日大・田中理事長の自宅が家宅捜索を受けて、「パンドラ日大」からなにが飛び出す?

2021年9月17日 17:18

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 特捜部で代々申し送られて来た対象先のひとつが”日本大学”だと言う。東京地検特捜部は8日、その因縁の日本大学(以下、日大)に対する家宅捜索を行った。

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 疑惑は日大の幹部が、同大医学部付属板橋病院の建て替えに伴う契約に絡んで、日大に損害を与えた背任の容疑だ。

 事件の”被害者”に擬せられる日大の、本部に相当する日大会館などが家宅捜索の対象になったのは当然だが、特筆されるべきは東京都内の田中英寿理事長の自宅も、家宅捜索の対象となったことだ。特捜部には”捜査のミスリードが許されない”という宿命がある。その特捜部が、疑惑事件解明の端緒として日大の理事長宅に的を絞った意味は大きい。

 ”規模では日本一”と揶揄される日大は、16学部を抱える私立の総合大学で、現在大学生と大学院生の合計は7万人を超え、卒業生は120万人に迫る。折に触れて話題を提供することでもトップクラスで、記憶に新しいのは18年5月に起きたアメリカンフットボールの悪質タックル問題だ。当時日大の”常務理事”をつとめる内田正人前監督が悪質タックルを指示したかどうかが焦点となった。

 その騒動の渦中に悪質タックルをした選手と父親に、「(口にチャックをしないと)日大の総力を挙げて潰すぞ」と恫喝して、タックル指示の口封じを計ったとされる井ノ口忠男理事は、発言の責任を取って同年7月に理事を辞任している。

 ところが翌19年12月には、今回の疑惑で主要な役割を担ったとされる日大事業部の役員に就任し、20年9月には日大の理事に復帰した。現在は僅か4名しかいない常務理事の1人として人事を担当していると言うから、部外者には違和感てんこ盛りの人事が行われていたことになる。18年7月に理事を辞任する際、何らかの密約があったと受け止められてもおかしくないだろう。

 悪質タックルの問題では、18年5月25日に大塚吉兵衛門学長が記者会見に応じて謝罪も行ったが、当時の大塚学長は日大ではヒラの理事であったのに対して、事件の当事者たる内田前監督は常務理事だった。大学の担当部長が上司である有力取締役の行為を謝罪するという、通常あり得ないことが平然と行われたことだろう。日大の最高責任者たる田中理事長は、とうとう最後まで公の席で口を開くことはなかった。

 報道されていることをまとめると、事件の大まかな構図は、付属病院の建設工事の設計業務を日大から委託された同大事業部が、都内の設計会社に約20億円で発注した。井ノ口氏はそこから2億円余りを、大阪の医療法人グループの理事長が絡む企業に移すように工作し、うち1億円を受け取って日大に損害を与えたということだ。残りの1億円の行方も含めて、事実であればマネーローンダリングの要素も含む背任事件だ。 

 焦点は、東京地検特捜部が田中理事長の自宅を家宅捜索した根拠だ。既に田中氏への任意の事情聴取が行われており、現金受領の有無などの裏付け捜査が進められていると思われる。

 特捜部内で申し送られて来たと言われるほどの日大だから、「パンドラの箱」のようなものだ。芋づるで飛び出すものがあってもおかしくない。アメフト部の悪質タックル問題ではダンマリを決め込んで追及から逃れていた田中理事長が、家宅捜索を受けてどんな話をしているのか、捜査の動向によっては日大に激震が走るクライマックスが近づいて来た。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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