近鉄、鹿の侵入防止システム「シカ踏切」でグッドデザイン賞を受賞

2017年11月3日 09:30

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シカ踏切のイメージ(画像:近鉄発表資料より)

シカ踏切のイメージ(画像:近鉄発表資料より)[写真拡大]

 近畿日本鉄道(近鉄)が、2016年5月に近鉄大阪線・東青山駅(三重県津市)付近に導入した鹿の侵入防止システム「シカ踏切」が、グッドデザイン賞を受賞した。1日、都内で授賞式が行われた。

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 シカ踏切は、近鉄が事業主体となり京三製作所、モハラテクニカと共同開発したもの。線路周辺に侵入防止ネットを張り、鹿が線路内に侵入するのを防ぎつつ、獣道に通じる一部区間だけは鹿が通れるようにしておく。通れるようにした場所に、鹿が嫌う超音波を発する装置を設置し、列車の運行時間内は、超音波を発信することで、鹿の通行を抑止する。列車の運転がない時間帯は、超音波の発信を止めることで、鹿は自由に線路を安全に横断できる。2017年3月には、大阪線・室生口大野駅付近(奈良県宇陀市)にも追加で導入している。

 鹿や猪が線路内に侵入し、電車と接触する事故が各地で多発しており、鉄道会社にとって深刻な問題となっている。JR西日本は、鹿などが嫌うオオカミの尿を使用した薬剤を線路付近に散布することで、動物が線路内に立ち入らないようにする対策を行っている。その一方、JR東海は衝突を前提に、山間部の区間で特急電車の先頭に緩衝装置を取り付けている。列車の損傷を防ぎ、運転再開までの時間を短縮することを目的としているが、抜本的な解決とはなっていない。

 鹿が線路に近づくのは、鉄分を補給するために線路をなめる習性もあるとされる。近年は、狩猟者の減少や、過疎化による里山の荒廃の影響で野生動物の行動範囲が拡大しており、接触事故はどの鉄道会社も急増傾向にある。

 東青山駅周辺における鹿との接触事故は、2004年は1件のみであったが、2015年には年間17件まで増加。近鉄全線でも、2008年の事故件数は129件であったものが、2015年には288件まで増加している。2007年以降、東青山駅周辺の線路脇に侵入防止ロープを設置したり、赤色LED灯や通過する車両に鹿避け笛を取り付けるなどの対策を行ってきたが、どれも実効が認められなかった。

 シカ踏切の導入により、接触事故の件数は年間1、2件と激減している。「人間が安全な踏切を必要なように、鹿にも安全な踏切が必要」であり、「鹿の目線で問題をとらえることができたという、デザインにおける視点の重要性を示唆する好例」と、グッドデザイン賞の審査委員も評価しており、今後、年間10件以上の接触事故が起きている地点へ、順次展開を検討するとしている。(記事:松村美風・記事一覧を見る

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