京大ら、集積化可能な量子もつれ光源を実現 量子コンピューターの小型化加速

2020年6月11日 17:05

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集積可能な半導体素子量子もつれ光源の想像図(写真:京都大学の発表資料より)

集積可能な半導体素子量子もつれ光源の想像図(写真:京都大学の発表資料より)[写真拡大]

 計算機の大幅な高速化が期待される量子コンピューター。実用に向け、半導体チップの小型化が不可欠だ。京都大学は10日、量子コンピューターの計算に必要な「量子もつれ」と呼ばれる状態を、集積化可能な半導体チップとして実現することに成功したと発表した。

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■小型化が困難だった量子もつれの発生装置

 量子コンピューターは、電子や光子等のミクロな現象に基づいて計算を実行する装置だ。現在普及しているコンピューターと比較し、飛躍的な計算能力が実現できる。

 電子や光子といった量子は、マクロな世界の物体とは異なる振る舞いをする。こうした量子の振る舞いや量子もつれのような量子同士の相関を制御することが、量子コンピューターの計算に求められる。

 量子もつれ状態を発生させる光源として従来用いられてきたのが、「非線形光学結晶」と呼ばれる特殊な石だ。こうした結晶に光を入射すると非線形的に応答し、結晶中で2つに分かれた光が異なる屈折率で伝搬する。

 しかし非線形光学結晶の大きさは数センチメートル程と大きく、集積回路の作製に必要なシリコン半導体素子と作製方法が異なる。そのため、量子もつれ状態を発生させる光源の小型化や集積化は困難だった。

■ミリメートル長の素子が実現

 京都大学は、香港城市大学、南京大学、中国科学院などの研究者から構成される国際共同グループと共に、量子もつれ状態を発生させる光源用の素子として、高屈折率コントラストガラスを用いた。

 研究グループは、この材料で2つの光子を発生できる共振器を作製。この共振器は、一般的なシリコン半導体素子の作製と同じプロセスや装置で作製可能という。共振器の直径は約1.2ミリメートルで、従来の共振器に比べ高効率化も実現した。

 今回実現された光源は、光通信において最も用いられている波長域にて、同種の素子では世界最大の波長域とモード数を実現しているという。

 量子もつれ状態を発生させる光源は、眼底の診断や量子暗号通信、光量子コンピューターなどへの応用が期待されている。研究グループは、小型化の実現により将来的にはスマートフォンへの実装も可能だとしている。

 研究の詳細は、米国際学術誌Applied Physics Lettersにて4日にオンライン掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る

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