「大谷翔平選手に球拾い」で避けられる日本企業という話

2019年11月25日 17:23

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 経営競争基盤CEOの冨山和彦氏へのインタビュー記事で、こんな話がありました。
 「優秀な人材が働きたいと思う会社が日本企業には少ない」

 冨山氏は、例えば日本の大企業のホームページで、「役員一覧」に男性ばかりが並んでいて、そのほとんどが60~70代ということがあり、それを優秀な外国人女性が見たら、「この会社でいくら頑張っても高いポジションには就けない」と判断するでしょう。
 これを、「わが社は女性、外国人、若者を差別します」とアピールしているようなものだと言っています。

 また、もしも大学院ですごい論文を書いた新入社員がいても、「まずは現場を知りなさい」と言われて地方の工場に配属されたり、社是や社歌を唱和させられたり、報連相やTQC(統合品質管理)を教えられたりしますが、これは、大谷翔平選手が入ってきたのに「野球がうまいのはわかるけど、まずは球拾いと片付けからやって」というようなものだとしています。

 どんな人でも、まずは下積みからということでしょうが、この記事を見て思い出した話が「下積み不要論」です。
 私は数年前に、あるテレビ番組でこのテーマに関するコメントを求められ、そこで話したのは「下積みには“良い下積み”と“悪い下積み”がある」ということでした。

 その時はこんな定義をしました。
 「良い下積み」とは、
 ・基本知識やスキルを学ぶためのもの(職種によっては修行といわれるかもしれない)
 ・将来により大きな仕事をするために実務を通じて学ぶというもの(例えば優れた上司や先輩の下で仕事の補佐をするなど)
 ・出世後や独立後、その他直接の仕事に役立つもの(普遍的に必要なものを学んでいる)

 反対に「悪い下積み」とは、
 ・序列の中で縛って、自分が抜かされないためのもの(早く育っては困るから教えない)
 ・安価で従順な労働力を確保するために「下積み」という言葉でつなぎとめているもの
 (どんなに優秀でも重要な仕事を任せず、雑用ばかりが振られる)
 ・経験が直接の仕事には役に立たないもの(役に立ったかどうかは個人の主観に限られる)
 というものですが、この記事での話も、どちらかと言えば「悪い下積み」に当てはまるものです。

 ただ、以前に定義した「悪い下積み」とは、一つ異なることがあります。それは「教える上司、先輩の側には悪意がなく、どちらかと言えば良かれと思ってそうしている」という点です。
 「抜かされると困るから教えない」といったことはなく、自分は「会社のルールとプロセスの中で育てられた」と思っていて、その成功体験から「他の人もそうした方が良い」と考え、順序だてた現場経験のようなプロセスが必要だとしているのです。

 この思いや成功体験自体は否定するものではありませんが、昨今の環境で大きく違うのは、「その会社にずっと勤め続ける前提はない」ということです。特に大企業の考える「下積み」の中には、「自社のしきたりになじむこと」がまだかなりの比重で残っています。しかし、それを一生懸命身に着ける意義は、今となってはとても少なくなっており、にもかかわらず、自分たちの経験と主観に相手のことを当てはめて、同じプロセスを踏ませようとしています。

 もう一つ、教える側に「新入社員が経験ある自分よりも優秀なわけがない」という、潜在的な思い込みがあるように思います。記事の中にも「日本企業はいまだに“採用してやる”という上から目線がある」とされていましたが、そことも共通しているのではないでしょうか。

 それぞれの人材には、それぞれ身に着けたことの違いがあります。そこで考えるべきは、「その人材が今持っている能力を最大限に活かすこと」であり、「力が発揮しやすい環境をいかに作るか」であり、「早く大きく力を伸ばすためにどうするか」ということです。

 「優秀な人材」から働く場として選ばれるためには、変えなければならないことがあります。

※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら

著者プロフィール

小笠原 隆夫

小笠原 隆夫(おがさわら・たかお) ユニティ・サポート代表

ユニティ・サポート 代表・人事コンサルタント・経営士
BIP株式会社 取締役

IT企業にて開発SE・リーダー職を務めた後、同社内で新卒及び中途の採用活動、数次にわたる人事制度構築と運用、各種社内研修の企画と実施、その他人事関連業務全般、人事マネージャー職に従事する。2度のM&Aを経験し、人事部門責任者として人事関連制度や組織関連の統合実務と折衝を担当。2007年2月に「ユニティ・サポート」を設立し、同代表。

以降、人事コンサルタントとして、中堅・中小企業(数十名~1000名規模程度まで)を中心に、豊富な人事実務経験、管理者経験を元に、組織特性を見据えた人事制度策定、採用活動支援、人材開発施策、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務の支援など、人事や組織の課題解決・改善に向けたコンサルティングを様々な企業に対して実施中。パートナー、サポーターとして、クライアントと協働することを信条とする。

会社URL http://www.unity-support.com/index.html

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