新型コロナワクチン開発の最新動向【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】

2020年8月11日 11:32

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記事提供元:フィスコ


*11:32JST 新型コロナワクチン開発の最新動向【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】
8月4日、世界保健機構(WHO)テドロス事務局長は、記者会見で「現時点で新型コロナウイルスの特効薬はなく、今後もないかもしれない。また、有効なワクチンが見つからない可能性もある」と警告した。一方、加藤厚労大臣は7月31日、「アメリカの製薬大手ファイザー社がワクチン開発に成功した場合、来年6月末までに6,000万人分のワクチンの供給を受けることで、同社と合意した」と発表した。さらに、日本政府は8月6日、オックスフォード大学と英製薬大手アストラゼネカ社が共同開発しているワクチンの日本への供給に向け、「同社と1億回分の提供を受けることで合意した」と発表した。

通常、ワクチンが市場に出回るには10年以上かかると言われている。米国政府は、トランプ大統領の号令の下「オペレーション・ワープ・スピード」を発動。約100億ドルを拠出し、2021年1月までに安全かつ効果的なワクチンを開発し、3億回分の供給を目指す計画を掲げている。ワクチンの臨床試験は3段階ある。第1相試験では、健康な少人数のグループに安全性と免疫反応が誘発されるかどうか確認する。第2相試験では、当該疾病の罹患者または、罹患可能性の高い被験者に投与し、ワクチンの有効性を検査する。第3相試験では、被験者数を数千人まで拡大し、より多様な件数の安全性と効果を確認するというものである。その後、規制当局により、このワクチンの承認を得て生産に移行するという手続きとなる。世界各地で150種類以上のワクチンが開発され、20種類が臨床試験を開始している。果たして、この先ワクチン開発に困難が伴うのか、それとも順調に推移するのだろうか。以下、この第3相臨床試験まで進んでいる有力候補の開発状況を確認してみよう。

7月22日、ロイターは、「米国立衛生研究所と共同開発している米モデルナ社とドイツ・ビオンテック社と共同開発している米ファイザー社が、第3相の臨床試験を開始した。両社はともにmRNA技術を応用した遺伝子ワクチンで、合計6万人規模の大規模試験を行い、早ければ10月にも緊急使用許可(EUA)などの承認を申請する計画である。両社の第2相試験のデータによると、新型コロナウイルスに対する『有効な抗体』と免疫システムを助け、感染している細胞を発見、破壊する『T−細胞』の産生が確認されている」と報じた。モデルナ社は、2021年以降、年間5億回分、ファイザー社は13億回分の供給を目指しており、両社ともに順調に第3相臨床試験に移行しているようだ。

イギリスのアストラゼネカ社と共同開発しているオックスフォード大学は7月20日、英医学誌「ランセット」に臨床試験で、免疫反応誘発の効果と安全性が確認された試験結果を掲載した。オックスフォード大学では「ウイルスベクターワクチン」としてウイルスを無力化できる「中和抗体」と「T細胞」の産生を確認している。米国は、アストラゼネカ社に対して12億ドルの先行投資と引き換えに3億回分のワクチン供給で合意している。オックスフォード大学はすでに第3相臨床試験を開始しており、英国、米国、ブラジル、南アフリカで5万人規模の試験を実施中であり、こちらも開発は順調に推移しているようだ。

中国の国有製薬大手、中国医薬集団(シノファーム)は、7月中旬、UAEで1万5千人規模の第3相臨床試験を開始し、バイオ系製薬の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)も7月21日からブラジルで9,000人規模の治験を開始した。康希諾生物(カンシノ・バイオロジクス)は第3相試験を前に足踏み状態である。5月にカナダで同試験を開始予定だったが、治験薬の輸出に関する不具合により試験が中断している。中国3社は、不活性化ワクチンを採用し、2020年末までに一般市民への提供を目指している。シノバック・バイオテックによると重篤な副作用を伴わない免疫反応を示す試験結果を学術誌「サイエンス」に掲載した。フィラデルフィア小児病院のワクチン教育センター長であるポール・オフィット氏はじめ専門家は、不活性ワクチン技術について「安全で効果的である可能性が高いワクチンを選ぶとすれば、不活性ワクチンが一番だろう」と話す。中国でのワクチン開発も順調に見えるが、中国では国内での感染拡大の抑制に成功してしまっていること、中国の臨床試験に協力しようという国が少ないこと、品質と安全性の基準以下のワクチンを出荷してしまって問題となったことなどから、今後の試験にいくつかの課題が残っている。

ロシアは、今月中にも国内で開発中のワクチンを政府が承認し、10月から大規模接種を開始するという見通しを明らかにした。ただ、欧米のメディアからは、臨床試験のデータが未公開であることから安全性や有効性を疑問視するという見方がでている。

我が国においては、創薬ベンチャーのアンジェスが本年秋以降の第3相試験の開始を目指し、塩野義製薬<4507>、第一三共<4568>が2020年内、2021年初の臨床試験開始を目指し開発中である。

日本へのワクチン提供で合意したファイザー社は「日本政府と協力していることを光栄に思う。2021年に東京オリンピック・パラリンピックを迎える日本を支える力になれることを嬉しく思う」と力強い支援のコメントを表明している。

通常、10年以上かかるワクチン開発を1年以内に成就するには、相当な苦労とひずみが生じるものと思われるが、世界中の感染拡大を防止するためにも、1日も早く、安全で効果的なワクチンの開発を期待したい。《SI》

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