土星の北極にあるヘキサゴン状雲の正体を探る

2020年5月12日 08:53

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土星の北極上空に浮かぶ美しい正六角形の雲 (c) NASA

土星の北極上空に浮かぶ美しい正六角形の雲 (c) NASA[写真拡大]

 土星は美しいリングを持った太陽系で2番目に巨大な惑星で、直径は地球の約9倍もある。この美しい惑星には、リング以外にも他では見られない特徴があることを、読者の皆さんはご存知だろうか?

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 実は土星の北極には正六角形の雲が浮かんでいる。この雲は1980年代にボイジャー1号、2号によって発見されたもので、土星の自転運動に形が左右されることなく、常に正六角形を保っているという非常に不思議な存在である。

 5月8日、英国Nature communications誌に、この土星のヘキサゴン状雲に関する研究論文が投稿されたので、今日はその概要について紹介したい。

 写真でお分かりのように土星のヘキサゴン状雲は、球体である惑星の上空にまるで人為的に描いたかのような不思議な印象を与え、この写真を初めて見る人は宇宙の驚異にきっと驚かされることだろう。

 このような奇跡的な形状をした雲が、土星の自転運動に引きずられることなく、かたくなに正六角形の姿勢を崩さないという事実も、驚愕に値する。なぜこのような形状の雲が出来上がり、長年にわたってこの形状を維持し続けているのかについては、誰にも分からない謎であった。

 この雲の中では、時速400kmにも及ぶジェット気流が渦を巻いている。また、雲の最も上層部分のさらに上空は300kmにも及ぶ6つの霧の層に覆われている。これらの各層はおよそ7~18kmの厚みを持ち、0.07~1.4ミクロンの微粒子を含んでおり、上空の温度はマイナス100度以下であることから、アセチレン、プロピン、プロパン、ジアセチレン、ブタンなどの炭化水素の氷晶が含まれると考えられている。

 これらが全体の輪郭となり、美しい正六角形を示しているのは、特定の速度のジェット気流に起因するためという。地球上でも、時速100km前後の西から東へ向かうジェット気流が存在する中、緯度領域では、これと似た現象が観測されている。だが地球上のものは、さすがに土星の雲ほど美しくくっきりとした存在ではなく、土星のそれはまさに太陽系で唯一の事象であり、研究者たちは今後さらに詳しくこの謎を解明していくという。

 余談ながら、あの美しい土星の輪は土星表面に氷の粒子を降り注がせ、少しずつその存在が小さくなっているのだそうだ。そして驚くことに、あと1億年ほどで消失してしまうだろうとNASAの研究者は語っている。もちろん今日の主役であるヘキサゴン状雲とて、いつまで見られるのかは分からない。その意味では、私たちは土星が最も美しく見ることができる時代に生かされているのかもしれない。宇宙の神様の粋な計らいに感謝しようではないか。(記事:cedar3・記事一覧を見る

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