韓国政府、サムスン主導の1000兆ウォンAI・半導体投資計画を発表 10年で約105兆円を投入へ

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韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領は2026年6月28日、官民一体となる3つの巨大プロジェクトを発表した。サムスングループが10年間で1000兆ウォン(約6490億ドル/約105兆1380億円)を投じる計画が柱となっており、半導体、AIデータセンター、ロボティクスなどの分野に投入される。この投資は韓国史上最大規模の企業投資公約であり、サムスン電子とSKハイニックスを主軸にAI時代への「大躍進」を目指すものである。
■サムスン主導の1000兆ウォン投資計画の全貌
韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領は2026年6月28日、ソウルの大統領府で官民一体となる3つの巨大プロジェクトを発表した。その中核となるのが、サムスングループによる今後10年間で1000兆ウォン(約6490億ドル/約105兆1380億円、1ドル=162円換算)にのぼる投資公約である。この資金は半導体、AIデータセンター、そしてロボティクスを含む物理的AI分野に投入される。これは韓国の企業投資史上、単一としては最大規模の公約であり、同国の2大メモリチップメーカーであるサムスン電子とSKハイニックスを、政府が掲げるAI時代への「大躍進」の主軸に据えるものである。
発表が行われたブリーフィングには、サムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)会長とSKグループの崔泰源(チェ・テウォン)会長が出席し、それぞれの投資計画を提示した。両会長は発表に先立つ数週間前、官民連携の枠組みを調整するため、大統領と個別に会談を重ねていた(李会長は6月25日、崔会長は6月19日)。
■単なる企業投資を超えた「HBM」の戦略的価値
サムスングループの1000兆ウォンに及ぶ投資は、サムスン電子、サムスンSDI、サムスンディスプレイ、サムスン電機の各社に分散され、半導体工場、AIデータセンター、次世代バッテリー生産、AI半導体用先端基板などをカバーする。このうち350兆ウォン(約36兆8000億円)以上が、主にデータセンターを中心とするAIインフラに割り当てられる。また、SKグループもこれと並行して独自の投資計画を提示した。
しかし、この投資の戦略的重要性は金額の大きさだけにとどまらない。その本質は、サムスン電子とSKハイニックスが製造する「高帯域幅メモリ(HBM)」にある。HBMは、AIアクセラレータに高速でデータを供給し、その処理能力を最大限に引き出すための特殊なメモリ構造を持つ。現在、サムスンとSKハイニックスの2社で世界のHBM生産の約80%を占めている。
カウンターポイント・リサーチ(Counterpoint Research)のデータによると、SKハイニックスは2026年第1四半期時点でHBM市場の58%のシェアを握っており、NVIDIAの「H100」から次世代の「Rubin」プラットフォームに至るまで、すべてのGPU世代における主要メモリサプライヤーとなっている。
この市場集中は偶然ではない。HBMは、先行メーカーが蓄積した製造上の優位性が世代交代ごとにさらに強まる技術である。SKグループの崔泰源会長は「かつては周辺部品だったものが、今や中核部品になった。SKハイニックスのHBMを他社製品に置き換えれば、AIシステムが正常に機能しなくなる可能性がある」と指摘する。これは単なるマーケティング上の主張ではなく、技術的な構造を反映したものだ。HBMスタックはGPUダイと同じシリコンインターポーザー上に物理的に統合されるため、メモリサプライヤーを変更するにはチップパッケージの設計を根本からやり直す必要がある。
■AIのボトルネックを解消するHBMの仕組み
HBMは、メモリとプロセッサ間のデータ転送速度がボトルネックとなる「メモリの壁」を解決するために開発された。大規模言語モデル(LLM)などのAIワークロードでは、メモリとプロセッサコアの間で膨大なデータが絶えずやり取りされる。従来のDRAMは回路基板上に平らに配置され、比較的狭いデータバス(標準的なDDR5で64ビット幅)でプロセッサと接続されるため、大規模なAI学習においてはメモリへのアクセス速度がボトルネックとなっていた。
HBMはこの問題を、複数のDRAMダイを垂直に積層し、TSV(シリコン貫通電極)と呼ばれる数千本の微細な銅の柱で接続することで解決した。各DRAMダイは髪の毛の直径の約3分の1に相当する約30マイクロメートルまで薄膜化され、業界規格(JEDEC)が定める775マイクロメートルの高さ制限の中に12層または16層を積層できる。完成したスタックはGPUの直近に配置され、従来のメモリ構造でデータ転送速度を制限していた長い配線を排除している。
