「猫の首に鈴をつける」 猫にまつわる英語イディオム (19)

2025年9月5日 09:28

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 「猫の首に鈴をつける」という寓話は日本でも広く知られている。危険を伴う役割を誰が担うのかという寓意を持ち、古くから学校教育で紹介されることも多かった。

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 英語にも同じ寓話に由来する「bell the cat」というイディオムがあるのだが、具体的には何を意味するのだろうか。

■Bell the Cat

 このフレーズは、「to bell the cat」という、動詞+目的語という形の動詞句として用いられる。

 通常、「bell」は「鈴」という名詞を意味するが、ここでは「鈴をつける」という意味の動詞として用いられる点に注目だ。つまり、直訳すれば「猫に鈴をつける」という意味になる。

 なお主要な辞書には、「bell」の動詞としての定義も掲載されているが、現代英語ではほとんど用いられず、この慣用句か、たとえば「to bell a stag」(鹿に鈴をつける)のような古風な文脈に限られる。

 日常会話や現代の一般的な英文で、「bell」を動詞として単独に使うケースはまず見られない。

■由来と逸話

 では「to bell the cat」(猫に鈴をつける)は、何を意味するのか?冒頭で触れたように、これはイソップ寓話の「ネズミの相談」(The Mice in Council)に由来する。

 猫に襲われて困っていたネズミたちが集まって相談したところ、とある1匹が、猫の首に鈴をつければ、その音で近くに来たら気づけると提案する。

 しかし実際にそれを行う勇気のある者は、1匹もいなかったという寓話だ。この話がそのまま「to bell the cat」の語源となり、「口にするのは容易でも、誰も実行したがらない危険な仕事」を意味するイディオムとなった。

 このフレーズにちなむ人物として有名なのが、スコットランドの貴族、アーチボルド・ダグラス(第5代アンガス伯、1449頃~1513)だ。

 当時、スコットランド王ジェームズ3世の政治は、寵臣の影響を強く受けており、国内の有力貴族たちの不満が高まっていた。ダグラスは反乱の先頭に立ち、国王の寵臣トマス・コクランらの処刑を主導する役目を担った。

 彼の果敢な行動が上述の寓話を想起させたため、いつしか彼は「Bell the Cat」という渾名で呼ばれるようになったという。

 例文
 ・The committee discussed bold reforms, but no one was willing to bell the cat.
(委員会は大胆な改革を議論したが、危険を引き受ける者は一人もいなかった)

 ・She belled the cat by confronting the unfair policy herself.
(彼女は自ら不公平な政策に立ち向かうことで、危険な役割を引き受けた)(記事:ムロタニハヤト・記事一覧を見る

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