【増えるトラブル(下)】社会システムの劣化 神戸製鋼不正どこまで拡大?

2017年10月12日 17:09

印刷

 神戸製鋼の不正は広がりを見せている。鉄粉、ターゲット材と品目が拡大している。「組織ぐるみ」との表現ではなく「組織の劣化」と言うべきで、神戸製鋼の組織では「管理がなされていない」と考えるべきだ。「個人の暴走」と「組織ぐるみ」を分けることは無意味で、全ては「組織ぐるみ」である。

【上は】【増えるトラブル(上)】東名高速 追い越し車線で進路妨害 後続車に追突されて死亡

 製造業のビジネスモデルの「1丁目1番地」である「品質保証」の意味が、神戸製鋼の経営者には分らなかったようだ。では経営陣は何をしてきたのであろうか? おそらくは、「経営とは資金運用」感覚であったのであろう。自分たちのビジネスモデルを顧みない経営者が多くなってきている。高学歴のIQの高い「エリート」と呼ばれる人材である。社会に何が起きているのであろうか?

■社会システムの劣化

 その表れであるだろうが、一つ現実の「社会システムの劣化」の実例を挙げてみる。

 私の前を走る車に、原付バイクに乗る男が「足蹴り」を入れていた。車の運転手は動揺していたようで、ふらついていた。バイクの男は真っ赤な顔をしていて「酔っている」のが明白だった。繰り返し蹴られていた前の車は、何も反応せずにひたすら走っていた。しばらくすると私の車に向かってきたので、ヘッドランプを点灯し、警笛を鳴らした。蹴ったらバイクを止めるつもりだった。

 しばらく走ると道が分かれた、バイクは違う方向に行ってしまった。終わったと思って走っていると、後ろから追いかけてきた。しつこく追い上げてくるので交番のあるところで車を止めて、交番に連れ込もうとした。バイクの男は慌てて、先に交番に入ると「コイツがしつこいんだ」と言い始めた。

 「バカなことを言うな、こちらには同乗者もいるのだぞ」などと警官の前で言い合っていると、男は不利と見たのか、急に私の腕をつかんで交番の外に出ようとした。男の腕を振り払うと、そのまま男は急いで逃げ出した。

 問題はここからだ、若い警官は男を追いかけようとはしなかった。見るからに酔っぱらっており酒臭かったのにだ。しかし、若い警官は「運転は気を付けて、トラブルを起こさないように」と私に説教を始めた。呆れて警官を見つめていたが、その顔には「面倒だ」と書いてあった。

 確かに事情を聞いて調書を取るのは、時間がかかり面倒だ。しかし、酒を飲んでバイクを運転していた男は、とがめられなかった記憶が残り、また繰り返すだろう。これが問題だ。

 「公務員は犯罪を知ったら放置してはならない」のであり、目の前の飲酒運転を分って放置すると、警官の職務怠慢、犯罪なのだ。問題は、警察官が「分らなかった」と言えば、単に無能、怠慢で、犯罪とは言えなくなるのが法律だ。「ずるい」が正義となった場面だ。一警察官としては当然のサボタージュなのだが、これが社会全体に大きな打撃を与えている。「まじめに親切に」仕事を進めるしか、永くは生き残れないのだ。

■ブロークン・ウィンドウズ理論

 ブロークン・ウィンドウズ理論とは、ニューヨークの地下鉄で殺人などがはびこったとき、「警官が足りない」と騒がれたのだが、無賃乗車、落書きなど軽犯罪を徹底して取り締まったところ、強盗、殺人などの重犯罪もなくなったと言う理論だ。日本でも警視庁の歌舞伎町、北海道警のススキノなど犯罪の多い繁華街で、徹底して駐車違反を取り締まったところ、治安が回復した実績を持つ理論だ。

 それは「管理者がいる」ことを示すことで、重犯罪に至ることを防ぐ方が、軽犯罪を見逃し、重犯罪が起きるのを待って「一罰百戒」を狙う、日本の従来の警察のやり方より、効果が高いことを示している。

 自動車の世界ではVW、クライスラー、ダイムラーなどの燃費規制違反があっても、自動車ジャーナリストは批判しない。自動車会社ににらまれると仕事がもらえない現実があるからだ。日産自動車の新車検査違反など、安全対策形骸化が懸念される事態だが、ジャーナリストもあまり記事にしない。神戸製鋼の事実を誤認すると、日本の車産業自体を衰退させてしまう。

 それだけでなく「安全性」が懸念される事態だ。アルミ板の強度不足を自動車ではあまり心配しないが、「鉄粉不正」となると、ミッションなど最も強度の必要な部品に使われるので見逃すわけにはいくまい。タカタのエアバッグより深刻だ。日本製品そのものを買い控える事態となろう。

 この事態は、「管理者不在」が社会的なモラルの低下を招いていると見るべきだろう。官僚組織、役所、ネットの世界のモラルのなさなど、社会全体をむしばんできた。社会のモラルの低下は、社会の衰退のバロメーターなのかもしれない。

 「神戸製鋼の不正品の広がり」がどの程度になるかは別に、これは別途テーマに取り上げるべき事態だ。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事