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北大西洋深海へ年間27.6テラモルの酸素、ラブラドル海の対流が担う重要な役割
北大西洋の深海へ酸素を運ぶ上で、グリーンランドとカナダの間に位置するラブラドル海の深い対流が重要な役割を担っていることが明らかになった。米コーネル大学などの国際研究チームが、2年間の係留観測に基づく研究成果をNature Geoscienceに発表した。
研究チームの推定では、ラブラドル海で形成されるラブラドル海水の層から、年間27.6テラモルの酸素が流出している。このうち、現地で大気から新たに取り込まれる酸素は年間約4.1テラモルで、残る約23.5テラモルは、北大西洋東部などの表層水がそれまでに蓄えた酸素を、ラブラドル海の対流が深い層へ移すことで輸送される。
■深海の酸素輸送を支えるラブラドル海
海洋内部では、水温や塩分による密度差のため海水が層状に分かれ、表層と深層の間で混ざりにくい。光が十分に届かない深さでは光合成による酸素供給が限られるため、深海の酸素は、海面付近で大気と接した海水が沈み込んで運ばれる「換気」に大きく依存する。
ラブラドル海では冬季、冷たい風によって海面から熱が奪われ、表層水が冷却される。もともと成層が弱い海域であることも重なり、深い対流が起きると、酸素を含む表層水が深さ1,500メートルを超える範囲まで混合されることがある。こうして形成される低温で酸素に富んだラブラドル海水は、大西洋子午面循環(AMOC)の下層へ入り、北大西洋内部へ広がっていく。
AMOCは、温かい表層水を北へ運び、冷たい深層水を南へ戻す大規模な海洋循環である。これまでの観測では、ラブラドル海がAMOC全体の強さや密度変換に及ぼす寄与は比較的小さいと評価されてきた。一方、今回の研究は、循環の強さへの寄与が小さくても、表層の酸素を下層へ移す過程ではラブラドル海が大きな役割を果たすことを示した。
■年間27.6テラモルの内訳
研究チームは、ラブラドル海における酸素輸送を二つの働きに分けて評価した。
一つは、ラブラドル海が大気から直接取り込む酸素である。海洋と大気の間のガス交換によって年間約4.1テラモルの酸素が海水に加わり、南へ流出すると推定された。この値には年間1.6テラモルの標準偏差があり、デービス海峡を通る流れは計算から除かれている。
もう一つは、ラブラドル海へ到達する前に表層水へ取り込まれた酸素を、深い対流によってAMOCの下層へ移す働きである。その量は年間約23.5テラモルと推定された。これはラブラドル海で新たに酸素が加わる量ではなく、表層側にあった酸素輸送をラブラドル海水の密度層へ再配分する量を表している。
両者を合わせると、ラブラドル海水の層から流出する酸素は年間27.6テラモルとなる。研究チームは、生態系モデルから得た呼吸量と比較し、ラブラドル海から輸送される酸素が、下流域の生物活動を支える重要な供給になっていると評価した。
比較に用いた呼吸量は、ラブラドル海水とその周辺の水塊を対象にした概算で年間約22テラモルだった。酸素輸送量と同じ規模だが、対象範囲や水塊の定義を含む幅のある推定であり、北大西洋深海の全生物による消費量と厳密に一致するという意味ではない。
■60個のセンサーで2年間を観測
研究チームは、国際観測計画OSNAPの係留系に60個の溶存酸素センサーを取り付け、ラブラドル海と西イルミンガー海の境界流を観測した。センサーは2020年6月に設置され、2022年7月に回収された。
得られた24カ月分のデータは、設置時と回収時に船上から取得した溶存酸素の鉛直観測と照合して校正された。研究チームによると、校正後のセンサーデータの誤差はおおむね1%だった。
係留系のセンサーは海域全体を隙間なく測定するものではない。そのため、研究チームは水温、塩分、深さ、経度、海底地形、観測時期などを説明変数とするランダムフォレスト回帰を使い、観測点の間を補間した。作成された月別の格子データは、船舶による観測や生物地球化学Argoフロートのデータを用いて検証された。
このデータセットは、2020年8月から2022年7月までの24カ月をカバーし、ラブラドル海を横断するOSNAP West観測線について、海面付近から海底までの溶存酸素分布を収録している。
■AMOCの強さと酸素輸送は別々に見る必要
従来のAMOC研究では、海水がどこで高密度化し、循環の下層を形成するかが主要な指標となってきた。OSNAPの観測では、亜寒帯域のAMOCの平均的な強さや変動には、グリーンランドより東側の海域と北欧海が大きく寄与し、ラブラドル海の寄与は10%未満とされている。
