上場企業がIFRS(国際会計基準)を導入する理由

2015年8月30日 17:36

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記事提供元:エコノミックニュース

 日本の上場企業で「IFRS(International Financial Reporting Standards/国際会計基準)」を導入(任意適用)する企業が増えている。全体的にみれば従来からの「日本基準」が大勢を占め、NY市場など海外市場でも上場する企業、ビジネスを国際的に展開する企業の間でも「米国基準」を採用する企業のほうがまだ多いが、それでもIFRSを新規に導入する企業は2015年3月期、前期から一気にほぼ倍増する勢いをみせた。導入企業は、なぜIFRSを導入するのか? その理由に、会計基準にIFRSを採用した時のメリットがはっきり見えてくる。

■EUはIFRSの強制適用、日本は任意適用


 国際会計基準はそもそも、1973年に設立された英国ロンドンに本拠を置く国際会計基準審議会(IASB)という民間団体が作成した会計基準で、コアの部分は1993年、全体は2000年3月にほぼ完成した。しかし「全世界の会計基準の統一」を目標としながら、世界的に米国基準や自国基準が幅をきかせる中、21世紀になるまではマイナーな存在だった。それが一躍、表舞台に飛び出したのは、2005年に欧州連合(EU)がEU域内の上場企業に対してIFRSの適用の義務づけ(強制適用)を決めたことだった。強制適用は現在、カナダやオーストラリア、ロシア、ブラジルなどの国にもひろがっている。

 日本の証券取引所の現状は、上場企業が決算の際に提出する有価証券報告書が準拠する会計基準は事実上、「日本基準」「米国基準」「IFRS」の三つのうち一つを選択できるようになっている。IFRSの導入は義務ではないので、それを選択すれば「任意適用」と呼ばれている。金融庁は「2015年または2016年からのIFRS強制適用」の方針をいったん示したものの、事実上、棚上げしたままになっている。なお、アメリカでは証券取引所に上場する国内企業には自国基準(米国基準)の採用を義務づけている。

■68社の上場企業が導入済みで、23社が予定


 東京証券取引所のデータによると、8月13日現在で東証上場企業のうち、IFRSをすでに導入(任意適用)した企業は68社ある。今後の導入がすでに決まっている企業は23社で、合わせて91社。それでも東証の上場企業全体3486社(7月31日現在)の中ではまだ2.6%にすぎない。それでも時価総額ベースではほぼ2割に達している。

■すでに導入した主な企業


 HOYA<7741>、日本板硝子<5202>、日本たばこ産業<2914>、DeNA<2432>、双日<2768>、丸紅<8002>、楽天<4755>、ソフトバンク<9984>、旭硝子<5201>、武田薬品工業<4502>、アステラス製薬<4503>、第一三共<4568>、リコー<7752>、伊藤忠商事<8001>、三井物産<8031>、三菱商事<8058>、エーザイ<4523>、ヤフー<4689>、富士通<6702>、日東電工<6988>、ファーストリテイリング<9983>、電通<4324>、コニカミノルタ<4902>、日立製作所<6501>、デンソー<6902>、本田技研工業<7267>、日本取引所グループ<8697>、コナミ<9766>、住友理工<5191>、KDDI<9433>(導入順)

 花王<4452>、三菱ケミカルホールディングス<4188>、田辺三菱製薬<4508>、JXホールディングス<5020>、パナソニック<6752>などは次の決算期からの導入(任意適用)が決まっており、不適切会計問題で揺れる東芝<6502>も、現在のところ来期のIFRS導入企業に含まれている。

 IFRSの導入が最も早かったのは2010年3月期の日本電波工業<6779>で、続いて2011年3月期にHOYA、住友商事、2012年3月期に日本板硝子、日本たばこ産業が導入した。その後、年を追って導入企業は増加し、2015年3月期には前期比でほぼ倍増する勢いをみせた。

 業種別に眺めれば、医薬品や商社のように「大手が横並びで一斉導入」に近い業種もあれば、自動車や電機のように今なお業界内でIFRS、日本基準、米国基準の企業が混在している業種もある。2015年3月期に日立製作所をはじめ日立グループ主要企業が一斉に導入した例や、本田技研工業と八千代工業<7298>など関係が深い企業が揃って導入した例もあるが、決して名だたる大企業が「右にならえ」で導入を急いでいるわけではない。たとえば米国基準のトヨタ自動車<7203>の小平信因副社長は、ホンダやトヨタグループのデンソーがIFRSの導入を決めても、5月8日にロイターの取材に対し「IFRSは基本的に考えていない」と答えている。

■導入理由に多い「国際的な比較可能性」


 なぜ、IFRSを導入するのか? 導入する際の各社のコメントを見ていこう。

 2013年12月期から導入したソフトバンクの場合はアメリカの携帯キャリア大手スプリントの買収がきっかけで、海外での事業展開を本格化するにあたり「資本市場における財務情報の国際的な比較可能性の向上を目指し、国際会計基準を任意適用することにいたしました」と説明した。同時に「のれん代の償却停止」「持分法適用会社の範囲」「優先出資証券の負債計上」などの導入のメリット、デメリットを詳細に開示している。

 2014年3月期から導入した三菱商事は、導入を目指す理由について2010年に代表取締役副社長執行役員CFOの上田良一氏(当時)が日経新聞のインタビューに答えて、「もともとIFRSの趣旨とは、企業の評価に『国際的に同じものさしを当てる』ということです。世界共通の『ものさし』が採用されることになれば、海外での資金調達やIRにおいてのメリットが期待されます。三菱商事もグローバルカンパニーとして、当然、前向きに検討しなければなりません」と述べている。上田氏は内部的なメリットとして海外子会社の米国基準への組み替え作業が不要になる点、デメリットとして非上場株式の公正価値評価の難しさを指摘していた。

 2016年3月期から導入した住友理工はIFRS導入の目的について「資本市場における財務諸表の国際的な比較可能性の向上、およびグループ内での会計処理の統一」などを挙げている。実際、買収した海外企業からIFRS適用の要請があって導入に踏み切ったという。同社は2013年にイタリア、タイ、ドイツ、ブラジルの企業を買収しているが、タイ以外はIFRSの強制適用国である。

 武田薬品工業は「欧米同業他社との財務情報の比較可能性の向上、資金調達の選択肢の拡大、およびグループ内での会計処理の統一」などを導入目的に挙げていた。日本たばこ産業の第一の導入目的は「海外の競合との比較可能性を高めること」で、投資家から「同じ基準で数字を出してほしい」という要望があったという。また、IFRS導入で国際資本市場から効率的に資金を調達するためにもIFRS導入が必要と判断している。

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