Comau、NVIDIAと産業ロボットAIで協業 Jetson搭載制御装置とIsaac Sim活用へ

(Credit: Justin Sullivan / Staff)[写真拡大]
イタリアの産業オートメーション企業Comauは2026年10月21日、NVIDIAの技術を活用した産業用ロボットの開発・設計に関する協業を発表した。次世代の産業用ロボットコントローラーにJetsonのエッジコンピューティングを取り入れ、産業用、協働型、移動型ロボットのモデルをシミュレーション環境のIsaac Simに統合する。
現場でAIを動かす計算基盤と、仮想空間でロボットを学習・検証する開発基盤を整える取り組みだ。Comauは、製品や作業条件の変化に対応できる自動化システムを開発し、顧客の導入を速めることを目指す。
■仮想空間で学習し、工場への導入につなぐ
Comauが活用するIsaac Simは、NVIDIA Omniverseのライブラリーを基盤とするロボットのシミュレーション、試験、合成データ生成のためのフレームワークだ。ロボットや周辺設備を仮想空間に配置し、実機を設置する前から動作や作業工程を検討できる。
この開発手法で課題となるのが、シミュレーションと実機の挙動に差が生じる「シム・トゥ・リアル・ギャップ」である。接触や摩擦のモデル、照明条件、センサーの特性、制御処理の再現性などが、仮想空間で得た結果を実際の作業へ移す際の精度に関わる。
対応策の一つが、学習時に環境条件を変える「ドメインランダム化」だ。照明や物体の外観、物理パラメーターなどを変えて経験を積ませ、特定の仮想環境だけに適応することを抑える。合成データを使えば、認識モデルの開発に必要な多様な場面を仮想空間で用意できる。
NVIDIAはGTC Berlinに合わせた10月21日の発表で、ロボット学習フレームワーク「Isaac Lab 3.0」の一般提供も発表した。Isaac Labは強化学習や模倣学習を支え、観測情報に応じてロボットの行動を決める「方策」を学習するために利用できる。
Comauはこれらの技術を、自社のビジョンシステム「MI.RA」向けAIモデルの学習や、工場・倉庫内物流の制御戦略の開発に活用する。対象には荷物を積み上げるパレタイジングや、積まれた荷物を取り出すデパレタイジングが含まれる。物流工程を扱う離散事象シミュレーションも組み合わせ、実機への展開前に制御方法を学習・検証する方針だ。
■SimReadyでロボットモデルの準備を効率化
Comauは、Hugging Face上の「SimReady Central Library」に、OpenUSD形式のSimReadyロボットアセットを提供している。開発者が再利用できるモデルを整えることで、ロボットアプリケーションの構築と試験に先立つ準備を減らす狙いがある。
NVIDIAによると、2026年10月21日の発表時点で同ライブラリーには2,000点超のシミュレーション対応アセットが集まっている。SimReadyでは、用途に応じて衝突形状、質量や摩擦などの物理特性、関節構造、意味を示すラベル、マテリアルやセンサー関連属性といった情報を扱う。必要な項目は利用するシミュレーションの用途によって異なる。
外形を表すCADモデルをシミュレーションで使う際には、物体同士の接触や動きを計算するための情報も必要になる。用途に合う属性を備えたモデルを再利用できれば、開発者は個々のモデルの設定作業を減らし、設備の配置やロボットの動作検証に時間を振り向けられる。
OpenUSDは、Pixarが開発した技術を起源とする、3Dシーンを記述・構成するためのオープンな枠組みである。Pixar、Adobe、Apple、Autodesk、NVIDIAを創設メンバーとするAlliance for OpenUSDが、標準化や相互運用性の向上を推進している。機械メーカーのモデルと周辺環境のデータを組み合わせるうえでも、共通の形式が役立つ。
■Jetsonで現場のAI処理を支える
実機側では、Comauの次世代産業用ロボットコントローラーにJetsonの計算基盤を組み合わせる。Comauによると、新しい構成は負荷の高いAI処理に対応し、用途や顧客の要求に応じて、より適応性や自律性の高いロボットを開発するためのものだ。
エッジコンピューティングでは、カメラなどから得た情報を機器の近くで処理できる。認識結果を使った動作計画や作業判断を現場で行う構成は、外部ネットワークとの往復を減らし、応答時間を管理しやすくする。こうしたAI処理をロボットの運動制御や安全機能とどう連携させるかが、システム設計の要点になる。
Jetsonの製品群では、NVIDIAが2026年7月にBlackwell GPUを採用する「Jetson T3000」を発表している。同社発表では、32GBのLPDDR5Xメモリーを備え、AI演算性能は865 FP4 TFLOPSとなる。提供開始は2027年第1四半期の予定で、開発者向けには既存のJetson AGX Thor開発者キットを使ったエミュレーション環境が用意されている。
他社でもエッジAIの活用が進む。ファナックは2026年5月、Jetson Thorを採用したロボットシステムを発表し、ロボット基盤モデルを使った模倣学習も披露した。ユニバーサルロボットの「UR AI Accelerator」はJetson AGX Orinを使う開発基盤で、同社は協働ロボット「UR15」と組み合わせたAI品質検査のデモを公開している。
■ABBやファナックも仮想開発を拡充
シミュレーションと実機の接続は、産業用ロボットメーカー各社が取り組むテーマだ。ABB Roboticsは、RobotStudio HyperRealityにNVIDIA Omniverseのライブラリーを統合し、ロボットの仮想コントローラーと写実的な環境、合成データ生成を組み合わせている。
