種の保存法に指定されている陸産貝類「ムラヤママイマイ」の食性を糞中のDNA情報から解明
プレスリリース発表元企業:国立大学法人 静岡大学
配信日時: 2026-10-01 02:10:02
―今後の保全策の策定・実施の方向性に寄与―
【研究のポイント】
- ムラヤママイマイが8目11科に渡る幅広い植物を採餌することを発見- 食性利用は季節による変動が少ないことを発見
- 食性情報の知見は現在進められている生息域内・域外保全活動に寄与
【研究概要】
静岡大学理学部の伊藤舜助教と糸魚川ユネスコ世界ジオパークの自然資源保全委員会吉田一郎委員長は、新潟県糸魚川市明星山に固有の陸産貝類のムラヤママイマイの糞中に残されたDNA情報から、本種の食性の一端を解明しました。本種は、現在、個体数の激減に伴って危機的生息状況にあり、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)に基づき、国内希少野生動植物種等に指定されています。そのため、生息域内・域外の両側面から保全活動が進められています。
本研究により、本種の食性の一端を明らかにできたことは、今後の保全策の策定・実施の方向性を示すことにつながります。生息域内保全においては、生息地内に見られる植生全体を幅広く保護する必要性を示します。生息域外保全では、糞中から検出された植物が本種の効率的な保護増殖に有用となることが期待されます。
なお、本研究成果は、2026年9月16日に、Malacological Society of Australasiaと軟体動物多様性学会が共同発行する国際雑誌「Molluscan Research」に掲載されました。
【研究者コメント】
静岡大学 理学部 助教 伊藤舜本種が国内希少野生動植物種に指定された2019年度から続けられてきた保全活動に対して、ようやく一つの方向性を示すことができました。本種が置かれた危機的状況は依然として変わりませんが、国内希少野生動植物種等からの解除を目指し、保全活動を継続していきます。
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/96787/154/96787-154-6fa9ff6dca6bf323fb719b788bd7a024-1788x1184.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
【研究背景】
陸産貝類は日本列島において極めて高い種の多様性を示します。しかしながら、人為的な環境改変や気候変動、過度な採集等により、多くの種が絶滅の危機に瀕しています。ムラヤママイマイは、新潟県糸魚川市明星山の岩壁だけに生息する大型の陸産貝類であり、1971年に村山均氏により発見、次ぐ波部忠重博士による1976年の記載以後、極めて扁平で特異な形態から乱獲により激減したことが指摘されています。現在ではこの危機的状況から、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(種の保存法)に基づいた国内希少野生動植物種、糸魚川市希少野生動植物保護条例に基づく特別指定希少野生動植物種、糸魚川ジオパーク自然資源の保護・保全の基本方針における貴重・希少野生動植物保護・保全対象種リストに指定されています。そのため、原則として、捕獲、採取、殺傷、損傷、譲渡し等が厳しく禁じられています。
本研究チームでは、保全生物学的な学術研究と保全活動を両輪から実施しています。本研究は、これら活動の一環として、糞中のDNAを対象としたメタバーコーディング解析(注1)を用いることで、本種の食性の一端を明らかにしました。
【研究の成果】
解析の結果、ムラヤママイマイの糞中から8目11科11属11種の植物(ススキ、フサザクラ、アオツヅラフジ、クサボタン、ツゲ、キリンソウ、ヤマブドウ、シモツケ、エゾエノキ/エノキ、オニグルミ、ツルウメモドキ)が検出されました。これら植物は本種の生息地に自生しています(図1)。中でも常緑性の低木であるツゲは高い頻度で検出されました。このような植物の検出には、夏と秋の季節による違いは見られませんでした。その一方で、夏の方が秋よりも検出された植物に個体レベルで大きなばらつきがありました。これは本種が利用する採餌場所や利用可能な植物由来の物質が季節的に変化する可能性を示唆します。[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/96787/154/96787-154-248106ecde6fbe41b41e64ab25f7f370-1500x564.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1.糸魚川市明星山の岩壁。岩壁の隙間にはツゲ等、ムラヤママイマイの糞中DNAから検出された植物が見られます。
【今後の展望と波及効果】
現在、本研究チームにより本種の生息域内及び域外での保全活動が進められてるものの、依然として予断を許さない状況が続いています。特に、限られたリソースの中で保全活動を進める上で、何を優先すべきかを科学的な知見に基づいて決定する必要があります。生息域内保全においては、本種が多岐に渡る植物を利用することから、生息地内に見られる植生全体を幅広く保護する必要性が示されました。一方、生息域外保全では、未だ十分な個体数まで増やすことができていないことから、今回検出された植物が効率的な保護増殖に有用となることが期待されます。ただし、今回の研究では、植物の葉緑体の一遺伝子だけに着目したため、検出された種が植物に偏っている可能性を否定できません。今後は菌類を始めとした植物以外の分類群をターゲットにした遺伝子領域の解析を実施することで、本種の基礎的生態の更なる解明、保全活動の効率化にもつなげることが期待されます。
なお、本研究は、環境省の国内希少野生動植物種捕獲等許可、糸魚川市の特別指定希少野生動植物の捕獲許可、糸魚川ユネスコ世界ジオパークの学術研究等のための採取と捕獲許可を得て実施されました。
【論文情報】
掲載誌名:Molluscan Research論文タイトル:
Plant taxa detected in the faeces of the critically endangered Japanese land snail Euhadra murayamai using chloroplast DNA analysis
著者:Shun Ito, Ichiro Yoshida
DOI:10.1080/13235818.2026.2732577
【研究助成】
本研究は、環境省 生物多様性保全推進支援事業(国内希少野生動植物種生息域内保全)、糸魚川ジオパーク学術研究奨励事業の支援により実施されました。【用語説明】
(注1)メタバーコーディング解析:糞や胃の中に残存するDNA断片の内、目的とする遺伝子領域をPCRにより増幅し、次世代シーケンサーを用いることで増幅したPCR産物の塩基配列を網羅的に決定する。そして、決定した塩基配列をDNAデータベースに照合することでどの種が糞や胃の中に含まれていたかを明らかにする手法。非侵襲的に糞を採取することで、保全対象種であっても、生体を傷つけずに食性を調べることができる。
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