今回の研究が示したのは、密度変換による循環への寄与と、酸素を深層へ送る換気への寄与は一致しないという点だ。ラブラドル海では、冷却と同時に北極圏やグリーンランドからの淡水流入などによる低塩分化が進むため、密度の増加は小さくても深い混合が起こり得る。この性質により、AMOCの強さを大きく変えずに、酸素をラブラドル海水の層へ供給できる。
北欧海で形成される高密度水もAMOCの下層へ酸素を供給しているため、ラブラドル海が北大西洋深海に酸素を運ぶ唯一の海域というわけではない。それでも、東部亜寒帯域の表層で取り込まれた酸素をラブラドル海水の層へ移し、北大西洋内部へ送り出す経路として、ラブラドル海の深い対流は中心的な位置を占める。
■将来の酸素動態を左右する対流の変化
研究チームは、北大西洋深海の将来を評価するには、AMOC全体の強さだけでなく、ラブラドル海の対流を継続的に観測する必要があると指摘している。
AMOCとラブラドル海の対流は常に同じ方向へ変化するとは限らない。北極圏やグリーンランドからの淡水流入によってラブラドル海の対流が弱まれば、AMOC全体が大きく変わらなくても、下層への酸素注入は減少し得る。一方、北欧海への淡水流入を想定した一部のモデル実験では、AMOCが弱まる状況でラブラドル海の成層が弱まり、深い対流が強まる結果も報告されている。
別の研究では、中程度の排出シナリオであるSSP2-4.5の下で、2091年から2100年のAMOCが産業革命前と比べて51%、不確実性を含めるとプラスマイナス8%弱まるとの推定が示されている。ただし、これは観測データで気候モデルの偏りを補正した将来推計であり、ラブラドル海の対流が同じ割合で弱まることを意味しない。
また、1985年から2021年までの化学トレーサー観測と地球システムモデルを組み合わせた研究では、北大西洋の海水が全体として高齢化し、換気が弱まっていることが示された。ラブラドル海では自然変動が大きい一方、それ以外の北大西洋では1990年代から2010年代にかけて一貫した高齢化傾向が観測されている。
こうした知見は、AMOCの輸送量と、個々の海域で表層水を深海へ送る換気過程を分けて捉える必要性を示している。ラブラドル海の長期的な酸素観測は、北大西洋深海の脱酸素化リスクと、生態系が利用できる酸素の変化を把握するための重要な手掛かりとなる。
研究チームは今後、同様の観測と解析の考え方を南極海にも広げる方針だ。南極海も表層から深海へ酸素を運ぶ重要な海域であり、その換気過程を調べることは、全球規模の深海における酸素収支を理解することにつながる。
■注目ポイントQ&A
●ラブラドル海から輸送される年間27.6テラモルは、すべて現地で取り込まれた酸素ですか?
いいえ。ラブラドル海が大気から直接取り込む量は年間約4.1テラモルです。残る約23.5テラモルは、北大西洋東部などの表層で取り込まれた酸素を、ラブラドル海の深い対流がラブラドル海水の層へ移す量です。
●ラブラドル海は北大西洋深海の唯一の酸素供給源ですか?
唯一の供給源ではありません。北欧海で形成される高密度水もAMOCの下層へ酸素を運びます。今回の研究は、ラブラドル海が表層の酸素をラブラドル海水の層へ移し、北大西洋内部へ輸送する上で中心的な役割を果たすことを示しています。
●AMOCが弱まれば、ラブラドル海の酸素供給も必ず減るのでしょうか?
必ず同じ割合で減るとは限りません。AMOC全体の強さとラブラドル海の深い対流は異なる要因にも左右されるため、別々に観測する必要があります。淡水流入の場所や規模によっては、AMOCが弱まる一方でラブラドル海の対流が維持または強化されるモデル結果もあります。
●今回の研究では、酸素輸送量をどのように求めたのですか?
OSNAPの係留系に取り付けた60個の酸素センサーで24カ月間観測し、船舶観測で校正しました。その上で、ランダムフォレスト回帰を使って観測点の間を補間し、海流のデータと組み合わせて月別の酸素輸送量を算出しています。
元記事: Deep North Atlantic Life Has One Oxygen Source: Cornell Identifies Labrador Sea
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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