【分析】中国版Starlink「千帆星座」、約1648億円を調達―外資を完全排除し国家インフラ色を鮮明に

2026年8月19日 11:53

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記事提供元:Tech Times

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中国で最も野心的な民間衛星インターネット計画を進める上海垣信衛星科技(SpaceSail)が、約69億7,600万元(約1,648億円)の増資を完了し、事後評価額は約500億元(約1兆1,813億円)に達した。しかし今回の資金調達の本質は金額の規模ではなく、外国資本の参加が明示的に禁止され、国家主導のインフラとしての性格が決定づけられた点にある。商業収益が事実上ゼロである同社が巨額の資金を投じ続ける背景には、国際電気通信連合(ITU)の周波数枠維持と米Starlinkに対抗する地政学的な戦略が存在する。

■外資を完全排除した調達構造と国家インフラとしての実態

上海垣信衛星科技(Shanghai Yuanxin Satellite Technology、以下SpaceSail)の今回の増資では、外国資本の参加が明示的に禁止された。外部投資家全体の持分比率は調達後株式の最大20%に制限され、残る80%以上は既存の国家関連株主が保持する。上海市政府系投資部門の上海聯和投資(Shanghai Alliance Investment Ltd.)が49.9%を保有するほか、国家開発銀行(CDB)や中国科学院(CAS)に連なる資本が脇を固める。

この構造により、SpaceSailが展開する「千帆(Qianfan)」コンステレーションは、国際的なマーケティング上の表現に関わらず、実質的に中国の国家資産として位置づけられる。これはStarlinkに対抗する一新興企業の挑戦ではなく、いかなる外部投資家や外国政府も実質的な影響力を行使できないよう構築された国家インフラプロジェクトである。千帆とStarlinkの競合は通常の市場競争ではなく、外部資本に開かれた米国のシステムと、法的に外資を遮断した中国の国家システムによる地政学的な覇権争いといえる。

■商業収益ゼロでも投資が続く「周波数権益」のタイムリミット

SpaceSailの財務状況は厳しい現実を示している。売上高は2023年が4万9,300元(約7,300ドル)、2024年が115万元(約17万1,000ドル)、2025年通期でも18万8,700元(約2万8,000ドル/約448万円)にとどまり、2026年第1四半期も売上高ゼロを計上した。純損失は2024年に81億元(約12億ドル/約1,920億円)、2025年に8億9,000万元(約1億3,200万ドル/約211億円)に達している。

民間企業であれば経営危機とみなされる水準だが、国家インフラ事業においては織り込み済みの前提条件といえる。中国は過去に高速鉄道で巨額の赤字を抱えながら戦略的成功を収め、太陽光パネルでも巨額の補助金を投じて世界シェアの80%を握った。衛星インターネットでも同様に、目先の売上ではなく軌道スロットの権利や周波数割当、地政学的な足場こそが資産であるとの判断に基づき損失を補填している。

この動きを法的に不可欠なものにしているのが、国際電気通信連合(ITU)の周波数調整ルールである。千帆のITU申請では最大1万5,000基分の周波数と軌道位置の権利が認められているが、権利を維持するにはITUが定める期限(最も拘束力が強いマイルストーンは2027〜2028年頃)までに運用衛星を打ち上げて実証しなければならない。期限までに十分な衛星を展開できなければ周波数権益は永久に失われ、ITUの枠組みで再取得することはできない。今回の増資は、国家主権に関わる軌道権益を失陥させないための実質的な維持費用といえる。

■軌道上衛星の現況と相次いだ技術トラブル

千帆コンステレーションは、2024年8月に第1弾となる18基を打ち上げて以降、規模を拡大してきた。2025年2月には108基に達し、2026年6月の長征6号Aによる打ち上げを経て182基を突破、国家主導の「国網(GuoWang)」コンステレーションの配備数を初めて上回った。増資に伴う同社開示資料によると、2026年8月上旬時点での軌道上衛星数は推定238基に達している。

ただし、開発過程にはトラブルも生じている。2025年には一部の衛星で推進機(スラスター)やジャイロスコープの不具合が発生し、打ち上げが数カ月間にわたり中断した。是正措置を講じた上で2026年4月に展開が再開されたが、不具合の具体的な技術的原因についてSpaceSail側は公表していない。

同社の長期計画では、2026年末までに324基を配備し、2027年にさらに324基、2028〜2029年には年間4,000基、2030年には年間5,000基へと加速させ、最終的に約1万5,000基の巨大衛星網を構築する計画である。実現すれば世界第2位の衛星コンステレーションとなるが、2026年半ば時点で1万400基以上のアクティブ衛星を運用するStarlinkとの規模の差は依然として大きい。

■未改造スマホでの直接通信実験と技術的差異

今回の資金調達発表と前後して、SpaceSailは技術的マイルストーンを積極的にアピールしている。同社は、市販の未改造スマートフォンを用いた直接通信(Direct-to-Cell)による音声通話試験に中国で初めて成功し、その音質は地上5G網と同等であったと発表した。この実証は2026年6月に打ち上げられた直接通信試験衛星「SpaceSail DTC-01」を用いて行われた。

技術的な意義は軌道高度の違いにある。中国では2024年以降、ファーウェイ(Huawei)やシャオミ(Xiaomi)の端末で衛星通話機能が提供されてきたが、これらは高度約3万6,000kmの静止軌道(GEO)衛星「天通1号(Tiantong-1)」に接続する仕組みであり、減衰した信号を受信するために端末側に特殊なハードウェアを必要としていた。これに対し、SpaceSailの低軌道(LEO)衛星は約550kmの高度を周回しており、静止軌道より約65倍地球に近い。この近さにより、標準的な5G端末と衛星の通信を規定する「3GPP 5G NR-NTN(非地上系ネットワーク)」規格に準拠した信号強度を確保でき、端末側の改造が不要となる。

