【コラム 山口利昭】アートネイチャー株主代表訴訟最高裁判決の原審破棄理由

2015年3月1日 23:34

印刷

記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【3月1日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

 先週金曜日に出ましたアートネイチャー事件株主代表訴訟最高裁判決につきまして(金曜日のエントリーでは社名は伏せておりましたが)匿名さんや迷える会計士さんから有益なコメントをいただきました(ありがとうございます)。迷える会計士さんからは非公開企業の株式評価手法に関するご意見ですが、匿名さんは「そもそも論」として以下のような疑問を呈されています。

 「今回の最高裁の判決で一番良くわからないのは、破棄された理由が、法令解釈上の問題に全く見えないことです。実質的に事実認定の問題であり、下級審の判断に著しく不合理な部分があるという感じもしません。一応合理的な算定を会社が行なった形跡があれば、実質的に見て価格が不公正であっても、特に有利な価格であると認定してならないとかいう趣旨の法令解釈を判例として残したかったのでしょうか?」

 私は印象として「お天道様と最高裁は見ている」と書きましたが、正直、理屈としてはあまり詰めて考えておりません(というか、そこまで考える能力がありません・・・笑)。これはあくまでも推論にすぎませんが、民事訴訟においては当事者の鑑定申立(証拠提出)がないにもかかわらず裁判所主導で評価手法を決定して非公開株式の価格を算定する、というのは手続き違反に該当するというものではないかと。職権探知主義が妥当するのは株式の価格決定申立事件のような「非訟事件」のみであり、通常の民事訴訟の証拠採用においては裁判所の職権探知主義的判断は許されないという趣旨かと思いました。最高裁が下級審の株式価格の判断過程に対して厳しい指摘をしている部分の書きぶりから、なんとなくそう考えた次第です。

 「特に有利な発行価格」という規範的要件の解釈としては、双方の評価根拠事実、評価障害事実を突き合わせて判断しなければ、裁判所のいうように当事者の「予測可能性」を超える判断をしてしまうことになるので、「一応合理性のある資料に基づくものであれば」といった言い回しになっているのかな・・・と思うのですが、いかがでしょうか。したがって、この「一応合理性のある資料」に基づく算定がなされたとしても、相手方が別途意見書を提出することや、当時の状況を主張することで(たとえば、迷える会計士さんがコメントされているように、ひょっとしたら株式発行当時、関係者らは株価上昇予測が立てられた、関係者からみて実質的に不公正な価格だと疑う余地があった、という主張などによって)反論することは可能ではないかと。結局のところ反論が成功しなかったということは、私が金曜日のエントリーで述べたように、役員側がコンプライアンス経営、透明性ある経営を継続することの重要性に起因するものと考えた次第です。

 毎度判例を速報としてご紹介する際に、理屈のところをあまりブログで書かないのは、今後の商法学者の皆様の判例評釈などを精査しないと正確なことは言えないと思っているからでして、今回の推論も、あくまでも私の個人的な意見にすぎません。いろいろな法律雑誌で著名な先生方がどのように分析されるのか、私自身も楽しみにしています。【了】

 山口利昭(やまぐち・としあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。
 大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。

■関連記事
【コラム 山口利昭】お天道様と最高裁はみている-ある最高裁判決への雑感
【続報】アートネーチャー:地裁・高裁まで株主側勝訴の代表訴訟、最高裁で破棄自判で請求棄却
氏本厚司東京地裁民事8部判事が1年弱で最高裁事務総局へ移動へ

※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。

関連記事