尿中のマイクロRNAで脳腫瘍の測定を可能に 名大が手法開発

2021年4月11日 07:22

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名古屋大学の研究チームが開発したナノサイズの酸化亜鉛ナノワイヤ装置(名古屋大学の発表資料より)

名古屋大学の研究チームが開発したナノサイズの酸化亜鉛ナノワイヤ装置(名古屋大学の発表資料より)[写真拡大]

 名古屋大学医学研究科の研究グループは9日、尿中に含まれる1本鎖の短鎖RNA、マイクロRNAを測定することで、100%に近い精度で脳腫瘍が測定できる方法を開発したと発表した。新たに編み出した脳腫瘍の判定方法は、肺がんなど他のがんの診断に応用できることから、研究グループは、マイクロRNAが病状の進行状態を示すバイオメーカーになり得るとしている。

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 徳島大学病院がん診療連携センターによると、脳腫瘍は、脳実質や髄膜、脳神経など頭蓋内で発生する腫瘍を指す。脳組織から発生する原発性脳腫瘍と、他の臓器から転移してきた転移性脳腫瘍の2種類がある。

 いずれも有効な治療法確立に向け、研究が進められているものの、問題は山積している。とりわけ課題視されているのが、原発性脳腫瘍だ。副作用が大きい上に、再発時の薬物治療が実質ない悪性の脳腫瘍が発生するためで、国立がん研究センターによると、悪性脳腫瘍の患者は毎年8000人が発生しているという。

 腫瘍の早期発見が難しいという課題もある。脳腫瘍は、急激に症状が現れる脳卒中とは違い、ゆっくりと症状が進行するためだ。その結果、患者が病状を深刻化するまで放置してしまい、手遅れになるケースが少なくない。

 そこで研究チームは、疾患状況や投薬判断といったバイオメーカーとして基礎研究が進むマイクロRNAを使い、脳腫瘍の早期発見法を確立することにした。尿中に含まれるマイクロRNAを集める方法を模索した結果、尿中の細胞外小胞体を効率良く集められる、ナノサイズの酸化亜鉛ナノワイヤ装置の開発に成功。

 酸化亜鉛ナノワイヤのマイクロRNAの捕捉力は際立っており、既存の超遠心法や商品化カラムと比べ、多くの種類のマイクロRNAを抽出できる。捕捉力も高い再現性を示したという。

 さらに、68人の脳腫瘍患者と66人の健康な人の尿から抽出したマイクロRNAで、マイクロRNAの発現率を検証したところ、脳腫瘍を正確に診断できる確率は99%を記録。正しく陽性と判断できる感度は100%の確率を示すなど、世界最高水準の正確さだったという。

 これらの結果を受け、研究チームは、「尿中のマイクロRNAは今後、脳腫瘍のバイオメーカーとして実用化される可能性を示した」と強調。研究成果を発展させ、尿で脳腫瘍だけでなく、多種類のがんを同時に発見できる方法の開発を目指すとしている。(記事:小村海・記事一覧を見る

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