ABBは、実機と同じファームウェアを使う仮想コントローラーにより、動作軌跡や加減速、サイクルタイムの再現性を高めるとしている。また同社によると、実機の幾何学的な特性を校正する「Absolute Accuracy」技術で、通常8〜15mm程度の位置のずれを約0.5mmまで抑えられる。仮想環境の再現性と実機の校正を組み合わせる考え方である。
ファナックは日本語の公式発表で、シミュレーションソフト「ROBOGUIDE」とIsaac Simの連携を強化したと説明している。実機と同一の制御アルゴリズムを用い、軌跡とサイクルタイムを仮想空間で再現する。ROBOGUIDEにつながる実物または仮想の教示操作盤から、Isaac Sim内のロボットを操作できる。
Siemensも、Siemens XceleratorとOmniverseを結び付ける協業を進めている。両社は2025年、熱、ほこり、振動のある環境での24時間稼働に対応する、NVIDIA GPU向けに認定された産業用PCについて発表した。設計用の仮想環境に加え、工場でAI処理を動かす計算基盤の整備も進んでいる。
Festoについては、NVIDIAが2022年に、Isaac Simの協調フレームワーク「Isaac Cortex」を使った協働ロボットのスキル開発を紹介している。ゲーム開発の考え方をロボットの動作設計へ取り入れ、プログラミングを簡単にする取り組みだ。Comauの協業も、仮想開発、学習、現場での実行をつなぐ産業用ロボティクスの流れに位置付けられる。
■欧州の産業AI基盤とComauの提携網
今回の発表は、NVIDIAが欧州で産業AIやロボティクス関連の協業を広げる時期と重なる。GTC Berlin 2026では10月20日にワークショップ、21〜22日に会議と展示が行われ、21日にはジェンスン・フアンCEOがTempodromで基調講演を行った。会議会場はSTATION-Berlinで、100超のセッションが設けられた。
ドイツでは、Deutsche TelekomとNVIDIAによる「Industrial AI Cloud」が2026年2月に稼働を開始した。Deutsche Telekomによると、製造業などがAIの開発や学習、活用に使うための計算基盤である。NVIDIAは10月21日、このクラウドを拡張する計画も紹介した。
Comauはトリノに本社を置き、産業オートメーションで50年以上の経験を持つ。2024年12月30日には、米投資会社One Equity Partnersによる過半数出資が完了した。Stellantisは少数株主として残っている。
2026年3月にはReis Roboticsと協力契約を結び、造船、工場・倉庫内物流、大型一体鋳造、電池生産、重工業、重要インフラなどを対象に自動化技術の共同開発・提供を進めると発表した。5月にはAptivと覚書を交わし、ロボティクス、自律システム、倉庫・物流システムの共同開発を検討する枠組みを設けた。Aptivによると、Comauの産業用コントローラーではWind RiverのリアルタイムOS「VxWorks」が以前から使われている。
同じく5月には、オムロンのロボティクス事業との協業も発表した。対象はエレクトロニクス、半導体、医療関連製造、軽工業の構内物流などだ。NVIDIAとの協業は、こうした製品・用途の拡大に、AI向け計算基盤と仮想開発の手段を加えるものとなる。
■自動車生産の経験を物流などへ展開
Comauには、自動車の量産設備で培った実績がある。2020年に発表した電気自動車Fiat 500向けの生産設備では、車体構造部品の製造ラインに187台のロボットが使われた。現在は航空宇宙、水素関連、物流、消費財などにも事業を広げている。
2025年6月のAutomaticaで発表した協働ロボット「MyCo」は、短時間での設置、簡単なプログラミング、作業変更に伴う再配置を重視する製品群だ。物流や包装、軽作業など、自動車以外の用途も想定している。
Comauは2026年9月、欧州のMASTERLYプロジェクトの一環として、Decathlonの電子商取引向け物流業務でMyCoを使う注文準備システムを試験・検証したと発表した。ROS 2ベースのソフトウェア、AI画像認識、モジュール式グリッパーを組み合わせ、形状、重量、素材の異なる商品の取り出し、搬送、積み付けに対応する。同社はリアルタイムの最適化も特徴として挙げている。
またComauは2024年、AI, Data and Robotics Associationに参加した。同団体は、欧州の研究・イノベーション支援枠組みHorizon EuropeにおけるAI・データ・ロボティクスの官民パートナーシップで、民間側を代表する組織である。
自動化への関心は調査にも表れている。PwCが2026年2月に公表した調査によると、主要工程を高度に自動化しているメーカーの割合は、調査時点の18%から2030年には50%へ増えると見込まれている。調査は2025年7月下旬、24の国・地域の上場産業メーカーの上級幹部443人を対象に実施された。
ABI Researchの2022年の資料では、産業用・商業用ロボットの稼働台数を2020年の310万台から2030年には2,080万台へ増えると予測していた。対象範囲や予測時点を踏まえて読む必要はあるが、多様な現場への展開を見据えたロボット開発では、設備ごとのモデル作成や学習、導入準備を効率化する重要性が高まる。Comauは、実機と用途の知見にNVIDIAのシミュレーションと計算技術を組み合わせ、その開発工程をつなごうとしている。
元記事: NVIDIA Certifies Comau to Run Isaac Sim Inside Factory Robot Controllers
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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