イエレン米財務長官の発言から始まった「一時的な」リスクオフ相場と今後の展開 後編

2021年6月23日 08:59

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 テーパリング(金融緩和の終了)の際に、株安・リスクオフ相場に向かうのはなぜか。極めてシンプルに言えば、「利上げ」をすることで、「投資」から「預金」に資金が向かうためである。もちろん、企業にとっては金利が上がることで、融資を積極的に受けることができないというデメリットも生じる。

【前回は】イエレン米財務長官の発言から始まった「一時的な」リスクオフ相場と今後の展開 前編

 では、なぜ金融緩和を止めなければいけないかと言えば、経済過熱期待による過度なインフレ率(物価上昇率)の上昇を抑えるためだ。つまり、経済の回復期待を背景に消費が喚起されれば、人々は高くとも商品を買う。ともあれば、100円で買えるものが200円となれば通貨の価値が半値となってしまう。このように、過度な通貨安を引き起こさないため、「利上げ」で消費を抑えることになる。

 デフレが長く続いた日本では、日銀が金融緩和を続けてもインフレにはならなかった。つまり、100円で買えるものが200円になったとしても、100円のもので済ますというマインドが今でも根付いている。論点は逸れるが、コロナ禍で給付金を出しても預金が増えたということであれば、消費の喚起もインフレ率上昇の効果も無い。政府はそのような意向もあり、給付金を出さないのであろう。

 さて一方のアメリカでは、複数回に渡る給付金によって、インフレ率の上昇懸念だけではなく、仮想通貨バブルや個人投資家の台頭など、別の副作用も出始めた。そして、経済指標も一定の数値に回復し、ワクチン接種も行きわたるようになったことで、総じて「利上げ」のカードをチラつかせるようになったのが5月上旬というわけだ。

 しかし、前回の記事で述べたとおり、急激な「利上げ」はご法度である。ここからは市場との会話、つまりは駆け引きが始まる。簡単に言えば、経済指標の結果を踏まえつつ、言った言わないを繰り返しながら、緩やかな「利上げ」を行うのだろう。

 つまり、誰かがタカ派の発言をすれば、誰かがハト派の発言をして、その度に株価は上下しながらも、「利上げ」の影響を吸収していく。結果として株価がそこまで下がらずに、「利上げ」に成功すればFRBの勝利である。今後、想定外の発言や経済指標が発表されない限り、しばらくの間はFRB理事たちの発言に振り回される展開になるだろう。

 最後に別の懸念点を指摘しておきたい。原油と木材の高騰だ。特に原油が高騰すれば、コロナ禍からの経済回復に水を差す。一時はマイナス領域に転じた原油先物価格は、いつの間にか1バレル=70ドル台である。これらが思わぬショックを生むことが無いよう、商品の価格変動には十分に注意されたい。(記事:小林弘卓・記事一覧を見る

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