全体最適で考えるべき「事務処理コスト」

2019年10月7日 17:21

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 消費税が10%に上がり、それに関する話で私が何かと気になるのは、「軽減税率」の話です。
 本来の目的は、「食品などの生活必需品にかける間接税は、低所得者の負担率が高くなる逆進性があるため、これを避けるための措置」です。その趣旨自体は理解できるところです。

 ただ、いざ導入されてみると、軽減税率の対象か否かの切り分けが、あまりにも複雑でよくわかりません。イートインか持ち帰りかの区別が一番面倒なようですが、今日見たテレビでも、例えばオロナミンCは栄養ドリンクなので税率8%、リポビタンDは医薬部外品なので10%なのだそうです。こうなってしまうと、本来の目的が一体何なのかという感じになってしまいます。

 もっとも、これはすでに軽減税率を導入している諸外国でも、同じような状況があるようで、ミネラルウォーターがぜいたく品扱いで高い税率だとか、コーヒーが朝だけ非課税だとか、ベーグルをカットして渡すかそのまま渡すかで税率が違うとか、ビスケットやマシュマロは非課税だが、チョコレートやアイスクリームはぜいたく品として課税されるとか、いかにも関係者の条件闘争の痕跡が見えたりします。

 私が一番問題だと思うのは、この複雑な税率を切り分ける会計処理が、すべて納税する企業側に委ねられていることです。会社にとってはコストが増えるだけで、何もメリットがない余計な事務処理が増えることは、ただの無駄でしかありません。
 税率アップに事務処理コストまで付加されて、実質的には上がった税率以上の負担を伴います。事務処理コストの増大は生産性低下につながりますが、一方では成長戦略で企業の生産性向上が言われているわけで、この矛盾する感じは何なのだろうかと思います。

 この「事務処理コスト」は、企業内部の手続きの中でもしばしば問題になります。そのほとんどは、そもそもそれがなぜ必要かという目的を見失っていて、手続きや事務処理が形骸化したり慣例化したりしています。

 ある会社であったことですが、出張に際して重複部分が多い二種類の書式があり、それぞれ提出義務がありましたが、「これがなぜ両方必要なのか」と尋ねると、「以前から提出してもらっているから」との答えでした。しかしそれでは答えになっていません。
 書式が二つある理由を追いかけてみると、結局は単に提出先の部署が違うだけで、それぞれで情報共有すれば、書式が二つ必要ではありませんでした。どうもそれぞれの部署が、自分たちの都合だけで手続きを定めたらしく、それがそのまま検証されることなく、ずっと続いていただけのことでした。

 こういった「無駄な事務処理コスト」の話は、効率化の意識が高い企業でも、結構な頻度で存在しています。それが起こってしまうきっかけになるのは、全体最適が考慮されないままで手続きが決められてしまうことで、そもそもの目的や必要性について、少し広めの視野での確認を怠っていることにあります。

 今回の軽減税率も、会社の「事務処理コスト」が増えて生産性が下がり、巡り巡って納税額も下がって、増税の意味をなさなくなるような事態にならないとも限りません。
 「事務処理コスト」を狭い視野で見ていると、痛い目を見ることが多々あります。全体最適で考えると、減らせる無駄はまだまだたくさんあるはずです。

※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら

著者プロフィール

小笠原 隆夫

小笠原 隆夫(おがさわら・たかお) ユニティ・サポート代表

ユニティ・サポート 代表・人事コンサルタント・経営士
BIP株式会社 取締役

IT企業にて開発SE・リーダー職を務めた後、同社内で新卒及び中途の採用活動、数次にわたる人事制度構築と運用、各種社内研修の企画と実施、その他人事関連業務全般、人事マネージャー職に従事する。2度のM&Aを経験し、人事部門責任者として人事関連制度や組織関連の統合実務と折衝を担当。2007年2月に「ユニティ・サポート」を設立し、同代表。

以降、人事コンサルタントとして、中堅・中小企業(数十名~1000名規模程度まで)を中心に、豊富な人事実務経験、管理者経験を元に、組織特性を見据えた人事制度策定、採用活動支援、人材開発施策、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)業務の支援など、人事や組織の課題解決・改善に向けたコンサルティングを様々な企業に対して実施中。パートナー、サポーターとして、クライアントと協働することを信条とする。

会社URL http://www.unity-support.com/index.html

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