関連記事
エウロパの氷の亀裂、数時間で凍結か Europa Clipperの探査計画に影響

(Mara L/Unsplash.com)[写真拡大]
木星の衛星エウロパの氷の亀裂から地下海の水が上昇しても、乱流の影響により数時間以内に凍結し、亀裂が閉じる可能性が高いことが最新のシミュレーション研究で示された。この発見は、氷殻の浅い部分にある液体の水の貯留層を地下海への窓として利用できるという従来の期待を覆すものだ。2030年に木星へ到着する予定のNASAの探査機「Europa Clipper(エウロパ・クリッパー)」が収集するデータの解釈にも、新たな課題を投げかけている。
■地下海への窓という期待を覆す新発見
エウロパの氷に亀裂が入り、地下海の水が表面に向かって上昇し始めたとしても、その移動はほぼ確実に失敗に終わる。それは亀裂が狭すぎるからではなく、乱流の物理的性質によって亀裂が数時間以内に凍結し、自然に閉じてしまうからだ。7月24日にNature Astronomy誌で発表された査読済み研究によるこの発見は、木星の氷衛星における生命探査で最も期待されてきた「近道」の一つを覆すものである。そしてこの研究結果は、まさにその近道を検証する2機の探査機がすでに木星へ向かっているなかで発表された。
このタイミングが重要なのは、2024年10月に打ち上げられ、2030年4月に木星へ到着する予定のNASAのEuropa Clipperが、エウロパの表面下にある浅い液体の水の貯留層を探すために設計された氷透過レーダーを搭載しているからだ。それらの貯留層は、衛星の地下深くにある海へアクセスできる窓だと想定されていた。しかし、ラトガース大学が主導した今回の研究は、その前提がおそらく誤っていることを示している。
この制約をさらに強めるのが、2026年1月に発表された別のNASAの研究である。探査機「Juno(ジュノー)」のマイクロ波放射計のデータを使用したこの研究では、エウロパの氷殻の厚さは平均約29キロメートル(18マイル)で、エベレストを3つ積み重ねた高さを上回るとされた。純粋な水氷モデルで29±10キロメートル(18±6マイル)という測定結果は、氷殻が薄いとする説と厚いとする説の間で続いてきた論争に決着をつけた。Ojha氏らの研究は、そこに2つ目の制約を加えた。仮に氷殻を原理的には通過できるとしても、狭い亀裂を上昇する水の物理的性質により、実際の通過はほぼ不可能になるというものだ。
■亀裂は数年ではなく数時間で閉じる
ラトガース大学の地球惑星科学准教授であるLujendra Ojha氏が主導したこの研究は、エウロパの地下海から来た液体の水が、完全に凍結することなく氷の中を上昇できるかどうかを検証することを目的としていた。Ojha氏は、ジョンズ・ホプキンス大学のAnkit Barik氏、ダートマス大学セイヤー工学部のJacob Buffo氏と協力し、流体の流れと熱伝達を組み合わせた高解像度のCOMSOL Multiphysicsシミュレーションを実施した。これまでのモデルでは、この組み合わせはほとんど考慮されていなかった。
重要な変数は乱流だった。従来のシミュレーションでは通常、上昇する水が「ダイク」と呼ばれる亀裂の中を、整然とした層流として移動するようにモデル化されていた。しかしOjha氏のチームは、これが物理的に現実的ではないことを明らかにした。エウロパの氷の亀裂を上昇する水は、秒速約5〜20メートル(毎秒16〜66フィート)で、複雑に渦を巻きながら移動するとみられる。この乱流によって水は凍った亀裂の壁へ絶えず押し付けられ、周囲の氷への熱損失が大幅に加速する。
「上昇してくる水は乱流になる」とOjha氏は述べた。「左右や上下に動き、渦を巻く。そうなると、液体の水は表面へ近づくにつれて極めて速く冷却される」
亀裂の上部1〜2キロメートル(0.6〜1.2マイル)は、およそ140〜200ケルビン(摂氏マイナス133〜マイナス73度、華氏マイナス208〜マイナス100度)の氷に囲まれている。乱流による混合と相まって、この極端な低温は、流れが穏やかだと仮定したモデルの予測をはるかに上回る速度で熱損失を進める。
水が液体のまま凝固点を下回る「過冷却」の状態になると、フラジルアイス(晶氷)が生成され始める。これは、激しくかき混ぜられる流れの中に形成される、直径約1ミリメートル(0.04インチ)以下の小さな円盤状の氷結晶である。フラジルアイスは仮説上の現象ではない。地球の河川や南極の棚氷下プルームで詳しく観測されており、数時間のうちに水力発電施設の取水口を詰まらせることが知られている。Ojha氏らの研究は、地球で確かめられているこの仕組みを初めてエウロパに適用した。
シミュレーションでは、亀裂が開く際に壁から削り取られた、1マイクロメートルの何分の一という薄さの種結晶でさえ、フラジルアイスの急激な成長を引き起こす可能性があることが示された。上昇する水の推定1〜3%がフラジルアイスの結晶に変わる。その結晶の一部が亀裂の壁に付着するだけで、水の通り道は塞がれてしまう。
