スバル国交省への報告書(3) スバルの言い分(2) 「組織的関与ではない」

2018年5月10日 06:41

印刷

■項目ごとにスバルの言い分を多少詳細に見てみよう

 (1)組織的関与ではないとするスバルの論理

【前回は】スバル国交省への報告書(2) スバルの言い分(1)品質管理技術については「稚拙」

 排ガス測定値の不適切な「書き換え」が起きた原因のストーリーは、Xbar-R管理図の考え方で従業員の教育が行われてきているため、排気ガス規制についても「個々の車両の異常値が問題となる」と担当者は理解している。しかし、排気ガス測定は微妙な点も多く、社内規定でも1台1台の値をその場で問題とはしていない。
報告書P17
“(1) 燃費測定結果の管理
ア 測定値の取扱い
BR 品質監査 333 は、上記 2.(2)ア(イ)のとおり、JC08 モード燃費管理要領を定めているところ、同要領においては、群馬製作所(本工場及び矢島工場)で製造される完成車両のうち国内向け車両の燃費測定値の取扱いについて、以下のとおり規定している30。
 ① 個々の測定値は、下限管理限界値31以上であること
 ② 検査ロット32毎の平均値は、管理平均限界値33以上であること
 ③ 量産開始日から1年間の検査結果の平均値は、管理平均基準値34以上であること
  したがって、測定値がこれらの基準を満たしている場合には、個々の測定値が諸元値35を下回る場合があったとしても、燃費性能について諸元値を満たす品質が確保されているものと判断される。”

 通常、何らかの測定値が標準偏差を飛び出したときは、異常値であると捉え、原因究明と改善策を行う。その時、原則として組み立てラインは「原因が特定され改善されるまで停止する」こととなる。そのため完成検査で異常と判断されると、後工程から全工程が対象となり、出荷が止まるだけでなく、原因究明で長い時間がかかり、莫大な損害を被ることも起こる。それは同じ不良を二度と出さない(再発防止)ためだ。テスラの状況を見れば分かるはずだ。自動車製造企業では、繰り返せば倒産もあり得るのだ。

 排気ガス測定では、作業方法、条件などの周囲の影響で、ばらつきが出ることが予想されるため、「1台ごとの検査値でアクションする必要がない」と社内規定でしているのだが、月次報告で、「ばらつき」について係長、課長などに対しては、原因を説明することが必要となる。その時、自分の「測定作業の不備」も言い訳しなければならないので、「検査結果以外で、市場に出てからも含めて、不良車として認識されることもない」ため、作業員・班長レベルでデータ改ざんに走った。要するに、ユーザーにも「分かりゃしないので、めんどくさいことを避けた」と言える。

 「係長は班長の経験もあり、書き換えが行われていると予測できていたが、長年の慣習でもあり、問題視しなかった。課長、部長、執行役員、取締役などは知る由もなかった」とした。

 これは不思議な理論、苦しい言い訳で、班長経験者の中から係長に出世し、係長経験者から課長が抜擢されるのが、通常の人事だ。そのため報告書にある調査期間2012年12月~2017年11月よりも前の2002年ごろ、あるいはその前から続く「書き換え」の慣習は、課長以上の中にも担当者・班長時代に実際に行ってきた者もいるはずだ。聞き取り調査の結果で報告書が書かれているのであろうが、「調査不十分」としか言えない。「故意にとどめた」とも感じられる内容だ。スバルの企業としての法的立場を考慮していることがうかがえる。また5年と言う期間であることが、何か法的意味があるのであろう。

報告書P38
“2012年12月以降と2012年11月以前で変化があったと述べる者がいないことからすると、2012年11月以前の測定値の書き換えについても、当社の品質管理上の基準を満たす範囲内で行われていた可能性が高いと考えてよいと思われる。”

 このように2012年12月以前も『基準を満たす範囲内で行われて』とすることに違和感が残る。また係長以上、課長、部長、経営者にも、データ改ざんを知る者がいたと考えるのが自然に思える。さらには、改ざんの動機は多岐にわたっても、報告書の理論とは違って「不良品を隠蔽する目的であった」と考えるのが自然だ。結果として不良品として認定しない社内規定であっても、その動機は不良品の隠ぺいにあり、「排気ガス規制・燃費測定以外の不良」についても、企業組織として「隠蔽体質」であると認識するに十分な仕業だった。

 品質管理の専門家であれば、排気ガス測定の作業が「ばらつきが出る傾向」であれば、本来「作業カイゼン」に向かい、測定作業のばらつきを抑える工夫を目指すべきだと分かるはずだ。それが“ばらつきを許容する方向性であり、測定値の改ざんに走る方向性”は、いったいどんな職場環境であるのかと考え込んでしまう。ありがちな職場モラルではあるが、数十年間、方向性を改めない管理のありようは、自動車メーカーとして考えられない。

 次に、「実際の不良はなかった」とする言い分を見てみよう。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

続きは:スバル国交省への報告書(4) スバルの言い分(3) 「実際の不良はなかった」

関連キーワード

関連記事