『デアデビル:ボーン・アゲイン』の音響攻撃を読み解く 実在するLRADと聴覚の科学

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『デアデビル:ボーン・アゲイン』シーズン2では、マット・マードックに対する音響攻撃が描かれる。音を周囲の状況を知る手掛かりにしている主人公にとって、強い音は行動を妨げる脅威となる。この描写を読み解く補助線になるのが、実在する長距離音響装置LRADと、人間の聴覚・反響定位に関する研究だ。
LRADは遠方へ音声や警告音を届ける装置で、米国では抗議行動の現場にも投入されてきた。ニューヨーク市では健康被害を訴える人々との訴訟が2021年に和解し、警告音の使用を禁止する措置につながった。
■実在するLRADはどのような装置か
LRADはLong Range Acoustic Deviceの略で、Genasysが展開する製品群の名称だ。手持ち型から車両・船舶に搭載するものまであり、音声による呼び掛けや録音メッセージ、警告音を特定の方向へ送る。
同社の説明によると、開発の背景には2000年10月の米駆逐艦コール襲撃事件がある。接近する船舶に遠距離から警告し、対応を段階的に強められる通信手段が求められた。当時のAmerican Technology Corporationが開発し、2003年初めから米軍などで運用されるようになった。
技術の要点は、音を前方の比較的狭い範囲に集中させる指向性にある。サンディア国立研究所の資料は、初期のLRAD 1000について、圧電変換器を配列して約30度の音響ビームを作る仕組みと説明している。現在の製品には、ドライバーや導波管を利用して音声を明瞭に届ける設計が採用されている。
性能は機種ごとに異なる。Genasysの2025年版カタログでは、LRAD 100Xの最大音圧は140デシベル、連続出力は137デシベル、最大到達距離は600メートルとされる。LRAD 500X-RTは最大ピーク出力が1メートルで154デシベル、連続出力は149デシベルで、理想条件下の通信距離は最大2000メートルだ。
500X-RTの仕様書では、ピーク値はC特性、連続値はA特性という周波数補正で示され、指向角は1キロヘルツで左右各15度とされている。同カタログの大型機LRAD 2000Xは最大168デシベル、連続160デシベル、最大到達距離5500メートルだ。いずれも同社の公表値で、音声の到達距離や音圧は測定条件と併せて読む必要がある。
Genasysによると、LRADは100カ国以上の公共安全・防衛機関で使われている。米陸軍、海軍、沿岸警備隊のほか、ニューヨークやピッツバーグの警察にも導入実績がある。遠方への情報伝達と、強い警告音による働き掛けを一つの装置で行える点が、その用途の広さにつながっている。
■強い音が聴覚に与える影響
音による健康リスクは、耳に届く音の大きさ、曝露時間、繰り返しの頻度によって変わる。米国立労働安全衛生研究所は、職場での騒音曝露について8時間平均85デシベル・A特性を推奨限度としている。米国立聴覚・伝達障害研究所も、大きな音ほど短い時間で聴覚障害を起こし得ると説明している。
内耳にある蝸牛は、音の振動を神経信号に変換する働きを担う。その内部の有毛細胞などが強い音によって損傷すると、難聴や耳鳴りにつながる。米国立聴覚・伝達障害研究所によると、人間の有毛細胞は失われると再生せず、永続的な聴力低下の原因となる。
同研究所は、銃声や爆発のような一度の強い音でも、長時間・反復的な騒音曝露でも障害が起こり得るとしている。一方、騒音の後に生じた聴力低下が16~48時間で軽減する場合もあると説明する。健康影響を考えるには、装置の最大出力に加え、実際に受けた音と時間を把握することが重要だ。
マーベルの公式キャラクター紹介では、マットは心拍を聞き取り、反響定位によって室内の状況を捉える人物として描かれている。音響攻撃をこの設定と重ねると、「周囲の音を受け取り、必要な情報を選び、行動へつなげる」という情報処理への妨害として理解できる。聴覚は彼の強みであると同時に、物語の緊張を生む入口でもある。
■抗議行動での使用とニューヨーク市の和解
医療・人権団体Physicians for Human Rights(PHR)などの報告によると、米国の抗議行動でLRADが使われた最初の記録は、2009年9月のピッツバーグG20サミットにさかのぼる。その後、2011年のニューヨークの「ウォール街を占拠せよ」運動でも使用が報じられた。
米司法省が支援した検証報告には、2014年のファーガソンでの抗議行動における使用が記録されている。2016年のスタンディングロックでのパイプライン反対運動や、2020年のジョージ・フロイド氏の死亡後の抗議行動でも配備された。こうした現場では、音声による告知と警告音の使用を区別して捉える必要がある。