凍結に要する時間は極めて短い。幅わずか0.1メートル(約4インチ)の狭い亀裂は、最短2〜6時間で閉じる可能性がある。幅1メートル(約3.3フィート)の亀裂は、熱伝導だけを考慮した単純なモデルでは1週間から23日間開いたままになる可能性があった。しかし、乱流を適切に取り入れると、その推定は成り立たなくなった。
■物理法則が「近道」を成り立たなくする
エウロパの氷の中を上昇する水については、狭い亀裂をマグマが押し上がる地球の火山噴火になぞらえる考え方が長く用いられてきた。しかしOjha氏によると、この類推は物理学の根本的な部分で成り立たない。
「氷と液体の水は、地球上で見られる溶岩や火山とは根本的に異なる」と同氏は述べた。「ここでは基本的な物理過程の一部が見落とされているのではないかと考え、それを調べたいと思った」
地球上では、溶岩は熱を効率よく保持し、周囲の物質に対して比較的低速で移動する。一方、エウロパの極低温の氷殻を上昇する水は、桁違いに速く熱を奪われる環境に置かれ、乱流によってその効果はさらに強まる。
この制約の大きさを示す例がある。エウロパで観測されている一部の表面地形を説明するのに必要な水量を供給するには、長さ約1キロメートル(0.62マイル)の亀裂に沿って、およそ200〜800本の平行なダイクが同時に活動する必要があることがシミュレーションで示された。より大きな地形では、必要な数が数千本に達する可能性もある。これは現実的な自然現象の姿ではなく、「地下海の水が亀裂を通って上昇する」というモデルが現実的な条件下では成り立たないことを、極端な帰結によって示している。
この研究で何が分かり、何が分からないのかには注意が必要だ。これはモデリング研究であり、エウロパで亀裂が凍結して閉じる様子を直接観測したものではない。シミュレーションは、ダイク内の水に起きる現象について、物理法則に基づく現時点で最良の推定を示している。ただし、水の化学組成、亀裂の分布、氷内部の具体的な条件など、エウロパの実際の地質環境によっては、モデルが捉えていない例外が生じる可能性もある。著者らは、塩分濃度や潮汐加熱の分布などの条件によって結果が変わり得ることを明記している。
■浅い液体の水が実際に示すもの
この研究は、エウロパに浅い液体の水の貯留層が存在する可能性を否定してはいない。否定しているのは、それらが形成された仕組みについて、これまで最も都合がよいとされてきた説明である。
表面近くに液体の水の貯留層が存在する場合、Ojha氏のチームは、それらが地下の全球的な海から上昇した水ではなく、氷内部の局所的な潮汐加熱によって形成された可能性の方がはるかに高いとしている。潮汐加熱とは、木星の重力によってエウロパが繰り返し変形し、内部摩擦によって熱が生じる現象である。この熱が局所的に氷を溶かす可能性がある。また、閉じた亀裂に潮汐によるひずみが集中し、その周囲で発熱と一時的な融解が起こることも考えられる。
この違いは、Europa ClipperのREASON(Radar for Europa Assessment and Sounding: Ocean to Near-surface)が、2030年以降にエウロパの地下を調べる際、何を発見するのかという問題に直接影響する。REASONは9メガヘルツと60メガヘルツで動作する二周波レーダーシステムである。表面近くで液体の水を示す信号が検出されても、それを自動的に地下海の成分を反映したものと解釈することはできなくなる。
浅い貯留層が氷内部の局所的な融解だけで形成された場合、その化学組成は地下海のものと大きく異なる可能性がある。海底の熱水活動では、岩石と水が高温で相互作用し、地球の深海生物と関連するアミノ酸やエネルギー源が生み出される可能性がある。しかし、その化学的な痕跡は、局所的に溶けた氷からできた貯留層には残らない。Europa Clipperのレーダーが何を発見するのかという問題と、それが生命を育める環境の存在にとって何を意味するのかという問題は、今や分けて考える必要がある。
「我々の研究は、エウロパの氷殻が、これまで想定されていた以上に海と表面を隔てる強固な障壁である可能性を示している」とOjha氏は述べた。「これは、将来のミッションが観測結果を解釈し、生命を育める環境の兆候をどこで探すべきかをより深く理解するのに役立つ」
■レーダーでも分からない可能性があること
Ojha氏らの研究は、2026年にNature Astronomy誌で発表された、エウロパの地下海へのアクセス可能性に制約を加える2つ目の主要な研究である。それに先立つJunoとLevin氏らの研究は、エウロパの氷殻が従来想定されていた理論上の範囲の中でも厚いことを示した。もともと木星の大気を研究するために製作されたJunoのマイクロ波放射計は、2022年9月のフライバイでエウロパ表面のおよそ半分にわたって輝度温度を測定し、純粋な水氷モデルでは氷殻の平均厚が29キロメートル(18マイル)になるとの結果を得た。
