人類による台湾から琉球列島への進出、意図的な航海が濃厚 東大らの研究

2020年8月6日 08:23

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家族が乗船した舟の偶然の漂着と、同じ人数が乗った若者による意図的な移住でそれぞれ比較した持続可能性。(画像: 東京大学の発表資料より (c) 2020 井原 泰雄)

家族が乗船した舟の偶然の漂着と、同じ人数が乗った若者による意図的な移住でそれぞれ比較した持続可能性。(画像: 東京大学の発表資料より (c) 2020 井原 泰雄)[写真拡大]

 約20~30万年前にアフリカ南部ボツワナで誕生したホモ・サピエンス(現世人類)。5万年前以降に生誕地アフリカを飛び出し、ヨーロッパやアジア、アメリカ大陸など世界中に広がっていったとされる。

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日本列島に進出したのは約3万8千年前以降。考古学などにより、現世人類は優れた航海技術を持っていたことが明らかになっているが、どのように世界最大の海流・黒潮が流れる海を乗り越え、列島に渡来したのかは全容が明らかになっていない。

 そんな中、東京大学大学院理学研究科と国立民族学博物館、国立科学博物館の研究者らが、現世人類の子孫が集団として持続する可能性を、人口シミュレーションにより予測したところ、台湾から琉球列島への進出は意図的な移住であったと結論付けた。

 丸木舟を使って現生人類が琉球列島への航海を成功させた過程を探る過去の研究(国立科学博物館主催)では、目的を持って渡航していたとされており、今回の研究結果は進行中の人類進化学研究の知見をより強化する形となった。

 現世人類が日本へ進出してきた渡来ルートは、ロシアの極東サハリンから北海道に至るルート、台湾から琉球列島へ北上するルート、朝鮮半島から対馬を経て北部九州へと至るルートの3つがあったとされる。当時は氷期で海水面が現在より80メートル低かったことから、地続きだった北海道ルートを除いた、残る沖縄、対馬の両ルートは海路。これにより、現世人類は航海をし、日本列島に進出してきたと考えられている。

 遺跡の年代値や発掘された人骨化石から、沖縄ルートが最古の航海ルートとみなされ、現世人類がどのように沖縄ルートを渡ったかを探る研究が近年進められてきた。

 最新研究は2019年夏に行われた「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」。丸木舟で台湾から与那国島へと渡る実験航海が実施された。45時間をかけた航海は成功に終わり、プロジェクトの責任者は「優秀な漕ぎ手と丸木舟があれば、黒潮に流されずに海を渡れる」と断じたほか、「偶然や冒険の先に沖縄列島に辿り着いたのではなく、計画的な移住だったに違いない」としている。

 一方で、現世人類による航海が偶然の漂着だった可能性が捨てきれないほか、正確な航海方法を描ききれていないなど、課題が残る。そこで、実験航海のプロジェクトに取り組んだ国立科学博物館の海部陽介研究グループ長を含む研究者4人が、数理モデル解析の1つでもある人口シミュレーションを使い、全容解明に取り組むことにした。

 実験では、移住者の子孫の出生率が死亡率を上回る持続可能性を、人口シミュレーションで測定。狩猟民族が家族単位で居住地を移ることから、家族が乗船した舟の偶然の漂着と、同じ人数が乗った若者による意図的な移住を比較検討した。

 すると、後者の意図的な移住は、偶然の漂着と比べて持続可能性が一貫して高かった。漂着する人数が4人、6人、8人、10人のケース別に見ても、意図的な移住の持続可能性が高い傾向は変わらなかった。

 沖縄ルートは、黒潮を含む複雑な海流があり、偶然の漂着であっても集団の持続が可能となる10人程度の漂着は、難しいと考えられている。そのため、研究者らは、台湾から琉球列島への移住は「(少人数でも生存できる)意図的な移住であった」とし、計画的な植民地化を図る狙いで渡航した可能性が高いと強調した。

 研究結果は、文化人類学の権威にあたるオランダ・エルゼビア社発行の「journal of human evolution」に掲載された。(記事:小村海・記事一覧を見る

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