ただし、新しい新薬候補を特定したり、臨床開発期間そのものを短縮したりする意味でのAI創薬とは異なります。

●Anthropicの470億ドルの年換算売上高は実際には何を表していますか?

Anthropicが2026年5月に開示した470億ドルの年換算売上高、いわゆるランレートは、主にClaude CodeとエンタープライズAPIの普及によって生み出されたものです。ただし、2つの重要な注意点があります。

第一に、この数字にはグロス、つまり総額ベースのクラウド再販会計が使われています。Anthropicの取り分だけでなく、AWS、Google Cloud、Microsoft Azureを利用するエンタープライズ顧客の支出総額が計上されるため、ネット、つまり純額ベースで報告する競合他社よりも見かけ上の数字が大きくなります。

第二に、2026年第2四半期の営業利益5億5,900万ドルという予測は、資金調達に関連して投資家へ示されたものです。Anthropic自身も、年後半に予定するデータセンター投資により、この収益性が続かない可能性があると明確に注意を促しています。まだ公開されていない監査済みの完全なS-1によって、これらの疑問が明らかになるとみられます。

元記事: Anthropic Pitches Healthcare AI to IPO Investors as Fable 5 Blocks Drug Research

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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