NIMS、有機半導体で多値論理演算回路を開発 高集積化への道拓く

2018年7月4日 11:55

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多値トランジスタの素子構造(図:NIMS発表資料より)

多値トランジスタの素子構造(図:NIMS発表資料より)[写真拡大]

 物質・材料研究機構(NIMS)は2日、2種類の異なる有機トランジスタを組み合わせることで、3つの値をスイッチできる多値論理演算回路の開発に成功したと発表した。

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 柔らかく持ち運びが可能な有機半導体は、ウェアラブルデバイスの本命とも言われる。印刷技術を用いて大面積の半導体を安価に製造できることからだ。一方、有機半導体ではこれまで半導体デバイス開発で培ってきた微細加工技術による性能向上が叶わず、従来と異なる性能向上技術が求められていた。

 半導体デバイスでは、トランジスタのオン・オフの2値の状態を用いて論理演算回路を構成している。このトランジスタのサイズを微細加工技術で小さくし、同じ面積にトランジスタを多く集積することにより、性能を向上させてきた。それ以外の性能向上の方策は、2値の状態を多値の状態にして、演算することだ。フラッシュメモリなどでは、東芝やサムスンが多値化した製品を量産化しているが、多値論理演算回路は、量子コンピュータを筆頭に研究開発の段階である。

 今回の発表は有機半導体での多値論理演算回路の開発であり、詳細はアメリカ化学会が発行するNano Letter誌にオンライン版にて掲載されている。

●有機半導体での多値論理演算回路の特長
 電流特性の異なるトランジスタと通常のトランジスタを組み合わせることで、3つの値のスイッチングを実現した。

 ゲート電圧を一定以上に増加させるとドレイン電流が減少するという特殊なトランジスタが発明の決め手のようだ。ゲート電圧が低いときには、特殊なトランジスタに多くの電流が流れる状態1になる。ゲート電圧を上げていくと、通常のトランジスタと特殊なトランジスタに同程度の電流が流れる電圧範囲が表れる。状態2だ。更にゲート電圧を上げると、特殊なトランジスタの電流値の大小が逆転した状態3になる。

●有機半導体(NIMS、多値論理演算回路)のテクノロジー
 異なる電流特性を示す2種類のトランジスタを組み合わせることで、3つの値のスイッチングを実現。複数の出力値を制御する多値論理演算回路の開発が可能になる。

 多値演算回路の実現は、たとえひとつのトランジスタのサイズは同じでも、集積度とデータ処理能力が大幅に向上する。これまで有機材料が苦手としてきた高集積化を克服し、柔らかさと高いデータ処理能力を兼ね備えた新しい有機トランジスタの開発に期待が集まる。

 今回の発表では、消費電力に関しては触れられていない。バーポーラトランジスタのような素子構成に見えるのが気になるところだ。しかし、電力制御による日本の低消費電力化技術は世界に伍する。有機材料の高集積化が進めば、電力制御による低消費電力化も可能になるであろう。(記事:小池豊・記事一覧を見る

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