ソープBOXレースからEV車を考える

2023年5月10日 08:47

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bZ4Xプロトタイプのベアシャシ 搭載するのは3社共同開発E-Axle(画像使用許諾済)

bZ4Xプロトタイプのベアシャシ 搭載するのは3社共同開発E-Axle(画像使用許諾済)[写真拡大]

●ソープボックスレース

 ソープボックスレースという競技を、バラエティ番組等で見たことがあるかも知れない。

【こちらも】ネット民のEV議論に情報提供 その5 #EV車の問題点 経験不足なメーカー 途上国も忘れるな

 よくあるのは、坂道を転がって来る手製のカートに乗った、仮装したコメディアンやタレントが、坂の途中で振り落とされたり、無人で転がっていくカートを、慌てて追いかけたりする場面だ。

 ソープボックス(Soapbox)は、エンジン等の動力を持たず、原則として重力のみを動力源として走行する車両、またはそれを用いて行うレースのことを言う。

 基本的には動力を持たない「1人乗りの四輪カート」形状をしていて、動力を持たない車両なのに、何故か「モータースポーツ」の一種に分類される。

 競技としては坂道の上から下り道を走行する。

●真面目に分析すると

 動力は、坂道を転がり落ちていく重力と、スタート時にチームメンバーがカートを押すことで得られる推進力のみだ。

 そんなカートの性能は、ドライバーの技量よりも「シャシー性能」の優劣で決まる。

 ドライバーはコース取りと、体重移動等のテクニックを駆使するが、勝負を左右する最大の要件は、直進性、操縦性といった車体装置の優劣による。

●動力源を搭載すると

 こんなソープボックスに、もし主催者から「完全に同一仕様の動力源」が提供されれば、この動力源をコントロールする関係から、ドライバー技量が多少貢献比率は多くなるが、最終的には、やはり「シャシー性能」が決定要因となることは間違いない。

 『「ネット民のEV議論に情報提供 その5 #EV車の問題点 経験不足なメーカー 途上国も忘れるな」(2023年3月2日付)の「安物クオーツ腕時計とは違う」』で、銘柄不明の安価なクオーツ時計を例に挙げたが、時計の心臓部とも言える「ムーブメント部分」に「日本製のクオーツ部品」を採用すれば、ケースや文字盤部分とバンド部分を適当に見繕っても、「時計」として成立し、生命には影響しない。

 しかしEV車は、クオーツムーブメントに相当する、まともな心臓部を搭載しても、生命を預ける「自動車」として成立する訳では無いのだ。

●心臓部「E-Axle」

 E-Axleとは、EV車が「走る」ために必要な主要部品を1つにまとめ、パッケージ化したもので、主にギア、モーター、インバーターといった部品から構成される。

 パッケージ化することで全体が小型軽量になり、「省スペース」「電費の向上」「低コスト化」といった効果を生み出すことを目的としたものだ。

●EV車メーカーの動力源

 例えば、トヨタ自動車が市場投入するする新型EV『bZ4X』に搭載されるE-Axleは、BluE Nexus(アイシン精機45% デンソー45% トヨタ10%出資)、アイシン、デンソーの3社が、高い動力性能と小型化を実現し、車両の電費向上に貢献する目的で共同開発したものが搭載される。

 主要EV車メーカーは、各社それぞれのE-Axleを搭載するのに対して、現在世界で乱立している新興EV車メーカーが、全て自社で開発することは不可能だ。

 勿論、最下層レベルのものは、適当に汎用モーターを見繕った様なシロモノまで存在するが・・。

 しかしある程度まともに取り組もうとする企業は、モーター専業会社から購入することになる。

●まともな心臓部の確保

 例えば、日本には、「ニデック株式会社(NIDEC CORPORATION)」(2023年4月1日、「日本電産株式会社」が社名変更)に代表される優秀なモーターメーカーが存在する。

 またE-Axleの形態を採らずとも、実績がある優秀な単体モーターのメーカーも、多数存在する。

 海外の新興企業が、新規にEV車メーカーの名乗りを上げたい場合、もし彼等がニデックからE-Axleを購入することが出来たなら、心臓部に関しては1級品を入手出来ることになる。

 勿論、供給を受けることが出来るか否かは、供給元の判断次第ではある。供給元としても、信用が担保出来ない相手先には供給を拒むだろう。

 また購入量の多寡等で、購入価格が変動するのは当然で、コスト面で成立するか否かの問題もある。

●まともな車体が造れるか

 もし、E-Axleを購入することが可能だった場合、そこで問題となるのが、まともな車体構造部分を造ることが可能か否かである。

 新興EV車メーカーとして、それなりの台数を販売してEV車の代名詞的に浸透し、先頭グループを形成している会社でさえ、半世紀も以前に発生して、今やまともな自動車メーカーなら考えられない様な、フロントボンネットフードが突然開いて、前方視界を失うといった、極めて初歩的なトラブルのリコールを引き起こしたりする。

 以前から内燃機関で実績を積み重ねて来た自動車メーカーにとっては、想像出来ない様な低次元の事象なのだ。

 ソープボックスレースの様な簡単なお遊びレースでも、車体設計で大きな差が出る様に、まともなEV車を造って「自動車」のレベルまで達するには、素人がイメージする様に簡単には行かない、ということを認識すべきだろう。(記事:沢ハジメ・記事一覧を見る

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