SpaceXも米T-Mobileとの提携で同様のLEO NTNアーキテクチャを採用し、20カ国以上で数億人が利用可能な環境を整えている。1基の試験衛星で通話試験を1回成功させた段階のSpaceSailとは、商業規模において依然として大きな開きがある。また、中国国営テレビ(CCTV)の番組内で実演された消費者向けブロードバンド通信の最高速度394Mbpsという数値も、管理されたテスト環境下のものであり、商用加入者が存在しないため第三者による独立したベンチマーク検証は行われていない。

■利用企業が直面する中国法制上のデータリスク

企業や政府、個人がSpaceSailの衛星網を利用して通信を行う場合、地上局の設置場所や利用規約、利用者の所在国に関わらず、中国の3つの法律に基づく義務が適用される点に留意する必要がある。

中国の国家情報法(2017年)第7条は、すべての組織および国民に対し、国家の情報活動を支持、援助、協力することを義務づけている。これには違法の疑いや裁判所の令状といった前提条件はなく、恒常的な法的義務である。さらにデータ安全法(2021年)が中国法人の収集・送信するデータの取り扱いおよび政府への提供要件を規定し、サイバーセキュリティ法(2017年)が国境を越えたデータ移転に対する安全審査を課している。

対象となるデータには、SpaceSailが既に構築している船舶自動識別装置(AIS)の追跡データも含まれる。AISは船名、位置、針路、速度をリアルタイムで送信する海上交通管理の基盤データであり、衛星AIS網は地上の通信網に依存せず全地球規模での船舶動態を把握できる。今後、スマートフォン直接通信が本格化すれば加入者の位置情報が、企業向け通信が始まれば業務通信データが中国政府のアクセス対象となり得る。現在までにSpaceSailのインフラやデータ送信慣行に関する独立したセキュリティ監査は公表されていない。

■Starlinkの摩擦を突くグローバル戦略と今後の展望

SpaceSailの商業戦略は、EVや5Gインフラで中国企業がとった戦略と同様、Starlinkが政治的摩擦を抱える市場を標的にしている。同社は約30カ国と協議を進めており、ブラジル、マレーシア、タイ、カザフスタンで初期合意を発表した。最初の商用展開先となる見込みのブラジルでは、通信庁(Anatel)の認可を得て国営通信会社Telebrasと提携し、最大324基のLEO衛星を用いて2026年第4四半期にサービスを開始、2031年7月まで提供する計画だ。

Starlinkがウクライナ情勢への関与やイーロン・マスク氏の政治的言動、各国規制当局との対立など地政学的な摩擦に直面する中、米国主導の通信インフラへの依存を避けたい国々にとって、SpaceSailは代替の選択肢となる。今回の増資は、こうした国際市場の需要を取り込むための布石でもある。

現時点での両者の差は歴然としている。Starlinkのコネクティビティ部門は2025年に売上高113億8,700万ドル(約1兆8,219億円)、営業利益44億2,300万ドル(約7,077億円)を計上し、世界で1,000万人以上の加入者と1万400基以上の衛星を抱える。対するSpaceSailは2025年売上高が約2万8,000ドル、商用加入者はゼロである。しかし、巨額の損失を長期にわたり支え続ける中国の産業政策が、将来的に規模の競争力を生み出す可能性はある。今後の焦点は、国際市場における政治・セキュリティ環境がその成長を許容するかどうかに移っている。

■注目ポイントQ&A

●外国の投資家や西側政府がSpaceSailの株式を取得することはできますか?

取得できません。今回の増資に伴う上海聯合産権交易所への開示において、外国資本の参加は明確に禁止されています。外部投資家全体の持分比率は最大20%に制限されており、上海市政府傘下の上海聯和投資が49.9%を保有しています。現在の資本構造上、西側諸国の投資家や政府が実質的な権益を取得する手段はありません。

●スマートフォン直接通信(Direct-to-Cell)において、低軌道(LEO)と静止軌道(GEO)の違いは何ですか?

最大の違いは軌道高度と端末側の要件です。静止軌道(約3万6,000km)は地球からの距離が遠く電波が減衰するため、専用アンテナやチップを搭載した特殊なスマートフォンが必要です。一方、低軌道(約550km)は距離が約65倍近いため電波が強く届き、標準的な5G端末のまま通信できる「3GPP 5G NR-NTN」規格に対応します。これにより市販の未改造スマホで直接衛星通信が可能になります。

●SpaceSailと回線契約を結んだ場合、利用者のデータは中国法に基づきどのように扱われますか?

中国の国家情報法第7条により、中国の組織は国家の情報活動への協力を義務づけられており、裁判所の令状等は不要です。さらにデータ安全法やサイバーセキュリティ法によるデータ提出要件も適用されます。これらは地上局の設置場所や利用者の所在国に関わらず適用されるため、船舶のAIS動態データやスマートフォンの位置情報、通信内容などが中国当局のアクセス対象となる法的リスクが存在します。

●売上がほぼゼロであるにもかかわらず、なぜSpaceSailは巨額の資金調達を続けられるのですか?

理由は2点あります。第1に、国際電気通信連合(ITU)に申請した最大1万5,000基分の周波数・軌道枠を維持するためには、2027〜2028年頃のマイルストーンまでに衛星運用実績を示す必要があり、打ち上げ継続が法的に不可欠であるためです。第2に、中国政府が衛星通信を高速鉄道や太陽光発電と同様の国家戦略分野と位置づけ、初期の赤字を甘受してでも長期的に育成する産業政策をとっているためです。

元記事: SpaceSail Raises $1B: China Locks Foreign Capital Out of Its Starlink Challenger

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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