生化学工業は上値試す、23年3月期1Q大幅減益、通期予想は未定

2022年8月30日 13:47

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記事提供元:日本インタビュ新聞社

 生化学工業<4548>(東証プライム)は、関節機能改善剤アルツなど糖質科学分野を主力とする医薬品メーカーで、海外展開も強化している。23年3月期第1四半期は海外がコロナ禍からの回復で好調だったが、国内における薬価引き下げや関節機能改善剤ジョイクルの前年の反動減、さらに前期計上のロイヤリティーの剥落などで大幅減収減益だった。通期の連結業績予想は、関節機能改善剤ジョイクルのショック、アナフィラキーの発現に関する原因究明の進捗を見極める必要があるため未定としている。株価は5月の安値圏で底打ちして戻り歩調だ。基調転換を確認した形であり、自律調整を交えながら上値を試す展開を期待したい。

■関節機能改善剤アルツなど糖質科学分野が主力の医薬品メーカー

 糖質科学分野が主力の医薬品メーカーで、国内医薬品(関節機能改善剤アルツ、白内障手術補助剤オペガン、内視鏡用粘膜下注入材ムコアップ)、海外医薬品(米国向け単回投与関節機能改善剤Gel-One、米国向け3回投与関節機能改善剤VISCO-3、米国向け5回投与関節機能改善剤SUPARTZ-FX、中国向けアルツ)、医薬品原体(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸)、LAL事業(エンドトキシン測定用試薬関連)を展開している。

 22年3月期セグメント別構成比(22年3月期から受取ロイヤリティーを営業外収益から売上高に表示区分変更、販売手数料等を販管費計上から売上高控除に変更)は、売上高が医薬品事業74%(国内医薬品33%、海外医薬品22%、医薬品原体・医薬品受託製造7%、ロイヤリティー11%)でLAL事業26%、営業利益が医薬品事業49%、LAL事業51%だった。

 20年3月には海外製造拠点としてカナダのダルトン社を子会社化した。なおダルトン社を買収する際に中間持株会社として設立したSEC社、および買収目的会社として設立したSAC社が特定子会社に該当することになったため、ダルトン社とSAC社が現地法に基づく新設合併を行い、新設された新ダルトン社が旧ダルトン社から商号および事業を引き継いだ。

 20年8月には、ダルトン社がサスカチュワン大学の研究機関であるVIDO-InterVacと、VIDO-InterVacがカナダ政府およびサスカチュワン州から支援を受けて開発を進めているCOVID-19ワクチンの製造に関して、業務提携に合意した。ダルトン社は本提携により、COVID-19ワクチンの初期段階の臨床試験で投与される治験薬の調合、充填、製剤化を担う。

 21年4月にはLAL事業の海外子会社である米ACC社が、遺伝子組み換えエンドトキシン測定用試薬「パイロスマート ネクストジェン」の販売を開始した。21年8月には単回投与の関節機能改善剤ハイリンクについて、台湾のTCM社を通じて台湾における販売を開始した。

 21年11月には海外子会社のACC社が、遺伝子組み換えエンドトキシン測定用試薬「パイロスマート ネクストジェン」について、Pharma Manufacturing 2021 Innovation Awardを受賞した。

 21年1月にはダルトン社の100%出資子会社として、カナダに現地法人SEIKAGAKU NORTH AMERICA CORPORATIONを設立した。北米に開発拠点を有することで、現地の医療環境に即したプランの立案、FDA(米国食品医薬品局)や治験施設との円滑なコミュニケーション実現など、医薬品・医療機器開発および承認取得の加速を目指す。

 21年10月には海外子会社のACC社がカブトガニ保全活動において、この種の取り組みでは初めてとなるアメリカ産カブトガニ累計100万匹放流を達成した。また21年12月には会社HPにサステナビリティページを開設し、各種取組を紹介している。

■新薬開発は糖質科学分野に焦点

 研究開発は糖質科学分野(糖鎖や複合糖質を研究する科学分野)に焦点を絞っている。23年3月期第1四半期末時点の開発パイプラインには、腰椎椎間板ヘルニア治療剤SI-6603、変形性膝関節症改善剤SI-613、腱・靱帯付着部症を適応症とするSI-613-ETP、ドライアイ治療剤SI-614、間質性膀胱炎を適応症とするSI-722、癒着防止材SI-449がある。

 SI-6603は日本では18年3月製造販売承認を取得し、科研製薬<4521>が18年8月販売開始(腰椎椎間板ヘルニア治療剤ヘルニコア)した。またスイスのフェリング社と日本を除く全世界におけるライセンス契約を締結している。マイルストーン型ロイヤリティーの総額は最大95百万米ドル(うち契約一時金5百万米ドル)である。米国では第3相臨床の追加試験において、22年3月に被験者組み入れが完了した。1年間の経過観察を実施する。

 SI-613は小野薬品工業<4528>と日本における共同開発・販売提携に関する契約を締結し、21年3月に変形性関節症治療剤ONO-5704/SI-613(ジョイクル関節注30mg)が変形性関節症(膝関節、股関節)の効能または効果で国内製造販売承認を取得し、21年5月に小野薬品工業が販売開始した。マイルストーン型ロイヤリティーの総額は最大120億円(うち契約一時金20億円)である。20年9月にはエーザイ<4523>と韓国における販売提携に関する契約を締結した。エーザイの韓国子会社が韓国におけるSI-613独占的販売権を取得して製造販売申請を行い、承認取得後は製品をエーザイに供給する。契約一時金と販売マイルストーンを受け取る。エーザイとは20年4月に中国における共同開発および販売提携に関する契約を締結しており、2カ国目の提携となる。

