人工光合成の太陽光エネルギー変換反応、高効率化の材料技術とは

2016年11月13日 22:34

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記事提供元:エコノミックニュース

注目を集めているのが人工光合成。これは太陽光と水とCO2を用い、酸素と水素および有機物などの貯蔵可能なエネルギーを人工的に生成する技術である

注目を集めているのが人工光合成。これは太陽光と水とCO2を用い、酸素と水素および有機物などの貯蔵可能なエネルギーを人工的に生成する技術である[写真拡大]

 将来に向けた持続可能な地球環境社会を構築していくためには、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスを低減していくことが急務であり、化石燃料に頼らない貯蔵可能なクリーンなエネルギーの創出が望まれている。そこで、注目を集めているのが人工光合成。これは太陽光と水とCO2を用い、酸素と水素および有機物などの貯蔵可能なエネルギーを人工的に生成する技術である。

 水素や有機物など貯蔵可能なエネルギーを人工的に生成するためには、太陽光のエネルギーを用いて光励起材料から反応電子を効率よく取り出し、加えて電極において、効率的に水やCO2と化学反応させることが必要。これまで、太陽光と水が反応する明反応の電極において、半導体材料や、比較的大きい粒子状の光励起材料を密度の低い構造で固めた材料が用いられていたが、太陽光(可視光波長)の中で利用できる波長の範囲が狭いことから化学反応に十分な電流量を取り出すことが困難だったという。

 今回、富士通研究所は、人工光合成技術で使われる、太陽光と水との相互作用で電子と酸素を発生する明反応電極において、光励起材料をそのまま用いる場合と比べて酸素の発生効率を100倍以上向上させる新しい薄膜形成プロセス技術を開発した。これにより、人工光合成による貯蔵可能な生成エネルギー量の向上が望めるという。

 具体的には、フレキシブル実装シート上にキャパシタなどの受動素子を形成するための電子セラミックスの成膜法(ナノパーティクルデポジション(NPD、注3))を改良し、光励起材料の原料粉末をノズルで吹き付ける際、原料粉末を薄い板状に破砕しながら基板上に積層させる薄膜形成プロセス技術を開発した。

 その特徴は、光励起材料の原料粉末を、成膜後に原子レベルのひずみを持つ結晶構造となるような組成にすることで、技術適用前と比べて太陽光のエネルギーを吸収できる最大波長を490 nmから630 nmへと広げ、利用可能な光の量を2倍以上に向上させることに成功した。

 また、形成された薄膜は、ミクロ・マクロな欠陥がないため結晶性が良く、材料中の粒子間の電子伝達特性に優れた緻密な構造となっている。これにより太陽光で励起された電子を効率的に電極に伝えることが可能となる。

 さらに、薄膜の表面構造は、材料と水との反応表面積が大きく、また、材料結晶中の電子密度の高い結晶面が膜表面に規則的に形成されている。その結果、水と光の相互反応を大幅に促進させることに成功した(

 今回開発した技術により、光励起材料をそのまま用いる場合と比べて、太陽光の中で利用可能な光の量が2倍以上に広がり、さらに、材料と水との反応表面積を50倍以上に拡大することに成功した。これにより、電子および酸素の発生効率を100倍以上に向上できることを確認した。

 今後、光励起材料とプロセス技術のさらなる改良を進め、明反応の電極の特性向上を図るとともに、暗反応部(ニ酸化炭素還元反応)・全体システムの技術開発についても取り組み、人工光合成技術の実用化を目指す方針。(編集担当:慶尾六郎)

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