NASAジェット推進研究所(JPL)でJunoのプロジェクトサイエンティストを務めるSteve Levin氏は当時、「内部にわずかに温かい対流層も存在する可能性があり、もしそうであれば、氷殻全体の厚さはさらに増す」と指摘した。サウスウエスト研究所でJunoの主任研究員を務めるScott Bolton氏は、この測定結果がEuropa ClipperとJUICEの双方にとって重要な背景情報になると強調した。
2つの研究を合わせると、楽観的な探査シナリオは両面から制約を受ける。Junoの測定結果は氷殻が厚いことを示し、Ojha氏らの研究は氷殻内部の通路が凍結によって塞がれることを示している。Europa Clipperのレーダーは浅い液体の水を検出できる可能性があるものの、それが地下海と化学的または宇宙生物学的につながっていると自動的に推定することはできない。
ただし、これによってエウロパが探査対象としての価値を失うわけではない。むしろ、どの点で探査が難しいのかが明確になったといえる。Europa Clipperは引き続き、氷殻の構造を地図化し、その組成を測定し、氷と海がどのように相互作用しているかについて条件を絞り込める。REASONのレーダーも、表面近くに液体の水の貯留層が存在する場所を検出できる可能性がある。たとえそれらが地下海とつながっていなくても、その価値は変わらない。将来、氷殻の電気伝導率や塩分濃度を測定できれば、凍結モデルを改良し、物質交換が可能となる条件を特定できる可能性もある。
■海洋世界の中のエウロパ
エウロパは、地下海を持つと考えられている外太陽系の複数の天体の一つである。この「海洋世界」には、土星の衛星エンケラドゥスやタイタンのほか、いくつかの氷衛星が含まれる可能性がある。水が氷の中をどのように移動するのかという物理過程は、これらすべての天体に関係する。
エンケラドゥスは、Ojha氏らの研究が示した制約の最も明確な例外である。南極のプルームは、地下海から水蒸気と氷粒子を活発に噴出している。これは、水がダイクを上昇する必要のない仕組みによって氷殻を通り抜けるものだ。そのため、エンケラドゥスのプルーム物質は地下海の化学組成をより直接的に反映する試料となる。エウロパでは同様の現象が直接確認されていないのに対し、エンケラドゥスの活発な噴出はCassini探査機によって直接確認された。
エウロパについて新たに浮かび上がるのは、氷殻が単なる受動的な蓋ではなく、通過しようとする水を変化させ、凍結させ、別の方向へ導く動的な障壁だという姿である。惑星科学者は、エウロパの海と表面の間の物質交換を説明するため、長年にわたって氷火山活動を火山現象になぞらえてきた。しかし、この類推は根本的な物理的課題に直面している。地球のマグマとは異なり、エウロパの氷を通過しようとする水は、自らを再び氷へ変えようとする極低温環境と競わなければならないからだ。
2023年4月に打ち上げられ、2031年7月に木星へ到着する予定の欧州宇宙機関(ESA)のJUICEミッションも、木星系の広範な調査の一環としてエウロパを観測する。これにより、科学者が観測結果の解釈を改良するための追加データが得られる予定だ。
エウロパが最終的に生命を育める環境であるかどうかは、表面への水の移動を阻む氷殻のはるか下で、地下海に何が含まれているかに左右されるのかもしれない。
■Europa Clipperは依然として生命の兆候を見つけられるか
Europa Clipperは、生命の存在を直接確認するために設計された探査機ではない。その目的は、エウロパの氷殻構造を地図化し、表面組成を測定し、衛星の地質と現在起きている可能性のある活動を調べることで、生命を支え得る条件が存在するかどうかを評価することだ。Ojha氏らの研究は、観測の観点から「生命を育める環境」をどう捉えるべきかを見直すものとなる。浅い液体の水の貯留層が地下海ではなく局所的な融解に由来する場合、それは地下海の代わりとなる試料ではなく、独立した環境として評価する必要がある。
Europa Clipperは9つの科学観測装置に加え、各フライバイで同時に実施される重力実験を備えている。REASONレーダーは地下構造を地図化し、質量分析計は衛星の希薄な大気や、存在する場合にはプルーム内のガスを分析する。磁力計とプラズマ観測装置は、地下海の深さ、塩分濃度、温度を間接的に調べる。今回の研究結果が特に影響するのは、科学者によるレーダー反射信号の解釈である。表面近くの液体の水を示す信号が得られた場合、その水が局所的な融解に由来するのか、地下海とつながっているのかを判断するため、追加の分析が必要になる。
■注目ポイントQ&A
●エウロパの浅い水が地下海から来たものでないなら、何なのですか?
