【どう見るこの相場】往く年来る年、MBOラッシュでオーナー経営のプライド銘柄にブランド力相場を期待

2023年12月26日 16:36

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記事提供元:日本インタビュ新聞社

【日本インタビュ新聞社・Media-IR 株式投資情報編集部】

■兜町版流行語大賞は『政策金利』か『MBO』か?2023年相場の振り返りと展望

 2023年も、残り1週間と押し詰まってきた。いよいよ往く年、来る年である。その2023年の流行語大賞は、『アレ』が選ばれた。プロ野球の阪神タイガースの岡田彰布監督が、直接『優勝』とは言及せず『アレ』と匂わせて選手ばかりか阪神フアンをも鼓舞させ、セ・リーグ制覇はおろか38年ぶりの日本一のタイトルに輝かせた人心掌握術が高評価された結果である。では兜町にとって、2023年相場の流行語大賞は何が選定されるのか?株式投資は、「win-loss」のマネーゲームだから、勝者、敗者などの年間のパフォーマンス次第で選ぶ流行語大賞は、それぞれの投資家ごとに異なって当然である。

 ただこの兜町版の流行語大賞を『政策金利』とすることに大きな反対はないだろう。日米中央銀行の金融政策決定会合が開催されるたびに、利上げ、利下げ、現状維持の結果発表次第で国債利回りが上下して為替相場に影響し、株式市場ではグロース株(成長株)、バリュー株(割安株)の方向感に影響することが繰り返された。ついこの間の12月のFOMC(公開市場委員会)や日銀金融政策決定会合の結果発表では、ダウ工業株30種平均も日経平均株価も一時、ともに年初来高値を更新した。来年2024年も、1月、3月、4月、6月などと日米の中央銀行イベントが続くだけに、流行語大賞は『政策金利』が連続受賞する可能性は限りなく大きい。

 この兜町版の今年の流行語大賞の選定からは外れるかもしれないが、少なくともトップ10の一角くらいにノミネートされるに違いないのが『MBO(マネジメント・バイアウト)』だろう。とにかく今年11月以降にMBOラッシュがあって、猛アピールしたからである。11月に入ってMBOを発表した銘柄はシミックホールディングス<2309>(東証プライム・監理)、日住サービス<8854>(東証スタンダード・監理)、ベネッセホールディングス<9783>(東証プライム・監理)、不二硝子<5212>(東証スタンダード・監理)、大正製薬ホールディングス<4581>(東証スタンダード・監理)などと続いた。

 MBOとは、現経営陣が自社株式を買い取って既存株主から経営権を取得し、株式の非公開化(上場廃止)により経営改革を推進し企業価値の向上を図ることを目的とする買収策である。経営学では、企業の「所有と経営」は、戦後の財閥解体後の証券民主化以来、所有は不特定多数の株主、経営は、プロフェッショナルな雇われ経営者が担う「所有と経営の分離」の方向で進んできた。それがMBOでは、経営陣が株式を買い取るわけで「所有と経営への回帰」と位置付けられている。アクティビスト(物言う株主)が株集めを行うのも、株式の利潤証券の側面より支配証券の側面が前面に出るもので「所有の経営への回帰」に他ならないとされている。

 しかも11月にラッシュとなったMBO銘柄には、共通点があった。いずれもオーナー経営会社であることである。例えばベネッセHDは福武ファミリー、大正製薬HDは上原ファミリーが大株主で、その創業者一族が公開買い付け者となっているのである。またまた前講釈が長くなって恐縮だが、ということは、MBOそのものにも共通のバックグランドがあるはずで、そこに銘柄選択のヒントがあるとするのが、往く年来る年に当たっての今回の当コラムの訴求ポイントである。

 バックグラウンドは、いくつか想定されるが、大きいのが東証の市場改革だろう。東証は、売買単位の統一以来、グローバルスタンダードにマッチさせるために数々の市場改革を実施してきており、昨年4月には市場区分の変更を行い、続いてPBR1倍未満の上場会社には1倍達成に向け資本収益性の向上を要請し、さらに親子上場会社にはその意義の説明責任を求めることにしており、その該当会社は1000社超にも上ると観測されている。この市場改革については、上場会社のなかには「箸の上げ下ろしにもクレームをつける」と煩わしさを感じ、上場のメリットとコストを天びんに掛ける上場会社もないとはいえないはずである。

 外野からみていて、大正製薬HDにそのフシがふんぷんである。同社株は、昨年4月の市場区分の再編では、最上位のプライム市場の上場基準をクリアしているのに敢えてスタンダード市場に上場し、今回の株式の非公開化となっているからだ。MBOは、50.36%のプレミアムを付加したMBO価格8620円で来年1月15日までとして実施中だが、創業100年を超える老舗企業とオーナー経営者のプライドを掛けてマーケットにブランド力を問うたともいえるもので、その真価は、経営改革実現後に再上場してくるのかどうかで答えが出ることになる。

 このオーナー経営会社、ファミリー会社にマーケットは必ずしもネガティブではない。むしろ海外投資家などは、収益性が高いとしてポジティブに買い評価さえしている。それは、末端の社員からグループ会社の隅々までトヨタイズムが浸透して求心力を強め、一部で「金太郎飴」とも皮肉られるトヨタ自動車<7203>(東証プライム)や、カリスマ経営者の柳井正氏、孫正義氏に率いられるファーストリテイリング<9983>(東証プライム)やソフトバンクグループ<9984>(東証プライム)が、主力株人気をキープし続けていることからも明らかである。ソフトバンクGは一時、MBOが観測されたこともある。

 上場会社の半数がオーナー経営会社といわれるなかで、どの上場会社に焦点が当たるのか?当コラムでは、まず「第2の大正製薬」の可能性のある銘柄として、今年10月に東証プライム市場からスタンダード市場に選択上場したオーナー経営会社に注目した。次いで果敢にリスクを取る主力銘柄のオーナー経営会社も浮上の可能性がある。往く年来る年、強気と弱気が交錯しそうな市場環境下、やや視点を変えてオーナー経営者や老舗会社のプライドを掛けたブランド力相場に一顧する投資スタンスも存在価値を発揮しそうだ。(情報提供:日本インタビュ新聞社・Media-IR 株式投資情報編集部)

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