海鳥オーストンウミツバメの尾腺分泌物の季節変化を解明
プレスリリース発表元企業:日本野鳥の会
配信日時: 2026-09-01 05:10:02
―嗅覚が発達するウミツバメ類における尾腺の役割―
国立大学法人東京農工大学大学院農学研究院動物生命科学部門・永岡謙太郎教授らの研究グループは伊豆諸島で繁殖するオーストンウミツバメ(Hydrobates tristrami)の尾腺分泌物の季節変化を調べ、雌雄ともに育雛期において1-hexadecanolが上昇することを示しました。この物質が上昇する要因や適応的な意義は不明ですが、嗅覚が優れるウミツバメ類において匂いの素として考えられている尾腺分泌物の生理学的な役割の解明につながることが期待されます。
本研究成果は、IBIS(8月14日付)に掲載されました。
論文タイトル:Seasonal variation in preen gland secretions of Tristram’s Storm Petrel (Hydrobates tristrami)
URL:https://doi.org/10.1111/ibi.70110
背景
尾腺は鳥類に特有の分泌腺で、羽づくろいの際に分泌物が全身に塗り広げられます。近年、この尾腺分泌物は羽毛の微細構造を維持する以外の様々な機能を有する可能性が報告されています。生涯のほとんどを海上で過ごすミズナギドリ目(注1)の海鳥は、鳥類の中でも特に嗅覚が優れており、採餌や帰巣、個体識別などに嗅覚を用いていると考えられています。中でもウミツバメ類は特徴的な体臭を発することが知られており、尾腺分泌物がその匂いの素として、種内や種間のコミュニケーションに関与している可能性があります。一方で、尾腺分泌物の化学的な組成やその性差、季節変化に関する研究は限られています。そこで本研究では、ウミツバメ類における尾腺の役割を解明するために、伊豆諸島で繁殖するオーストンウミツバメを対象に、繁殖期中の尾腺分泌物の性差および季節変化を明らかにすることを目指しました。研究体制
本研究は、東京農工大学大学院農学府共同獣医学専攻の大学院生寺嶋太輝(当時)および同大学大学院農学研究院動物生命科学部門の永岡謙太郎教授、日本野鳥の会自然保護室の山本裕博士が共同で実施しました。本研究は、JSPS 科研費 JP24KJ1021、公益財団法人自然保護助成基金 第33期(2022年度)プロ・ナトゥーラ・ファンド助成の支援を受けて行なわれました。
研究成果
オーストンウミツバメは北太平洋に生息し、11~5月に繁殖するウミツバメ類です。伊豆諸島神津島の属島、祇苗島が日本最大の繁殖地として知られています。本研究では2023年から2025年の複数の繁殖期にわたって、繁殖初期、抱卵期、育雛期および繁殖後期に、環境省より許可を得て祇苗島においてオーストンウミツバメを捕獲し尾腺分泌物と体羽を計66羽から採取しました。分泌物の化学組成はガスクロマトグラフィ質量分析計を用いて同定し、体羽からDNAを抽出することで個体の性別を判別しました。その結果、尾腺分泌物から93種の化合物が同定され、炭化水素や脂質エステル、脂肪族アルコールから成ることが明らかになりました。さらに分泌物組成は有意な季節変化を示し、性別によってその変化が異なることがわかりました。具体的には、オスでは繁殖初期の前後で変化する化合物が多かった一方で、メスでは明確な傾向が認められませんでした。
雌雄で共通した変化として、1-hexadecanolが育雛期に上昇することが明らかになりました。1-hexadecanolは脂肪族アルコールの1種で、葉などに含まれ幅広い抗菌作用を有する物質です。先行研究において、他の鳥類においても1-hexadecanolが繁殖期に増加し、羽毛の抗菌力を高めると同時に、環境中の植物の匂いに同化することで存在を隠蔽する可能性が報告されています。ウミツバメ類では、育雛期に両親が採餌に出るため巣内にヒナが取り残され、何らかの防御機構が重要であると考えられます。つまり1-hexadecanolは匂いのカモフラージュとして機能している可能性があります。一方で、本研究では、成鳥のオーストンウミツバメを対象としており、ヒナの羽毛に1-hexadecanolが伝播したかどうかはわかりませんでした。この仮説を証明するためには今後、親子関係がわかる個体において、尾腺分泌物および羽毛に含まれる化学物質の詳細な調査が必要です。
今後の展開
尾腺分泌物の季節変化をもたらす要因は依然として不明ですが、本研究はウミツバメ類における尾腺分泌物の性差および季節変化を世界で初めて詳細に明らかにしました。何が尾腺分泌物に変化をもたらすか明らかにするためには、変化に関与する可能性のある、餌や内分泌物質、尾腺に存在する細菌叢などの季節変化を合わせて調べる必要があります。今後、尾腺分泌物と匂いに関する研究が進むことで、ウミツバメ類における匂いを媒介した社会的な行動の解明につながることが期待されます。用語解説
注1)ミズナギドリ目:翼を広げると1mをゆうに超えるアホウドリ科と潜水が得意な種類が多いミズナギドリ科、小型で海面の生物を飛びながら採餌するウミツバメ科およびアシナガウミツバメ科からなる海鳥のグループ[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/39807/97/39807-97-c76fdc0e829011a2a921206dbe04c152-3900x2194.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図1:研究成果の概要(Terajima et al., 2026を改変)
[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/39807/97/39807-97-9487cb10c2ab910a8d15c27aa37808e4-3900x988.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/39807/97/39807-97-c1e213e8a00ddb8a1a851dab1fa06caf-319x96.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学大学院農学研究院動物生命科学部門
教授 永岡 謙太郎(ながおか けんたろう)
TEL/FAX:042-367-5767
E-mail:nagaokak@cc.tuat.ac.jp
HP:http://www.tuat.ac.jp/~nvetphys/
◆報道に関する問い合わせ◆
東京農工大学総務課広報室
TEL:042-367-5930
E-mail:koho2@cc.tuat.ac.jp
日本野鳥の会共生推進企画室広報グループ
TEL:03-5436-2632
E-mail:koho@wbsj.org
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