「接ぎ木」はなぜ可能なのか? 名大などがメカニズムを解明

2020年8月18日 12:28

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タバコを中間台木に使った接ぎ木(画像: 名古屋大学の発表資料より)

タバコを中間台木に使った接ぎ木(画像: 名古屋大学の発表資料より)[写真拡大]

 複数の植物を繋ぎ合わせて、1つの植物のように育てる「接ぎ木」。古くからある園芸技術だが、なぜ植物が細胞修復を起こして違う植物と接合できるのか、そのメカニズムは明確な結論が出ていない。

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 そんな中、名古屋大学などの研究チームが、タバコ属の植物を使うと、遠縁の植物であっても接ぎ木が成立することに成功し、接ぎ木の仕組みの一端を明らかにした。接ぎ木の土台となる植物にタバコ属を使うことで、さらなる接ぎ木技術の発展に期待ががかる。

 接ぎ木は、品種の増量や病気・害虫対策、作業の効率化を図ることが狙いで、日本には約1100年前に中国本土から仏教伝来とともに伝わったとされる。現代では商用化が進み、果樹類ではキュウリ、スイカなどの瓜類や、ナス、トマト、ピーマンの栽培に接ぎ木の技術が導入されている。

 接ぎ木は、土台となる植物「台木」に、穂木と呼ばれる他の植物を接着させた後、台木と穂木の両者間で細胞の創傷治癒が発生することにより、達成するとされる。植物の細胞が修復するこの過程は活着とも呼ばれる。

 帝京大学の研究によると、植物の活着は、穂木の傷の上部と下部で別々に細胞分裂することで起こる。この細胞分裂には植物ホルモンのオーキシンが関わっており、傷の上下で生じたオーキシンの濃度差が、細胞分裂に重要な役割を果たす転写因子の発現を誘引し、結果として接着に至るという。

 その一方で、植物が活着するメカニズムの全容は未解明であり、接ぎ木の適用範囲も同じ科に属する種など近縁種に限られると言われている。そこで研究チームは今回、接ぎ木が成立する過程を分子レベルで分析し、異なる科の植物でも接ぎ木ができるかどうかを探った。

 実験では、ナス科のモデル植物であるベンサミアナタバコを筆頭に、7種のタバコ属植物を穂木とした上で、タバコ属ではない異なる科の台木を対象に接ぎ木を行った。すると、キャベツやブロッコリーといったアブラナ科や、マメ科など、37科73種と接ぎ木ができることを確認。

 組織が活着する中で細胞壁が消化していたことから、細胞壁を溶かして分解する酵素セルラーゼをつくる遺伝子「β-1,4-グルカナーゼ」にも着目した実験も実施。結果、この遺伝子が異なる科同士の接ぎ木だけでなく、同じ種同士の接ぎ木の成功率にも関わっていることがわかった。

 研究チームは、活着時の仕組みが解明されたことから、「接ぎ木が成立する仕組みを応用できれば、接ぎ木に使える植物が広がる。接ぎ木の技術が発展すれば、塩害や乾燥などで、耕作が難しい土壌でも作物を作り出せる」と期待している。(記事:小村海・記事一覧を見る

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