『バフィー』30周年へ、ヘルマウスと「魂」の設定から読み解く作品の強さ

第78回エミー賞で、『バフィー 〜恋する十字架〜』の放送30周年を記念してステージ上で再会したSarah Michelle GellarとDavid Boreanaz。(TelevisionAcademy.com)[写真拡大]
米テレビドラマ『バフィー 〜恋する十字架〜』で共演したサラ・ミシェル・ゲラーとデヴィッド・ボレアナズが、9月14日の第78回エミー賞にそろって登場した。1997年3月の放送開始から30周年を迎えるのは2027年だが、式典では一足早く節目を祝い、近年亡くなった共演者にも思いを寄せた。
Huluが進めていた続編企画『Buffy: New Sunnydale』はシリーズ化に至らなかった。それでも、ヘルマウス、魂、選ばれし者という作品の中核的な設定は、科学や人文学の理論と直接同一視するのではなく、共通する発想や情報処理の構造から読み解くことで、30年近くにわたって支持されてきた物語の強さを浮かび上がらせる。
■エミー賞で迎えた一足早い30周年
ゲラーとボレアナズは、ロサンゼルスのピーコック・シアターで開かれた第78回エミー賞のステージに登場した。2人は、人間の少女バフィーと魂を持つヴァンパイアのエンジェルという関係を振り返りながら、作品の節目を祝った。
『バフィー 〜恋する十字架〜』は1997年3月10日に米国で放送を開始し、2003年まで全7シーズンが制作された。したがって正式な30周年は2027年3月となるが、エミー賞では「30周年」と銘打った企画が行われた。
2人は、近年亡くなった共演者にも言及した。ドーン・サマーズ役のミシェル・トラクテンバーグは2025年2月26日に39歳で死去した。ニューヨーク市の検視当局は、死因を糖尿病の合併症、死亡の態様を自然死としている。
ザンダー・ハリス役のニコラス・ブレンドンは2026年3月20日に54歳で亡くなり、家族は睡眠中の自然死だったと発表した。ルパート・ジャイルズ役のアンソニー・ヘッドは同年6月5日に72歳で死去し、娘たちは肺炎の合併症によるものだと明らかにした。ゲラーは、作品のキャストとスタッフにとって厳しい2年間だったと述べ、共に働いた人々への感謝を示した。
■続編企画『New Sunnydale』はシリーズ化されず
『Buffy: New Sunnydale』は2025年、Hulu向けのパイロット版として企画された。ゲラーがバフィー・サマーズ役を再演し、ライアン・キーラ・アームストロングが新たな若いスレイヤーを演じる構想だった。クロエ・ジャオが監督と製作総指揮を務め、ノラ・ズッカーマンとリラ・ズッカーマンが脚本を担当した。
パイロット版は撮影されたが、Huluは2026年3月、シリーズ化を進めないことを決めた。ゲラーは自身の発信を通じて決定を明らかにし、企画への参加によってバフィーという人物への思いを再確認したと語った。
ゲラーはその後のインタビューで、企画に否定的だった幹部がオリジナルシリーズを最後まで見ていなかったと説明し、当初から困難な状況にあったとの見方を示した。これはゲラー側から示された説明であり、Huluはシリーズ化を見送った詳しい判断理由を公表していない。
エミー賞では、ボレアナズがバフィーとエンジェルの結末について語ると、ゲラーが「もう確かめられないようだ」と応じ、実現しなかった続編企画を連想させる場面もあった。
■ヘルマウスとワームホールに通じる発想
作品の舞台サニーデールには、異なる世界を結ぶ入口であり、超自然的な力が集中する「ヘルマウス」が存在する。その影響は入口が開いているときだけに限られず、町の住民や出来事にも及ぶ。高校生活で生じる孤立や不安、対立が怪物や超常現象となって現れるのが、シリーズを支える基本構造だ。
この設定は、離れた時空を結ぶ仮説上の構造であるワームホールを連想させる。一般相対性理論では、通過可能なワームホールを維持するには特殊な条件が必要とされ、負のエネルギー密度を持つ物質などを想定した理論研究が行われてきた。
2024年に学術誌『Pramana: Journal of Physics』へ掲載された研究では、修正f(R,T)重力理論の下で、ファントム流体を用いた通過可能なワームホールの数理モデルが検討された。これは実在するワームホールを観測した研究ではなく、特定の理論と前提に基づいて成立条件を調べたものだ。
ヘルマウスとこうした研究の間に重ねられるのは、別の領域を結ぶ入口と、それを保つ背景条件が周囲へ影響するという発想である。作品内の魔法を実在の物理現象として説明するものではないが、設定の情報構造を読み解く興味深い補助線になる。
後年のコミックに登場する「Seed of Wonder」も、地球上の魔法や異次元との関係を保つ中核として描かれる。ヘルマウスや魔法が単発の装置ではなく、作品世界を支える体系として拡張されていったことが分かる。
■「魂」が示す記憶と道徳的主体の分離