Ojha氏らの研究によると、エウロパの表面近くに浅い液体の水の貯留層が存在する場合、それらは氷殻内部の局所的な潮汐加熱によって形成された可能性の方が高いとされています。潮汐加熱は、木星の重力によって衛星が繰り返し変形し、その内部摩擦から熱が生じる現象です。この過程では、全球的な地下海とのつながりがなくても、局所的に氷が溶ける可能性があります。また、閉じた亀裂に潮汐によるひずみが集中し、その周囲で発熱や一時的な融解が起こる可能性もあります。こうした局所的な貯留層は地下海と化学組成が大きく異なり、海底の熱水活動によって生成される可能性のある複雑な有機化合物を含まないことも考えられます。
●エウロパの氷殻の厚さはどのくらいですか? それは生命にとって重要ですか?
NASAのJuno探査機は、もともと木星の大気を研究するために設計されたマイクロ波放射計を使用し、2022年9月のフライバイで観測した領域について、エウロパの氷殻の平均厚を約29キロメートル(18マイル)と測定しました。この結果は、氷殻の厚さを半マイル未満から数十マイルまでとする幅広い議論に決着をつけました。氷殻の厚さは、酸素や栄養物質、生命の痕跡となり得る物質が、放射線の影響を受ける表面と地下海の間を移動する距離を左右するため、生命を育める環境を考えるうえで重要です。Ojha氏らの研究は、氷殻の厚さにかかわらず、水が氷の中を上昇する際の物理過程によって、こうした物質交換が起こりにくいことも示しています。
●Europa ClipperのREASONとは何ですか? 実際に何が分かるのですか?
REASON(Radar for Europa Assessment and Sounding: Ocean to Near-surface)は、テキサス大学地球物理学研究所とNASAジェット推進研究所が開発した、9メガヘルツと60メガヘルツの二周波氷透過レーダーです。外太陽系へ投入される初の氷透過レーダーとなります。REASONは、エウロパの氷殻構造を地図化し、液体の水の貯留層を探し、氷と海の境界を調べ、潮汐による変形を測定します。Ojha氏らの研究により、REASONが表面近くで液体の水を示す信号を検出した場合、それが地下海とつながっているのか、局所的な融解に由来するのかを判断するには、追加の証拠が必要になります。観測結果の解釈は、従来想定されていたより複雑になるということです。
●この研究は、エウロパにはおそらく生命が存在しないことを意味するのですか?
いいえ。生命の証拠を遠隔観測で探すことが、楽観的なシナリオで考えられていたより難しいという意味です。地下海は依然として存在し、木星による潮汐加熱で液体の状態に保たれていると考えられています。また、宇宙生物学者が生命の前提条件とみなす水、化学物質、エネルギーが存在する可能性も残されています。Ojha氏らの研究が否定したのは、探査機の観測装置が調べやすい浅い水を、地下海の化学組成を示す信頼できる窓とみなせるという前提です。エウロパの地下海に生命が存在するかどうかは未解明のままであり、変わったのは、その調査結果を解釈するための戦略です。
元記事: Europa Ice Cracks Freeze Shut in Hours, Complicating Clipper Science Plan
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
スポンサードリンク
