ブラックホールに吸収される恒星からのニュートリノを初検出 DESYの研究

2021年2月23日 16:34

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 ニュートリノと呼ばれる素粒子の存在を知っているだろうか。日本では小柴昌俊氏が超新星爆発で放出されたニュートリノを世界で初めて検出し、その功績が認められて2002年にノーベル賞を受賞したため、当時はその存在が世の中に広く認識された。

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 だが質量が非常に小さく、他の粒子とほとんど相互作用がない上に、壁や星を難なくすり抜けてしまうため、それを捉えることは非常に困難だ。そのため現在では、世間の話題になかなか上りにくい素粒子でもある。

 恒星がブラックホールの近くを通過する際に、潮汐破壊現象を起こし、その結果放出されたニュートリノに関するDESYの科学者による研究論文が、2月22日にネイチャーアストロノミー誌で公表された。DESYとはDeutsches Elektronen-Synchrotron(ドイツ電子シンクロトロン)の略で、高エネルギー加速器・高エネルギー物理学に関する研究機関の名称である。

 それによれば2019年4月9日に恒星の潮汐破壊に伴う閃光が初めて観測され、その約半年後の同年10月1日に、この閃光が観測された場所から飛来したニュートリノが世界で初めて検出されたという。恒星が巨大ブラックホールに吸い込まれる際に起きる潮汐破壊現象は、それほど珍しいものではないが、その現象と同期してニュートリノが検出されたのは、科学の世界では非常に画期的な出来事である。

 このニュートリノが地球への旅に出たのは、今から約7億年前だ。2MASX J20570298 + 1412165という識別記号が付与された無名の銀河にある、太陽質量の3千万倍という巨大ブラックホールに恒星が吸い込まれ、潮汐破壊現象を起こした時であった。その頃の地球はまだ多細胞生物が誕生して間もない頃であった。

 2019年4月9日に観測された閃光から、半年遅れでニュートリノが観測された事実は、光より7億光年の距離を約半年長くかかって地球にたどり着いたことを物語っており、ニュートリノの移動速度が微妙に光より遅いことを示している。だが、そのエネルギー量たるやすさまじいもので、CERNの大型ハドロン衝突型加速器で達成できる最大粒子エネルギーの、少なくとも10倍以上のレベルにあったという。

 今回の発見で、ニュートリノの研究には弾みがつくことだろう。とらえどころのない粒子が、あらかじめどこからやって来るのかが分かれば、人類としても万全の態勢で観測準備ができるようになるはずだからだ。(記事:cedar3・記事一覧を見る

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