諸刃の剣を振りかざすアメリカとIT巨人GAFAM+Nとの戦い (2)

2021年6月9日 07:27

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 コロナ禍の財政出動によって大きな負債を抱えることになったアメリカは、財務を健全にするためにバランスを取らねばならない。そこでバイデン政権は、富裕層への課税の検討と共に、トランプ前大統領が35%から21%まで大幅に引き下げた法人税を引き上げることで、収入源を確保する意向だ。

【前回は】諸刃の剣を振りかざすアメリカとIT巨人GAFAM+Nとの戦い (1)

 しかし、国内の法人税を上げればこれまでと同様に、法人税の低い国を利用した租税回避を目論ませることになる。そこで「法人税の最低下限税率制定」をG7で推進したわけだが、これだけを見ると、ただアメリカが有利になるだけの取り組みに見えてしまう。

 そこでアメリカは、当初最低法人税率を21%と主張していたところから15%に引き下げ、低税率国への歩み寄りを見せた上で、各国が「法人税の最低下限税率制定」に合意するための引き換え案をしっかりと明示した。それが「デジタル課税の対象範囲の拡大」である。

 「デジタル課税」については、GAFAM+NなどのIT企業が法人課税の根拠とされる店舗を各国に持たないことから、租税を回避していること対して危機感を覚えた欧州が始めた、新たな課税の取り組みである。しかしトランプ前政権は、自国のIT企業がターゲットとなることに反発し、これらの協議が停滞していたという経緯だ。

 今回の取り決めによって、大規模かつ高利益である多国籍企業を対象に「利益率の10%超の部分の利益に対し、少なくとも20%の課税権を消費者のいる市場国に与える」という内容が示された。これは、前回記載した「法人税の最低下限税率制定」とは異なり、課税権を消費者のいる市場国に与えるのであるから、結果としてアメリカがGAFAM+Nなどから徴収する法人税が減収することにつながる。

 たとえばAmazonは、日本においてすでにサブスクリプションサービスの1つとして根付いているが、日本における売上高に対して、納税額は圧倒的に少ない。Amazonが利用する巧みな租税回避トリックについてはここでは割愛するが、G7で合意された前出の内容によって、消費者の多い日本が納税を受ける権利を得る可能性があるのだ。

 つまりアメリカは、自国の都合に合わせた「法人税の最低下限税率制定」を提示しながら、「デジタル課税の対象範囲の拡大」という餌を撒いた。アメリカがギリギリ増税となるラインで線引きをしたのは、のちに控える富裕層への増税や「反トラスト法(独占禁止法)」違反提訴を成功に導くためにも、まずは、GAFAM+Nへ対する初手となるからだろう。(記事:小林弘卓・記事一覧を見る

続きは: 諸刃の剣を振りかざすアメリカとIT巨人GAFAM+Nとの戦い (3)

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