従来より約10倍厚い有機ELを開発 既成概念を覆す 九大などの研究

2019年8月1日 06:36

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研究グループが開発した有機ELの構造(写真:九州大学の発表資料より)

研究グループが開発した有機ELの構造(写真:九州大学の発表資料より)[写真拡大]

 ディスプレイや照明への使用が期待される有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)。九州大学は7月30日、従来よりも約10倍もの厚さをもつ有機ELの開発に成功したと発表した。従来よりも電気が流れやすくなり、安価な製品の実現が可能になるという。

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■自ら発光可能な有機EL

 有機分子はエネルギーを照射すると、正と負の電荷が結合し、「励起子」と呼ばれる粒子状態になる。不安定なエネルギー状態はしばらくして安定状態へと遷移すると、発光現象が起きる。この発光現象を示す素子が有機ELと呼ばれる。

 有機ELには発光のしやすさを示す「発光量子収率」が高いというメリットがある一方、電気を流しにくいというデメリットがある。そのため、髪の毛の太さの800分の1程(約100ナノメートル)に有機ELを薄膜化することで、電気を強制的に流す必要があった。だが薄膜の場合、大面積で均一に形成させるのが難しいという問題があった。

■太陽電池にも活用されるペロブスカイトで厚さが増す

 九州大学、科学技術振興機構(JST)、キヤノン財団等から構成される研究グループは、高い発光効率を示すイリジウム化合物や熱活性化遅延蛍光化合物を発光層に用いた。重原子を含む化合物(錯体)のなかでも、イリジウムは高い発光効率から有機ELの材料として注目されている。他方、熱活性化遅延蛍光化合物は、すべての励起子を発光するよう変換する役割を果たす。このため、電気エネルギーがすべて発光に変換されるという。

 研究グループはまた、有機ELを厚くするために正と負の電荷を発光層へと伝える輸送層に、ペロブスカイト構造をもつ化合物を用いた。ペロブスカイト(灰チタン石)と結晶構造が同じ化合物は、エネルギー変換効率が高いことで知られる。今回使用された金属ハライドペロブスカイト層は、太陽電池の光吸収層やLEDの発光層、レーザーデバイスの活性層などに活用されているという。

 今回、有機EL中のペロブスカイトの総膜厚を2,000ナノメートルに増加させた。従来の有機ELよりも10倍以上厚いにもかかわらず、優れた発光効率と駆動電圧、耐久性を実現。またペロブスカイト層の膜厚を調整することで、発光スペクトルを角度に依存させないことにも成功した。これにより、斜めから見ても色味が変化しない高性能ディスプレイのが作製可能になるという。

 研究グループによると、有機ELには薄い膜を用いなければならないという30年来の既成概念を、今回の開発により覆すだろうと期待を寄せている。開発した有機ELの技術は、レーザーやメモリ、センサーなどほかの有機デバイスにも応用可能だという。

 研究の成果は、英科学誌Natureオンライン版にて7月30日に掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る

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