フォード・マスタング(2) GTでもスポーツカーでもないパーソナルカー

2018年8月2日 11:27

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■パーソナルカーと言われたマスタング

 日本の「トヨタ生産方式」が確立され始めるころ、登場したのが「フォード・マスタング」であり、「トヨタ・セリカ」だった。当時、「パーソナルカー」と言われたジャンルであり、スポーツカーのフェアレディZとは決して一緒にしないでほしい。「オプション部品で自分なりの車を造る」との考え方を取り入れたものだ。だから「パーソナルカー」なのだ。一方でフェアレディZは、フェアレディと言われたオープンスポーツカーのクローズドボディーバージョンとして始まったものだった。量産車の部品を多く使って安く作り上げる手法は同じだった。しかし、高性能化の考えでは明らかな違いがあった。それは、当時すでにエンジン形式でSOHCとしていたことだ。これは明らかにヨーロッピアン・スポーツと言ってよい考えである。

【前回は】フォード・マスタング(1)SUV人気に抗せるアメリカン・イメージリーダーのパーソナルカー

 ソレックスキャブレター、ポルシェ・サーボシンクロ5速トランスミッション搭載など、明らかにマスタングと高性能化の手法が違っており、ヨーロッパのスポーツカーの方向性だった。スカイライン2000GTでも日本人らしさが出てくることになり、現在のニッサン・GT-Rをムスタングと同一ジャンルと見る者はいないだろう。SUVのようにあいまいに囲ってしまう現代では、それでも良いのかもしれない。SUVは、ウエストラインの高い太った胴体が特徴で、フェアレディZもマスタングも同じファストバックだからだ。

■GTとスポーツカーの違い

 たしかに、量産車の部品を多く使って安く作る考え方は同じだが、マスタングと一緒に語るなら、フェアレディZではなく「スカイライン2000GT」としてほしい。決して、スタイルが「ファストバック」であるから、クーペボディーだからと一緒にしないでほしい。マスタングは「アメリカンGT」の流れを色濃く残しているのだ。「大きいことはいいことだ!」と言って、安い石油を背景にV8・OHVエンジンで8Lまで拡大したエンジン排気量はアメリカ人気質そのものなのだ。

 アメリカ人は、「速く走りたければ排気量をデカクすればいい」と本気で考えていたのだ。操縦性など眼中になく、日本の「初代プリンス・スカイライン2000GT」はこのアメリカ人気質を追いかけ、1500cc直4であった車のボンネットを20cmほど伸ばして、2000cc直6グロリアのエンジンを載せて馬力を上げていたのだ。

 私も親父が買った1500ccスカイライン4ドアセダンを運転したが、これの「鼻を20cm」伸ばして走るのだから、「真っすぐ走ることしか」考えていないのは容易に感じとれた。それがGTなのだ。ワインディングロードを小気味よく駆け抜けるのはイギリス伝統のライトウエイト・スポーツだが、GTはドイツ、イタリアなど速度無制限の道路を遠くまで駆け抜ける車なのだ。

 スティーブ・マックイーンが主演した映画「ブリット」を見てほしい。マスタングもダッジチャージャーもサスペンションセッティングなどお構いなしの車であると分かるはずだ。ワインディングを走るには「やわやわ」で、8Lエンジンのトルクをタイヤが伝えきれずに、白煙を上げながら上下動していることが分かる。私も当時のアメ車に乗ったが、アクセルを開けると後輪タイヤが暴れてホイールスピンを起こして白煙が立ち込め、タイヤが焼ける臭いがしていた。これが、古き良き時代の「アメリカンGT」なのだ。

 次は、「石油ショックの前と後」の価値観の激変を理解しよう。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

続きは:フォード・マスタング(3) それでもマスタングは不滅

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