【インタビュー】革で人が繋がる「MATAGI プロジェクト」 産地を獣皮で活性化

2015年7月3日 11:10

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記事提供元:アパレルウェブ

 東京・墨田でピッグスキンを中心に鞣し(なめし)加工を行う山口産業株式会社が、新たな挑戦を始める。

 同社は、これまで培った鞣しの技術とノウハウを活かし、捨てられることの多い獣皮を皮革素材にして、産地に還す「MATAGIプロジェクト」を行ってきた。そして今、その取り組みを産地とその土地のタンナーを結び付けることで全国へと広げ、産地の独自ブランド育成までを行う一貫体制を整えつつある。

 そこで今回は、山口産業株式会社の山口明宏専務取締役に「MATAGIプロジェクト」の内容や今後のビジョンについて聞いた。

■捨てられていた獣皮を、利用可能な革へ


●「MATAGIプロジェクト」とは?


 シカやイノシシの獣皮を有効資源化し、産地活性に繋げる事業が「MATAGIプロジェクト」です。獣皮活用をサポートするNPO・学校・なめし工場などのメンバーを中心に、2013年4月から実行委員会として組織化し、これまでに全国90以上の産地や団体を支援しています(なめし支援活動は2008年より実施)。

 「MATAGIプロジェクト」では、お預かりした獣皮を靴やバッグなどに使えるように獣革=皮革素材にして、産地に還します。すなわち、加工賃と事務費用(送料・税別途)のみをいただくことで、産地負担を軽減し、産地に最大限の収益を発生させることを目的としています。

●プロジェクトのきっかけ


 獣害対策として駆除されたシカやイノシシでも、その肉や皮はほとんど利用されることなく捨てられています。技術的な面もそうですが、安定供給できない、大きさや品質が一定でないなど、天然だからこその悩みもあります。そんな相談を産地から受け、2008年から獣皮のなめし支援を開始しました。

 ただ、加工前の情報提供や製品化、販売など鞣し以外の問題は、私たちだけでは解決できるものではありませんでした。そこで、産地、なめし工場、地域支援に関わる人をネットワークで繋げる「MATAGIプロジェクト」を立ち上げました。

■ニーズは日本全国。海外からの反響も


●植物タンニンなめしへの注目


 皮は鞣すことで革になりますが、世界的には金属系の鞣し剤を使用する「クロムなめし製法」が比較的容易にでき、一般的です。しかし労働環境への懸念や、排水に含まれるクロムの環境汚染などの観点から、植物タンニンによる鞣しに注目が集まっています。

 「本当に革になるのか?」「どのように皮処理すればいいのか?」という質問は、日本だけでなく海外からも多く寄せられており、当プロジェクトでは皮革素材として、また商品になった時にも安全で安心なラセッテーなめし製法(植物タンニンを主成分とする山口産業の独自技術:RUSSETY製法)のみを採用し、作る人にも使う人にもやさしい革にします。

■産地とその土地のタンナーを結ぶ


●六次産業化を創出


 すべては産地ありきの活動であり、地元資源の有効利用は産地のみ有する権利です。獣皮が出る産地で製品を生産することで、六次産業化ができますし、既存設備があればできるため、コストメリットもあります。

●皮革への知識を深める活動も


 獣皮活用のために入り口から出口までの支援体制の整った「MATAGIプロジェクト」では、実物の獣皮を使用し、皮を剥ぐ工程から獣革にするための必要な処理方法、また鞣し工場に送る場合の注意点や送り出すまでの保管方法を実地で学ぶことができます。さらに、鞣し工場見学会を開いているので、他の動物革との違いや、皮革の基礎知識も身に付けることもできます。

■共感力で広がる活動


●産地を思う心


 捨てていた獣皮を本当に活用できるのか。まずは1カ月後にでき上がった革を見て風合いを確かめてから大いに悩んで頂ければと考えます。産地を思う心があれば、誰でもスタートを切ることが可能なプロジェクトです。

●作る~売るまでをサポート


 ものづくりの場では、作ることまではできても、売れないために継続できない、ということはよくあります。そのため販売・ブランディングまでの支援が必要です。どういう素材か、どういう人が作っているか、また、豊かさがどういうことなのかを伝えていくポンプの役割をするクリエイティブディレクターを立て、流通、販売店までを繋げていきます。

●“共感力”が成功の鍵


 土地ごとに輝くブランドとなるよう、個々の特性や文化、風習など地域産品としての魅力づくりを、民間や行政の枠を超えて、地域住民みんなでアイデアを出し合うような共感力が成功の鍵だと考えます。

 また、産地が直接的に獣革を活用できるような展示販売会や連携事業など、参加者自身の能動的な行動を引き出し、獣皮産地の活性化に貢献していきたいと考えています。

山口産業株式会社
住所:〒131-0042 東京都墨田区東墨田3丁目11番10号
URL:http://e-kawa.jp/

【お知らせ】

 山口明宏氏は、2015年7月8・9日「テキスタイルネット展」(アパレルウェブ主催)で行われるセミナーでも、「MATAGIプロジェクト」についてお話しいただきます。

■詳細・セミナー参加お申し込みはこちら

http://www.textile-net.jp/exhibition/2016ss.html

※この記事はアパレルウェブより提供を受けて配信しています。

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