この構造により、DDR5の32倍に達するメモリバス幅が実現した。NVIDIAの「Blackwell」GPU向けに量産されている「HBM3E」は、1024ビットのインターフェースを持ち、1スタックあたり毎秒約1.15テラバイトの帯域幅を提供する。さらに、2025年4月に規格が策定され、2026年初頭に量産が開始された「HBM4」では、インターフェース幅が2048ビットに倍増し、毎秒最大2テラバイトの帯域幅を実現する。NVIDIAの次世代GPU「Rubin」はこれを8スタック搭載する予定で、総帯域幅は毎秒16テラバイトを超え、従来のメモリ構造では不可能だった規模のリアルタイムAI推論が可能になる。
SKハイニックスは2026年6月18日、当初予定していた下半期のスケジュールを前倒しして、主要顧客向けに「HBM4E」のサンプル出荷を開始した。HBM4Eはより高密度な「1c世代」のDRAMコアダイを採用し、ピンあたりのデータ転送速度を最大毎秒16ギガビットに引き上げることで、1スタックあたり毎秒約4テラバイト(HBM3Eの約3.5倍)の帯域幅を実現する。業界アナリストによれば、積層されたメモリ層の読み書きやエラー訂正を制御する最下部のベースダイには、TSMCの3nmクラスプロセスが採用されているとみられ、前世代の12nmクラスから大幅な技術進化を遂げている。
マイクロン(Micron)は2025年12月の投資家向け発表において、HBMの市場規模が2025年の約350億ドル(約5兆6700億円)から2028年には約1000億ドル(約16兆2000億円)に達し、年平均成長率は40%近くになると予測した。この1000億ドルという数字は、同社の従来予測より2年早く達成される見込みであり、2024年のDRAM市場全体の規模を上回るものである。
■3つの柱:半導体、データセンター、物理的AI
今回のプロジェクトは3つの投資分野で構成されている。中核となるのは、サムスン電子とSKハイニックスが主導する韓国南西部の湖南(ホナム)地域における半導体クラスターの構築である。また、政府は複数地域でAIデータセンターインフラを拡張するほか、ロボティクス、エッジコンピューティング、オンデバイスAIの融合領域である「物理的AI」への投資も計画している。この分野は、韓国が持つ自動車や精密製造業の産業基盤が強みとなる。
データセンター分野では、すでに民間主導の大きな動きがある。全羅南道政府は、LGグループ創業家出身のブライアン・ク氏らが共同設立した「ストック・ファーム・ロード(Stock Farm Road)」との間で、2028年の完成時に3ギガワットのコンピューティング容量を目指す施設の建設に関する覚書(MOU)を締結した。初期投資額は100億ドル(約1兆6200億円)を超え、最終的には350億ドル(約5兆6700億円)規模に達する可能性があり、実現すれば容量ベースで世界最大のAIデータセンターとなる。
物理的AIの分野でも、すでに別の提携が動き出している。NVIDIAと現代自動車グループは約30億ドル(約4860億円)を投じて、NVIDIA AIテクノロジーセンターや現代自動車グループ物理的AIアプリケーションセンターの設立を進めている。また、NAVER Cloudは、ソブリンAIおよび物理的AIのワークロード向けに、6万個以上のNVIDIA Blackwell GPUを導入することを表明している。
■地理的立地を巡る政治的議論
今回の発表で最も政治的な議論を呼んでいるのが、半導体クラスターの建設予定地である。湖南地域(光州や全羅南道を含む)は野党「民主党」の強固な地盤であり、選挙データによると、李在明大統領は2025年6月の大統領選において同地域で約85%の得票を得ていた(全国での得票率は49.42%)。
与党「国民の力」は発表前、半導体投資の決定は選挙区の地理ではなく、電力供給、水源、物流、サプライヤーネットワークなどのインフラ要件に基づいて行われるべきだと主張した。同党の朴成勲(パク・ソンフン)報道官は「半導体工場をどこに建設するかは、大統領ではなく企業が決めるべきだ」と批判した。
これに対し、李大統領は週末にX(旧Twitter)への投稿で反論し、前政権下で実施された国家先端戦略産業特区の選定において、光州と全羅南道が半導体部門で最高評価を得ていた実績を指摘した。「南西部に半導体産業のエコシステムを構築することは、特定地域への優遇ではない。政府の全面的な支援のもと、関連企業の決定を通じて最も合理的な半導体産業センターを追加で創設するものだ」と主張している。
■規制基盤と米国とのパートナーシップ
今回の計画は、2025年初頭から構築されてきた規制および外交的基盤の上に成り立っている。韓国では2026年1月22日に「AI基本法」が施行され、アジアでいち早く包括的なAI法制を整備した国の一つとなった。同法は、高リスクAIアプリケーションに対する規制の明確化を図る一方で、AIデータセンターや研究インフラを支援する政府の権限を定めている。
さらに、韓国が米国から「ティア1(第1級)パートナー」に指定されたことで、韓国企業は米国の輸出規制下でも最先端のAIチップに制限なくアクセスできるようになり、アジアの他国に対して優位な立場を築いている。このパートナーシップを象徴するように、2025年10月のAPECサミットにおいて、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは、韓国政府機関、サムスン、SKグループ、現代自動車グループ、NAVER Cloud向けに計26万個以上のNVIDIA GPUを配備することを発表した。フアン氏は「韓国の工場が洗練された船舶、自動車、半導体、電子機器で世界をインスパイアしてきたように、今や韓国は世界的な変革を推進する新たな輸出製品として『インテリジェンス』を生産できる」と述べていた。
