新1000円札の顔と屈指の医療機器企業:テルモの繋がり

2019年4月15日 09:00

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 周知の通り新1000円札の顔に「ペスト菌発見」「破傷風治療薬開発」で知られる、「世界に冠たる日本の細菌学者・医学者」の故北里柴三郎氏が決まった。

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 医療機器で世界的な企業にのし上がったテルモは言葉を選ばずに言えば、故北里博士なくして「現在はなかった」かもしれない。

 テルモの祖業は、体温計。1921年というから1世紀近く前に北里博士を中心に「優秀な体温計の国産化」を目指して設立された、「赤線検温器」が前身となる。現在もなお体温計の国内シェアは第2位。そうした推移もさることながら、北里博士のスピリットはいまなお同社に息づいている。

 会長の三村孝仁氏、社長でCEOの佐藤慎次郎氏が揃ってこう強調している。「北里博士はイノベーションと挑戦というスピリットを、生涯にわたって大切にした。私たちは博士のスピリットを受けつぎながら、ビジョン実現に向けて新しい価値を追求していく」。

 テルモの事業領域は3つに分けられる。

★心臓血管カンパニー: カテーテル(細い管)を血管に通して診断や治療を行う血管内治療と、心臓血管外科手術が両輪。心臓血管疾患・菓子動脈疾患・脳血管疾患などの治療や肝臓がんの化学閉塞術で評価を得ている。

★ホスピタルカンパニー: (病院及び家庭での)治療・処置の手順に合わせた製品のシステム化や、ITを活用したデータ連携による医療現場の安全・効率を高めるプラットホームの提供。製薬企業に向けたシリジン(バイオ医薬品に適した薬剤充填用)の開発や、高度な無菌製造技術を活かした製造受託事業。

★血液システムカンパニー: 献血で提供された血液を製剤化し、事故や手術で大量の血液が失われた患者や正常な血液が作れない患者に輸血される。そのための全血や成分採血装置や血液自動製剤化システム、さらには血液治療に用いる遠心型血液成分分離装置や細胞増殖システムを手掛ける。

 歴史を振り返ると、記した様な3事業領域をより有効に展開するためにM&A戦略も積極的に活用している。

 同社を知るアナリストは「いまや日本のテルモではない。世界のテルモだ」とするが、1970年代早々に「テルモ米国」「テルモ欧州」を設立し現在国内外の売上高比率は国内32%、海外68%という状況にある(2019年第3四半期時点)。

 海外では「米国」を筆頭に欧州・アジア圏が拮抗状態にある。ちなみに外務省の「海外在留邦人数調査統計(2017年版)」は、国際的ブランドとして医療業界から初めてテルモがランクイン(39位)したとしている。

 先のアナリストは、問わず語りに「ホロファイバー(化学繊維製)型人工腎臓が1977年、同じくホロファイバー型人工肺が1980年。血管造影用カテーテエルが1985年。今世紀に入ってからも補助人工心臓を2010年に発売している」と次々に世界を席巻した製品を立て板に水で指折り数え始めたものである。

 同社の原点は北里博士。新札登場の暁には「給与振り込み」を一時停止し、新1000円札で手渡しするのも北里博士への「恩返し」になるのではないか。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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