粛々とテーパリングを続ける日銀のETF購入動向を振り返る

2021年8月4日 08:31

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日本銀行©tktktk/123RF.COM

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 2021年3月、日本銀行(日銀)は年間6兆円としていたETF購入目安の文言を削除し、続く5月には、ETFの購入価格が実質的にゼロとなった。これは、アベノミクスにおける異次元緩和以降で初めての出来事である。そこで、過去における日銀のETF購入額について、日銀が実施してきた金融緩和と共に振り返っておきたい。

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 なお、ETFとは上場投資信託のことであり、日経平均株価や東証株価指数などの指数に連動するように運用されている投資信託の一種である。投資信託とは、複数の投資家から資金を集め、金融機関などの専門家が株式や債券などを組み合わせて運用するものだ。つまり、日銀は金融機関が運用しているETFを購入し、間接的に株式市場を支えていることになる。

 日銀がアベノミクス以降で実施してきた金融緩和については、2013年4月の「量的・質的金融緩和」、2014年10月の「量的・質的金融緩和の拡大」、そして2016年1月の「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の3回だ。

 アベノミクスが始まった2012年12月の翌2013年は1.0兆円、2014年も1.2兆円と、そこまで目立った購入は無かった。だが2015年からその購入額は倍の2.8兆円、2016年になるとさらに急増して4.5兆円、そして2017年は5.9兆円と、日銀の目安である年間6兆円の購入目安に近づいた。

 2018年は6.5兆円と購入目安を超えたが、2019年には4.3兆円とその購入額をセーブしたかのように見える。黒田総裁は残りの任期を見据え、ここでテーパリングに舵を切りたかったのかもしれないが、コロナ禍で株価が大暴落したために、2020年は7.1兆円とその購入額は激増することになった。

 2020年の月間購入額を確認していくと、1月は約0.4兆円、2月は約0.6兆円と購入をセーブしているかのように思えるが、コロナショックが起こった3月は約1.5兆円、4月は約1.2兆円とハイペースにETFを購入している。

 5月は約0.4兆円、6月と7月は約0.6兆円であったが、8月は購入がセーブされ約0.2兆円、9月は約0.6兆円、10月は約0.4兆円、11月は約0.2兆円、12月も約0.2兆円と、株価はダウ平均株価に連れて上昇してはいたものの、それを後ろ目に、購入額は徐々に減らされている状態であった。

 年が明けて2021年1月は約0.2兆円、2月には約0.1兆円とさらに減額され、年間6兆円としていたETFの購入目安の文言を削除した3月には約0.3兆円と反動を回避する購入額となっているものの、4月は約0.1兆円、そして5月はついに購入無しに至った。

 その後、6月は約0.1兆円、7月も購入無しと、7カ月が過ぎた段階で日銀のETF購入額は1兆円も達しておらず、このまま年末を迎えるようであれば、アベノミクス以降、2019年よりもさらに年間ETF購入額は減少することが予測される。

 つまり、2021年2月に30,000円を超えた日経平均株価が緩やかな右肩下がりとなっている理由は、ダウ平均株価に連動した自立的な反発以外に買い材料が無く、日銀の下支えが乏しいなかで自立的な下落をしているだけではなかろうか。テーパリングに出遅れて緩和余地が残されていなかった日銀がもたらした余罪は益々大きくなる。

 直近安値である27,000円の攻防と、下落スピードを速めた場合の日銀の買い支え、そして20,000円が損益分岐点とされている日銀保有のETFの売却についても、十分に注視していくべきであろう。(記事:小林弘卓・記事一覧を見る

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