関連記事
「地獄の猫にチャンスはない」とは? 猫にまつわる英語イディオム (30)
英語の否定表現には、驚くほど強烈な比喩が使われるものがある。今回取り上げる「not a cat in hell’s chance」もその一つだ。直訳すれば「地獄にいる猫には望みがない」となるが、いったいどういう意味なのだろうか。今回は、このイディオムがどのように生まれ、どのように使われてきたのかを探ろう。
【こちらも】「猫がどちらに飛ぶかを見る」とは? 猫にまつわる英語イディオム (29)
■Not a cat in hell’s chance
「not a cat in hell’s chance」とは、その直訳からも想像できるように、「絶対に無理」、「見込みゼロ」という状況を表すイディオムだ。「not a cat’s chance in hell」や「not a cat in hell’s chance of it」など派生形もあるが、いずれも「成功の可能性がほぼ皆無」というニュアンスを持つ。
では、なぜ「猫」で、なぜ「地獄」なのだろうか。
この表現の起源は18世紀にまでさかのぼる。当初の形は、現在よりずっと長い「no more chance than a cat in hell without claws」だった。「地獄に落ち、しかも爪を奪われた猫よりも望みがない」という、さらに悲惨な状況を暗示していたわけだ。
その背景を示すものが、1792年、イギリスの月刊誌『The Gentlemen’s Magazine』に載った一編の滑稽詩だ。それは、カローン(ギリシア神話に登場する冥界の川の渡守)が「地獄に入る猫から爪を取り上げる」という設定の詩であり、この比喩が神話的な想像力と結びついていたことがうかがえる。
また、それ以前から、庶民の口語としてもすでに広く浸透していたようだ。イギリスで1785年に出版されたスラング辞典(『A Classical Dictionary of the Vulgar Tongue』)には、自分よりはるかに強い相手と争う者に対して使われる比喩として説明されている。絶望的な状況を示す口語表現として、18世紀にはすでに一定の地位を得ていたわけだ。
その後、いくつかの変遷をたどり、20世紀初頭には今の形に落ち着いた。第一次大戦時の新聞記事には、前線の兵士が家族に送った手紙の一節として、「we wouldn’t have a cat in hell’s chance if we advanced in the open(開けた場所に進めば、我々には勝ち目がまったくない)」という戦場の過酷さを伝える文章が掲載されている。
例文
・There isn’t a cat in hell’s chance they’ll accept our proposal.
(この提案が通る見込みはまったくない)
・He has not a cat’s chance in hell of winning the case.
(彼がその裁判に勝つ可能性はほぼゼロだ)(記事:ムロタニハヤト・記事一覧を見る)
スポンサードリンク

