モルヒネ類似物質のオピオイド、免疫調節し炎症性腸疾患を緩和 東京理科大ら

2021年10月6日 11:30

印刷

今回の研究の概要(画像: 東京理科大学の発表資料より)

今回の研究の概要(画像: 東京理科大学の発表資料より)[写真拡大]

 オピオイドは、モルヒネなどのケシから採られた物質や、それに似た特徴を持つ物質の総称だ。脳での作用が知られており、痛みやかゆみ、感情を制御する。医療の分野では現在主に痛み止めの目的で使用されている。

【こちらも】プラセボの鎮痛効果にはミューオピオイド受容体が関与している 理研などの研究

 東京理科大学らの研究グループは9月30日、一部のオピオイドが、免疫細胞の炎症反応を制御し、炎症性腸炎の症状を緩和する可能性があることを発見したと発表した。今回の発見は、脳と免疫がどのように影響しあっているか、オピオイドがどのようなメカニズムで免疫の制御をしているかなどが明らかになり、治療へと貢献していくことが期待できる。

 この研究は、東京理科大学の西山千春教授、長田和樹氏、奥住あゆみ氏、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の長瀬博特命教授の研究グループにより行われ、9月22日の「Frontiers in Immunology」にオンライン掲載された。

 オピオイドが細胞に結合する部位をオピオイド受容体といい、δ、κ、μの3種類がある。それぞれどの受容体に結合するかにより、オピオイドの主な働きが異なっている。δオピオイド受容体(D O R)に働くオピオイドは鎮痛作用は弱いが、抗うつ、抗不安作用には優れ、副作用も少ないことから、最近注目されてきている。

 今回研究グループは、δオピオイド受容体に働くKNT1-127について研究を行った。結果、オピオイドが免疫反応をコントロールすること、そして炎症性腸疾患を緩和できる可能性を報告した。

 潰瘍性大腸炎やクローン病を含む炎症性腸疾患には、免疫異常が関係していることがわかっている。治療に長い時間がかかり、完治が難しいため病気を抑えながら生活していく現状だ。日本では約30万人の患者がいるといわれている。

 研究グループは、炎症性腸疾患のモデルマウスを用い、δオピオイド受容体作動薬KNT1-127の効果を検討した。その結果、大腸炎の症状として現れる大腸の萎縮、体重の減少が抑えられた。また薬を口から投与した場合には脳にも到達するため、腹部に直接薬を投与したところ同様の効果が見られたという。逆に脳に直接薬を与えた場合には効果が見られなかったことなどから、脳を経由して効果が表れているのではなく、腸に直接作用していると考えられた。

 またKNT1-127を投与したマウスの血液を調べたところ、炎症の強さを示す値CRPや、炎症にかかわるサイトカインIL-6は減少していることが判明。またこれらの炎症にかかわるサイトカインを作るマクロファージは、腸間膜リンパ節で減少していることから、KNT1-127はマクロファージの移動を調節している可能性が考えられた。

 さらに試験管内でKNT1-127の作用を調べたところ、マクロファージからのIL-6やTNF-αの産生を抑え、炎症を抑制する働きを持つ制御性T細胞の分化を促すことが判明。これらの実験結果から、KNT1-127は腸で働いて免疫細胞を調節し、大腸炎の症状を改善することがわかった。

 今回の研究により、これまで神経系に主に作用すると考えられていたオピオイドが免疫調節にも働くことが明らかになり、免疫調節薬として新たな可能性が示された。免疫がかかわる疾患は、炎症性大腸炎だけでなく、リウマチをはじめとして、多く存在している。今後、オピオイドがどのようなメカニズムで免疫を調節しているのかが明らかになることで、新たな治療薬の開発につながることを期待したい。(記事:室園美映子・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事