「壊れやすさ」を設計して、壊れにくいエラストマーへ ~ ロタキサン型「犠牲結合」の切れやすさを制御する新たな材料設計 ~

プレスリリース発表元企業:国立大学法人千葉大学

配信日時: 2026-09-01 10:00:00



 千葉大学大学院工学研究院の鞆津典夫特任研究員、青木大輔准教授(同大学園芸学研究院附属宇宙園芸研究センター兼任)らの研究グループは、東京科学大学物質理工学院応用化学系の大塚英幸教授、高橋 明助教、横地浩義大学院生(研究当時:物質理工学院応用化学系/物質・情報卓越教育院 博士後期課程3年)らと共同で、力が加わると「輪」が軸から抜けるロタキサン(注1)構造をエラストマーの架橋点(注2)として利用し、材料を大幅に強靭化する新たな分子設計指針を確立しました。
 本研究では、ロタキサン架橋剤の基本骨格を変えることなく、末端(ストッパー)の構造のみを系統的に変化させることで、力が加わった際の輪の抜けやすさを精密に制御しました。その結果、分子レベルでの輪の抜けやすさと、エラストマーの強度や伸び、壊れにくさとの関係を明らかにしました。さらに、ごく少量のロタキサン架橋を導入するだけで、材料の壊れにくさを示す破断エネルギーを最大約20倍に向上させることに成功しました。
 本成果は、犠牲結合(注3)として働くロタキサンの外れやすさを分子設計によって制御し、それが材料全体の強靭性をどのように左右するかを明らかにしたものです。分子レベルの設計から材料全体の力学特性を合理的に制御する、新たな高分子材料の設計指針となることが期待されます。
 本研究成果は、2026年8月30日(現地時間)に学術誌Advanced Materialsにオンライン掲載されました。
 (DOI: 10.1002/adma.74712)
[画像: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/1227/15177-1227-3f672a56ecbf2c0bb48a2253be835ee3-1029x627.jpg?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
図:本研究概要


■研究の背景
 ゴムに代表される、柔軟でよく伸びる材料であるエラストマーは、自動車、産業、医療など幅広い分野で利用されており、次世代機能材料への応用に向けて、より壊れにくく強靭な材料の開発が求められています。その手法として、力を受けた際にエネルギーを逃がす「犠牲結合」が注目されています。しかし、従来は犠牲結合の切れやすさだけを変えることが難しく、それが材料全体の強靭性に与える影響を明確にすることは困難でした。そこで本研究では、末端構造だけで「輪」の抜けやすさを調節できるロタキサンを利用し、犠牲結合の切れやすさと材料の強靭性との関係を系統的に検証しました。

■研究成果のポイント
1.ロタキサンの末端構造だけで「輪」の抜けやすさを制御:ロタキサン架橋剤の基本骨格を変えることなく、軸の末端にあるストッパーの大きさや数を変えることで、力が加わった際の輪の抜けやすさを制御することに成功しました。
2.犠牲結合の切れやすさと材料の強靭性の関係を解明:末端構造を系統的に変えることで、分子レベルでの犠牲結合の切れやすさと、エラストマーの強度、伸び、壊れにくさなどの材料全体として現れる力学特性との関係を明らかにしました。
3.ごく少量のロタキサン架橋でエラストマーを大幅に強靭化:材料本来の弾性をほぼ維持したまま、ごく少量のロタキサン架橋を導入するだけで、材料の壊れにくさを示す破断エネルギーを最大約20倍に向上させることに成功しました。

■今後の展望
 今後は、本研究で得られた設計指針をもとに、エラストマーのさらなる高機能化と用途拡大を進めることで、自動車材料や建築物の制振・耐震材料をはじめ、高い強靭性が求められる幅広い分野への展開が期待されます。

■用語解説
注1)ロタキサン:棒状分子(軸成分)がリング状分子(輪成分)の輪の中を通り、棒状分子の両端が大きな分子(キャップ)で固定されている分子集合体。ロタキサンの構造を利用した架橋剤が「ロタキサン架橋剤」であり、ロタキサン架橋剤を用いて作成された構造・技術を「ロタキサン架橋」と呼ぶ。
注2)架橋点:エラストマーを構成する長い分子鎖同士をつなぐ部分。分子鎖を網目状につなぎとめることで、材料の形を保ちながら、ゴムのように伸び縮みして元に戻る性質を生み出す。
注3)犠牲結合:通常の共有結合よりも弱い力で切断される結合。架橋高分子組み込むことで、力を加えた際に弱い犠牲結合が優先的に解離し、局所的なエネルギーを散逸することによって材料全体を強靭化できる。

■論文情報
タイトル:Harnessing Sacrificial Mechanical Bonds for Toughening Elastomers
著 者:Hirogi Yokochi, Norio Tomotsu, Daisuke Aoki,* Akira Takahashi and Hideyuki Otsuka*
雑誌名:Advanced Materials
DOI:10.1002/adma.74712

■研究プロジェクトについて
本研究は、以下の事業の支援を受けて行われました。
・科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 CREST
研究領域:「[分解と安定化] 分解・劣化・安定化の精密材料科学」
(研究総括:高原 淳 九州大学 ネガティブエミッションテクノロジー研究センター 特任教授)
研究課題名:「カーボネート結合に基づく高分子材料循環システムの構築」(JPMJCR22L1)
(研究代表者:青木 大輔 千葉大学 大学院工学研究院 准教授)
・日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業 基盤研究(C)
研究課題名:「空間的な架橋点のみからなる架橋高分子の精密合成と物性発現メカニズムの解明」(25K08738)
(研究代表者:青木 大輔 千葉大学 大学院工学研究院 准教授)
・日本学術振興会(JSPS) 科学研究費助成事業 特別研究員奨励費
研究課題名:「動的な環状分子が拓く新しい架橋高分子とその機能創出」(21J20689)
(研究代表者:横地 浩義 東京工業大学 物質理工学院 特別研究員(DC1)(研究当時))

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