『バフィー』のヴァンパイアは、人間だったころの記憶、話し方、外見を保ちながら、人間の魂を失った存在として描かれる。エンジェルに魂が戻ると、過去の行為に対する強い後悔と責任感が生じる。
ここで描かれているのは、記憶や身体の連続性と、自分の行動を評価して責任を引き受ける主体との分離である。魂を脳の働きに置き換えられるという意味ではないが、同じ記憶を持つ存在が、異なる判断や行動を示し得るという構造には、神経科学との接点を見いだせる。
1848年に頭部へ重傷を負ったフィニアス・ゲージの症例は、前頭葉の損傷と行動や人格の変化を考える歴史的な事例として知られる。ただし、事故後の変化については後世に誇張された記述もあり、単一の症例から人格や道徳性の仕組み全体を説明することはできない。現在では、意思決定や衝動の抑制、他者への反応は、複数の脳領域と神経回路が関わる働きとして研究されている。
この観点から見ると、魂を得る前後のスパイクの変化も興味深い。魂を持たない時期にも愛着や忠誠心を示す一方、魂を得た後には過去の行動を自らの責任として捉えるようになる。作品における魂は、単純な善悪のスイッチではなく、欲望、判断、責任を結び付ける物語上の仕組みとして機能している。
一方、エンジェルが「真の幸福」を得ると魂を失うという呪いを、ドーパミンやセロトニンの変化、前頭前野の機能低下によって説明する根拠は確認されていない。この設定は神経化学的機構と結び付けるより、幸福そのものが破局への引き金になる悲劇的な物語装置として読む方が、作品内での役割を正確に捉えられる。
■「選ばれし者」を管理する制度
「どの世代にも、世界でただ1人のスレイヤーが生まれる」という設定は、特別な使命を負わされた人物を描く神話や英雄物語に通じる。『バフィー』が特徴的なのは、選ばれた人物だけでなく、その使命を管理する制度にも焦点を当てたことだ。
ウォッチャーズ・カウンシルはスレイヤーを支援し、知識と訓練を提供する一方、候補者を幼いころから把握し、監視し、命令に従わせようとする。バフィーが組織の判断に反すれば、支援を取り上げることもある。
シーズン7では、最初のスレイヤーが男性たちによって悪魔の力を与えられた少女だったことが明かされる。スレイヤーの使命は崇高な運命として語られてきたが、その制度の起源には、本人の意思を無視して力と責任を負わせる行為があった。
最終話「Chosen」で、ウィローは世界中のスレイヤー候補者に力を与える。それまで1人に集中していた力と負担は、多数の女性へ分かち合われる。物語は「選ばれし者」という枠組みを維持したまま終わるのではなく、誰が選び、誰が力を管理するのかという問いへ到達した。
■高校生活の苦しさを怪物に変える
ヘルマウスをサニーデール高校の地下に置いたことで、「高校は地獄だ」という比喩は作品世界の現実になった。シリーズ初期の怪物や超常現象の多くは、思春期の不安や学校内の人間関係を目に見える形へ変換する。
周囲から無視された生徒は文字通り透明になり、抑圧された感情や集団の圧力は、制御できない力や怪物として現れる。超自然的な出来事は外から持ち込まれるだけではなく、登場人物が抱える問題を外在化する役割を担う。
バフィーは町を繰り返し救うが、多くの住民は超自然的な出来事を合理化し、危機が去れば日常へ戻る。守られる側が仕組みを認識しないまま、特定の人物へ負担を集中させる構造は、スレイヤーとウォッチャーズ・カウンシルの関係とも響き合う。
■研究対象として続く『バフィー』
『バフィー 〜恋する十字架〜』を扱う研究は、一般に「Buffy Studies」と呼ばれてきた。現在は関連作品も含めて研究する団体が活動し、専門誌『Slayage』の刊行や学術会議の開催を続けている。研究領域はジェンダー、倫理、哲学、宗教、メディア、言語など多分野に及ぶ。
こうした研究の広がりは、ヘルマウス、魂、スレイヤーといった設定が、単なる装飾ではなく、登場人物の選択や物語全体を動かす仕組みとして構築されていたことを示している。
物理学は、異なる領域を結ぶ入口とその安定条件を考えるイメージを与える。神経科学は、記憶や身体が連続していても、判断や社会的行動が変化し得ることを考える手掛かりになる。人文学は、「選ばれし者」を生み、管理する制度が持つ力を読み解く枠組みを提供する。
『Buffy: New Sunnydale』はシリーズ化されなかった。しかし、オリジナル作品が築いた神話体系は、再始動の成否とは別に研究と再解釈を生み続けている。正式な放送30周年を目前にした『バフィー』は、青春期の不安、力を持つことの責任、個人と制度の関係を結び付けた物語として、今も読み直す余地を残している。
元記事: Buffy the Vampire Slayer Turns 30: Wormhole Physics, Soul Theory Outlast Canceled Reboot
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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