ニューヨーク市を相手取った訴訟は、2014年のエリック・ガーナー氏の死亡を巡る抗議行動での使用に関するものだ。原告側は、LRADの警告音を受けて片頭痛、鼻腔の痛み、めまい、顔面の圧迫感、耳鳴りなどを経験したと訴えた。これらは原告側が申し立てた健康被害である。
2021年4月の和解について、原告代理人は、市が原告5人への計9万8000ドル(約1550万円)と弁護士費用65万ドル(約1億300万円)、合計74万8000ドル(約1億1800万円)を支払うと公表した。ニューヨーク市警のLRADでは威嚇・警告音の使用を禁止し、運用方針と訓練を整備することも合意に含まれた。AP通信によると、音声による告知や録音メッセージの再生は、距離などに配慮する条件で引き続き認められた。
PHRとInternational Network of Civil Liberties Organizationsは、2023年の共同報告書「Lethal in Disguise 2」で音響兵器の健康リスクを取り上げ、群衆制御装備に関する国際基準の整備を求めている。両団体の音響兵器に関する提言は、健康影響への懸念が解消されるまで抗議行動での使用を停止するよう求めるものだ。作品に登場する法執行組織の装備を考えるうえでも、こうした現実の運用と規制は重要な背景となる。
■拘禁施設の響きと反響定位
シーズン3では、拘禁されたマットの物語が続く。GamesRadar+によると、2026年10月のニューヨーク・コミコンで上映された映像には、刑務所内での戦闘場面が含まれていた。TechRadarは、エド・ブルベイカーとマイケル・ラークによる2006年のコミック「The Devil in Cell-Block D」とのつながりを報じている。
この舞台を音の観点から見ると、壁や床で繰り返し反射する音が興味深い手掛かりになる。コンクリートや金属、ガラスなどの硬く滑らかな面は、吸音材に比べて音を反射しやすい。響きの長さを表す残響時間は、音源が止まった後、音のレベルが60デシベル減衰するまでの時間で、部屋の大きさや形状、内装によって変化する。
現実の反響定位では、自分で出したクリック音などと、その反射音を手掛かりに周囲の物体を捉える。音が戻るまでの時間、強さ、音色、左右の耳への届き方などが空間情報となる。これは、音の入力から周囲の配置を読み取るという点で、マットの知覚を楽しむための共通構造になる。
ミュンヘン大学の研究者らが2014年にPLOS ONEで発表した実験では、追加の反射音や頭の向きが距離の識別に影響した。近くの側壁からの反射が距離判断の手掛かりになる条件もあれば、対象からの反射を聞き取りにくくする条件もあった。頭の向きを変えることで判断が改善する場合も示されている。
この研究から見えてくるのは、響く空間で必要な反射音を選び、姿勢や向きを調整して情報を得る過程だ。足音、声、壁から返る音に注意を向けると、拘禁施設の映像を、主人公が環境を読み直す場面として味わえる。音響攻撃と室内の反響は、それぞれ異なる形で彼の知覚に関心を向けさせる。
■カレン・ペイジの未来を語るウォール
ComicBookMovie.comが2026年10月19日に公開したインタビューで、カレン・ペイジ役のデボラ・アン・ウォールは、シーズン3での終了について「それほど驚きではなかった」と語った。終了後のカレンについては、自分の中では人生を持つ一人の人間として存在し続け、「不正と闘い続ける」と述べている。
ウォールは、その先のカレンの人生を映像で描くかどうかは制作側の判断だとも説明した。ジャーナリストとして活動してきたカレンは、超人的な力を持たずに権力の不正と向き合う人物だ。その視点は、感覚能力や戦闘を中心とする場面とは異なる形で、マットたちの闘いを支えている。
ウォールは過去のインタビューで、夫E・J・スコットが、視力低下を伴う遺伝性の眼疾患コロイデレミアを患っていることを公表している。視覚障害は、彼女自身が支援活動を続けてきたテーマでもある。
シーズン3にはチャーリー・コックス、ヴィンセント・ドノフリオ、ウォール、ウィルソン・ベセルらが出演する。GamesRadar+によると、クリステン・リッターのジェシカ・ジョーンズ、マイク・コルターのルーク・ケイジ、フィン・ジョーンズのダニー・ランドも再登場する。
海外報道では、シーズン3は最終シーズンとして2027年3月にDisney+で配信される予定だ。日本ではシーズン2が2026年3月25日からディズニープラスで独占配信されている。
元記事: LRAD Sound Cannon Causes Permanent Hearing Loss at Protests: Born Again’s Weapon Is Already Real
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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