ヒトのサイズに近いバイオ人工肝臓の移植実験に成功 世界初 慶大

2021年12月24日 17:34

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バイオ人工肝臓の作製方法(画像: 慶應義塾大学の発表資料より)

バイオ人工肝臓の作製方法(画像: 慶應義塾大学の発表資料より)[写真拡大]

 末期肝不全に対する治療法は、現時点では移植治療しかなく、ドナーの慢性的な不足が課題となっている。そこで臓器の再生医療に大きな注目が集まっているが、ヒトに適応できる大きさの臓器再生は技術的な障壁が高かった。

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 慶應義塾大学の研究グループは23日、生きたブタの細胞を用いて、ヒトの大きさに近いバイオ人工肝臓を作製する技術を確立したと発表。同大はこれまで、動物臓器から有効成分を取り出す「脱細胞化」という方法に着目して、研究に取り組んでいた。

 「脱細胞化」処理では、まず動物臓器から細胞を洗い流して、コラーゲンなどの有効成分だけを残し臓器骨格構造が取り出される。今回確立された手法では、取り出した骨格構造における血管や胆管などが多く保たれていることが示されている。そして、生きた動物の細胞を骨格構造に充填することで、臓器が作製される。今回の研究における実験では、ブタの生きた肝臓細胞と血管内皮細胞が肝臓骨格に注入されてバイオ人工肝臓が作製された。

 このバイオ人工肝臓は、ヒトの肝臓の大きさに近く、肝臓としての機能も十分に有していることが確認された。その証拠として、アルブミンや尿素、凝固因子などの肝臓で生成される物質がバイオ人工肝臓から検出されている。また、慢性肝不全に陥ったブタにこのバイオ人工肝臓を移植したところ、肝機能が改善されていることも認められたという。移植から1カ月たった段階でも充填した細胞は生存しており、胆汁の産生も始まっていた。

 今回の研究では、ブタの細胞が用いられているが、同様の方法でヒトiPS細胞から作られた細胞を充填することも可能となり得る。それが実現すれば、従来の再生医療技術で課題とされてきた「大きさのギャップ」が一気に埋まり、実用化できるようになる。そのため、肝不全の治療に用いるバイオ人工肝臓の他にも、様々な臓器への応用に関しても大いに期待される。

 今回の研究成果は、22日付の「American Journal of Transplantation」誌のオンライン版に掲載されている。

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