大ヒット原作を実写化『君の膵臓をたべたい』、興収で見ればとりあえず成功?

2017年8月11日 21:50

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膵臓の病気にかかった桜良を演じる浜辺美波(右)と、その秘密を知る「僕」(北村匠海)。病気の女の子だけでなく、少し無茶したい高校生の等身大の感情が表現されている作品だ(c)2017「君の膵臓を食べたい」製作委員会

膵臓の病気にかかった桜良を演じる浜辺美波(右)と、その秘密を知る「僕」(北村匠海)。病気の女の子だけでなく、少し無茶したい高校生の等身大の感情が表現されている作品だ(c)2017「君の膵臓を食べたい」製作委員会[写真拡大]

■夏の大注目作『キミスイ』がスタート!

 7月28日、満を持して実写映画『君の膵臓をたべたい』の上映がスタートした。公開してから初めて出た初動ランキングでは5位となり、さらに興行収入としては8億円を記録。夏休みという激戦区で見ればそれなりのヒット作となっているが、原作からの変更点も多く見受けられる。

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■異例のヒットを生み出した『君の膵臓をたべたい』

 『君の膵臓をたべたい』は住野よるのデビュー作となる小説。2017年2月の本屋大賞では3位にランクインを果たしており、瞬く間にベストセラー小説家となった。異例のヒットから次々と新作を発表し、最新作の『か「」く「」し「」ご「」と「』は20万部を突破している。

 物語としては膵臓の病気を隠している女子高生・桜良の秘密を、目立たない男子高校生の「僕」が知ってしまうというものだ。「僕」は他人とかかわることを避けて生きてきたが、桜良の秘密を知ることで人間と深くかかわって生きることを余儀なくされる。振り回されながらも「僕」は桜良の最後のわがままに付き合い、お互いに成長するというのが大きな流れだ。

 この作品のポイントとしては、「僕」が病気がちの女の子を助けようとしない点。病気になっても最後まで生きようとする桜良を「僕」は最後まで傍観的に見届けようとする。自分のスタンスを変えないまま彼女と触れ合おうとするが、実はお互いに無いものを持っていたから惹かれ合ったのがラストにわかる。主人公のスタンスを崩すことなく、なおかつ意味のある設定になっているあたりは、物語として新しい面白味を実現しているように感じる。

■発売からすぐに実写化

 病気の女子高生と目立たない男子高校生の成長を描いた『君の膵臓をたべたい』だが、実写化においてはストーリーにおいて大きな変更点が加えられた。まず、桜良と深くかかわった「僕」と友人の恭子の2人の大人の物語が描かれている。配役には小栗旬と北川景子という大物キャストを呼んでおり、未来の視点から過去を回想するといった形で物語が進んでいく。それぞれ桜良の死を経験しながら生きている姿が描かれ、原作とは違ったラストが描かれることになった。

 しかし、原作では桜良の死をきっかけに「僕」と恭子が少しずつ近づいていく近い未来が描かれており、より青春の1ページを強調するような内容となっていた。しかし、映画では大人の時代を描くことでその要素が薄れ、少し原作本来の良さが消えてしまったように感じる。それならば、高校生時代の桜良と「僕」を演じていた浜辺美波、北村匠海の姿を見ていたかった。

 この大人を描いた設定以外は特に目立った変更点は見受けられないが、作品本来の魅力を引き出せているかというと少し難しいというのが鑑賞してみての感想だ。しかし、昨今の邦画の中では非常に丁寧な作り込みであるのは間違いないので、高校生の純愛を見たい人にはおすすめできる。(記事:藤田竜一・記事一覧を見る

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