ソフトバンクGの投資スタンスが変化!? 自社利益の極大化狙えば、マーケットに荒廃の危機?

2020年9月11日 18:13

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 株式投資はゼロサムゲームだ。参加者の中で運用損失を計上した人達の合計額は、そっくりそのまま運用益を計上した人達の取分となる。どんなに進んだ投資理論を駆使しても、複雑なオプション取引を行ったとしても、敗者から勝者に資産が移転するという原則は、変わらない。

【こちらも】ソフトバンクGが多額の米株オプションを取得 オプション取引とは?

 ソフトバンクグループ(SBG)がソフトバンクビジョンファンド(SVF)を通して、先端・ハイテク分野の未公開ベンチャー企業に巨額の出資している。出資先企業は将来、目論見通りの上場を果たすグループと、平凡に事業を継続するグループと、破綻して損失を計上するグループに大別される。

 SBGの孫正義会長兼社長によると、総投資先企業のうち大きく成長する先と破綻する先がそれぞれ10%強を占め、80%弱は平凡な企業になる。この読みが正しいのかどうかは時間の経過を待つ他ないが、肝心なことはユニコーンを発掘してリターンを受取るSBGと、孫会長に心酔する投資家の利害は一致していたことだ。SBGの運用が将来大きな収益を生み出しSBGの評価が向上すれば、SBGに投資した投資家の資産は増大する。SBGと投資家の利害が一致した、麗しい関係だった。

 8月11日、20年4~6月期決算の記者会見でSBGの孫会長はお得意の持論である「株主価値を重視」していることと、投資運用子会社を新たに設立してIT分野の上場株を対象にして余資を運用することを明らかにしている。新設される子会社は資本金600億円で、SBGが400億円を出資し、孫会が個人で200億円を出資したようだ。この時点で既にアマゾンなどアメリカのIT企業など30銘柄を購入済みだと言う。

 9月になって英フィナンシャル・タイムズや米ウォール・ストリート・ジャーナルは、SBGがオプション取引を駆使した巨額の取引で、米ナスダック市場など世界のIT・ハイテク株の相場かく乱要因になっていると伝えた。

 オプションとは、金融派生商品(デリバティブ)で、この場合はある銘柄の株式を事前に設定した将来の特定の日や期間に、決められた価格で取引する権利である。当然のことながら、「読み」が当たれば莫大な運用益がもたらされる反面、裏目に出ると損失が無限大になる怖さがある。

 もちろんSBGは金融テクノロジーを熟知したテクニカルな投資会社なので、二重三重のリスク対策は施されている筈だ。一般の投資家には想像もつかないようなリスクヘッジが設定されているから、想定外の事態が発生しても損失は最小限に収まるのだろう。

 株式投資がゼロサムゲームであることは冒頭に述べた。今SBGは金融テクノロジーを駆使して運用益を極大化しようとしている。SBGの運用益が極大化した時に評価損が極大化するのはSBGの投資スタイルとは無縁の一般投資家だ。

 今までアリババに次ぐユニコーンを発掘しようとしていた筈のSBGが、市場参加者の裏を掻く動きを始めると、SBGと孫正義心酔者との利害は対立し、今までの蜜月がウソのようなシビアな利益相反関係が形成される。

 SBGの株価が先週下旬から大幅に低迷(10日は若干戻した)した理由を、個々の投資家に聴取することは不可能だが、「SBGがオプション取引に40億ドルを賭けた」と伝えられたことが発端であるとすると、一般の投資家が、SBGが株式市場で膨大な資金力にものを言わせて取引することを、冷めた目で見つめていると見ることもできる。

 1カ月前の記者会見で「新会社はマネーゲームをするためではない」と語った孫会長の思いが投資家に伝わっていないのか、投資家は既に孫会長の本音を嗅ぎ取ったのか、マーケットの失望感が伝わって来るようなSBG株の値動きである。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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