 なお、その後、ジョイクル投与後にショック、アナフィラキーの発現が複数報告されたため、21年6月1日付で安全性速報(ブルーレター)を発出し、小野薬品工業と連携して副作用報告等の情報収集や安全性に関する情報提供に努めている。また原因究明に向けて医師主導の臨床研究を開始している。今後の方針としては、米国・中国・韓国におけるSI-613(変形性膝関節症)の開発方針を検討中で、日本におけるSI-613-ETP(腱・靭帯付着部症、小野薬品工業とのSI-613の契約に含む)の開発を22年2月に中断している。ジョイクルのショック、アナフィラキー発現に関する原因究明を優先する。

 SI-614は22年5月に米国で第3相臨床試験を開始した。有効性、安全性の評価を行う。SI-722は19年11月米国における第1・2相臨床試験を開始、20年3月被験者投与を開始、21年1月被験者組み入れが完了した。主目的である忍容性を確認し、次相試験を検討中である。SI-449は、20年5月に国内ピボタル試験(消化器外科領域)を開始した。そして21年11月に国内パイロット試験(婦人科領域)を開始し、22年5月に被験者組み入れが完了した。

■次期・中期経営計画は22年秋頃公表予定

 次期・中期経営計画については、ジョイクルのショック、アナフィラキー発現に関する原因究明の進捗や、腰椎椎間板ヘルニア治療剤SI-6603の動向により、経営計画や将来的な業績予想が大きく変動するため22年5月時点での公表を見送り、22年秋頃の公表を予定している。

■23年3月期1Qは前期の反動で大幅減益、通期予想は未定

 23年3月期第1四半期の連結業績は、売上高が前年同期比29.5%減の83億07百万円、営業利益が74.7%減の11億26百万円、経常利益が62.8%減の17億14百万円、親会社株主帰属四半期純利益が59.1%減の14億93百万円だった。

 海外はコロナ禍からの回復で好調だったが、国内における薬価引き下げや関節機能改善剤ジョイクルの前年の反動減、さらに前期計上のロイヤリティーの剥落などで大幅減収減益だった。研究開発費は2億48百万円減少の16億87百万円だった。米国で実施中の腰椎椎間板ヘルニア治療剤SI―6603追加臨床試験の被験者組み入れが完了した。営業外収益では為替差益4億15百万円を計上した。

 医薬品事業は売上高が43.5%減の54億88百万円、営業利益が94.2%減の2億27百万円だった。売上高の内訳は国内医薬品が22.9%減の29億65百万円、海外医薬品が12.5%増の17億88百万円、医薬品原体・医薬品受託製造が1.7%増の7億32百万円、ロイヤリティーが1百万円(前年同期は35億50百万円)だった。

 国内では、関節機能改善剤アルツや眼科手術補助剤オペガン類が薬価引き下げの影響を受け、関節機能改善剤ジョイクルが前年の販売開始に伴う出荷集中の反動で減少した。また前期計上のロイヤリティーが剥落した。海外は、米国においてコロナ禍影響から市場が概ね回復し、為替の円安も寄与した。中国ではコロナ禍に伴うロックダウンの影響で減少した。8月から出荷再開予定である。医薬品原体・医薬品受託製造は医薬品原体が増加したが、ダルトン社の医薬品受託製造が減少した。

 LAL事業は売上高が35.7%増の28億19百万円、営業利益が79.8%増の8億99百万円だった。ACC社におけるエンドトキシン測定用試薬、グルカン測定体外診断用医薬品、受託試験サービスが伸長した。

 通期連結業績予想については、関節機能改善剤ジョイクル(21年5月発売)のショック、アナフィラキーの発現に関する原因究明の進捗を見極める必要があるため、引き続き未定としている。配当予想は22年3月期比8円減配の22円(第2四半期末11円、期末11円)としている。

 なお期初時点の想定としては、22年4月以降の薬価引き下げ(国内医薬品全体の加重平均)が約▲11%(アルツは▲12.6%、オペガンは▲7%)で、ロイヤリティーが前期の一過性増加の反動で減少、研究開発費が米国で実施中の腰椎椎間板ヘルニア治療剤SI―6603追加臨床試験の被験者組み入れ完了で減少、コロナ禍の影響は22年3月期水準としている。

■株価は上値試す

 22年5月13日に発表した自己株式取得(上限200万株・15億円、取得期間22年5月16日~22年12月30日)については、22年7月31日時点の累計取得株式数が68万5900株となっている。

 株価は5月の安値圏で底打ちして戻り歩調だ。週足チャートで見ると13週移動平均線が26週移動平均線を上抜いて基調転換を確認した形であり、自律調整を交えながら上値を試す展開を期待したい。8月29日の終値は871円、今期予想配当利回り(会社予想の22円で算出)は約2.5%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS1179円46銭で算出)は約0.7倍、そして時価総額は約495億円である。(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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