ムール貝の貝殻に残された大震災の痕跡 環境変化を記録 東大などの研究

2019年6月14日 07:49

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貝がら断面に形成された成長線。(画像:東京大学大気海洋研究所発表資料より)

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  • LA-ICP-MSで化学組成を分析した後の貝がら断面。(画像:東京大学大気海洋研究所発表資料より)
  • 貝がらのマンガン濃度の変遷。(画像:東京大学大気海洋研究所発表資料より)

 津波などの大規模災害に際し、「前後の環境変化」を分析する事は難しい。観測が始められるのは事後である場合が多いし、大災害の最中に観測を始めるわけにもいかないという場合が多々あるからだ。しかし今回、東京大学などの研究グループは、東日本大震災の半年後に岩手県で採取されたムール貝の貝殻のマンガン濃度を分析し、当時の環境変化のデータを割り出す事に成功した。

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 研究に参加しているのは、東京大学大気海洋研究所の学術支援職員杉原奈央子氏、白井厚太准教授、堀真子特任研究員(肩書は当時)、天野洋典氏(当時大学院生)、福田秀樹准教授、小畑元教授、田中潔准教授、佐野有司教授、小川浩史教授、東京農工大学の水川薫子助教、高田秀重教授ら。

 ムール貝は洋食材として有名な貝類である。原産地は地中海沿岸だが、繁殖力の強い種であり、現在では全世界的に外来種として定着している。日本も例外ではなく、1932年には神戸で発見されており、1950年代には既に完全に定着していたという。和名はムラサキイガイと言い、イガイなど近縁の在来種も存在する。

 ムール貝は岸壁などに強固に付着していて、環境変化にも強いため、今回のような研究には適している。またかれらの貝殻の断面は、樹木でいう年輪のような「成長線」と呼ばれる縞模様が存在し、どの部分の成長線がどうなっているかを分析する事で、どの時期にどう貝殻が育っていったかを分析する事ができるのである。

 今回の研究では、「レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置」なる研究装置によって、2011年9月に岩手県大槌町の岸壁で採取されたムール貝の貝殻の分析が試みられた。特に着目したのはマンガンの濃度変化である。マンガンは海水中には少なく、土に多く含まれる物質だからだ。結果として、貝殻の中に見られるマンガンの濃度は津波の発生直後から急上昇し、4月の下旬頃から安定状態に入っていた事が分かったという。

 今回の研究は、今後「海中のフライトレコーダー」ともいうべき環境問題モニタリングの新たな手法になっていく事が期待される。なお研究の詳細は、ACS Earth and Space Chemistryに掲載されている。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る

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