■立ちふさがるインフラの壁
今回の発表は強力な資金力と政治的コミットメントを示すものだが、技術的な現実はより厳しい。最先端の半導体工場(ファブ)を建設するには、1棟あたり200〜400メガワットの安定した電力が必要であり、これは隣接するAIデータセンターの需要を考慮する前の数値である。さらに、工業規模の超純水、特殊ガスやフォトレジストの強固なサプライチェーン、そしてナノメートル規模の製造プロセスに対応できる訓練された人材も不可欠となる。
これらは短期間で容易に整備できるものではない。マッキンゼー(McKinsey)の報告書によると、新たな半導体エコシステムを構築する際には、既存の拠点と同様の基本要件に直面することになり、新しい地域で有能な労働力と適切なインフラを構築することは、数十年にわたる投資において最も困難な課題の一つであると指摘されている。ロイター(Reuters)が引用した業界専門家は、ソウル首都圏以外への分散はインフラのボトルネックを緩和する可能性があるものの、最先端ファブに必要な要素が急増するAI需要に追いつくほど迅速に整備されるかは不透明だと警告している。
スケジュールの圧力も現実のものとなっている。韓国の半導体輸出は2026年5月に前年同月比169%増の372億ドル(約6兆264億円)に達し、月間として過去最高を記録した。この数字を牽引しているメモリのスーパーサイクルは、現在進行中のAIインフラ投資と、すでに年内分が完売しているHBMの供給状況によるものである。今回発表された投資が、新しい湖南クラスターからの量産として結実するのは、早くても2020年代後半になるとみられる。
それでも、今回の発表が持つ意味は大きい。サムスンとSKハイニックスに対し、既存のソウル首都圏だけでなく、新たな地方拠点への投資を促す公式な枠組みを確立したことで、韓国のAIハードウェアサプライチェーン全体の容量を拡大し、戦略的な国家資産としての地位を強化することになる。
■注目ポイントQ&A
●韓国の6490億ドル(約105兆円)のAI投資計画には何が含まれますか?
主にサムスングループが10年間で投じる1000兆ウォン(約6490億ドル/約105兆1380億円)の投資公約がベースとなっています。これにはサムスン電子の半導体やAI工場、サムスンディスプレイ、サムスンSDIのバッテリー、サムスン電機の先端パッケージング事業が含まれます。さらにSKグループの投資計画や、政府の国家成長ファンドなどによる直接支出も加わります。プロジェクトは「湖南地域の半導体クラスター」「複数地域でのAIデータセンター拡張」「ロボティクスなどの物理的AI」の3つの柱で構成されています。
●高帯域幅メモリ(HBM)とは何ですか?なぜAIにおいて重要なのでしょうか?
HBMは、DRAMを垂直に積層することで、従来のメモリを遥かに凌駕する速度でデータをAIプロセッサに転送する技術です。標準的なDDR5が64ビットのデータバスを使用するのに対し、次世代のHBM4は32倍広い2048ビットのバスを使用し、毎秒最大2テラバイトの帯域幅を実現します。膨大なパラメータを処理するAIの学習・推論において、プロセッサの処理能力を最大限に引き出すために不可欠な技術です。サムスン電子とSKハイニックスが世界生産の約80%を占めており、韓国はこの分野で強力な主導権を握っています。
●新しい半導体クラスターの立地が議論を呼んでいるのはなぜですか?
建設予定地である南西部の湖南地域が、李在明(イ・ジェミョン)大統領の支持基盤(2025年大統領選で約85%の得票率)であるためです。与党「国民の力」は、立地選定は政治的意図ではなく、電力供給、水源、物流、サプライヤーネットワークなどのインフラ条件に基づいて企業が決定すべきだと批判しています。これに対し李大統領は、前政権時の政府評価で同地域が半導体部門で最高評価を得ていた実績を挙げ、特定地域への優遇ではなく合理的な決定であると反論しています。
●ソウル首都圏以外の地域に、計画通りのスケジュールで半導体クラスターを建設することは可能ですか?
最先端の半導体工場には、1棟あたり200〜400メガワットの安定した電力、大量の超純水、専門サプライヤーのネットワーク、そして高度な技術人材が必要であり、これらを短期間で整備するのは容易ではありません。業界専門家からは、新地域でのインフラ整備が現在のAI需要の急増に追いつかない可能性が指摘されています。今回発表された投資が実際の生産量として結実するのは早くても2020年代後半とみられており、現在のHBM供給不足の解消ではなく、2030年代以降の需要を見据えたものになるとみられます。
元記事: South Korea Unveils $649B Samsung-Led AI Push Into Chips, Data Centers, Robots
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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