新中国国防法にみる国防政策の変化(2)【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】

2021年1月25日 12:07

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記事提供元:フィスコ


*12:07JST 新中国国防法にみる国防政策の変化(2)【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】
本稿は、「新中国国防法にみる国防政策の変化(1)【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」(※1)の続編となる。

次に、国防政策の変化とみられる改正について見てみよう。中国の軍隊(人民解放軍、武装警察及び民兵)が中国共産党の絶対的指導下にあることには変化はないが、次の点については変化が認められる。

第一に、習近平思想が国防活動の指導的思想とされ、加えて中央軍事委員会主席が国防に関する責任をすべて負うと規定されている。習近平個人の軍に対するリーダーシップが強化され、習近平の個人的信条が軍の運用に大きく反映する危惧が高まっている。習近平が推し進める「中国的特徴を持つ社会主義思想」に基づく「国際協調」は、我々が認識する国際協調ではなく、中国的価値に基づく国際協調であることに注意が必要である。

第二に、第4条に「我が国の国際的地位に見合った、国の安全と開発の利益に見合った、統合された国防と強力な軍隊を構築する」との表現が追加されている。この表現から、政治、経済的には国際的影響力を拡大したという自信と、それを守るためには軍隊の使用を辞さないという意図が見える。第68条には明確に「国の海外の利益を保護する」と規定されている。通常海外における外国の権益は、当該国の官憲が守るのが常識である。中国が外交的手続きによらず、人民解放軍を使用することは無いと考えられるが、国防法の規定からは、中国の海外権益を守るためには軍の使用が可能な枠組みとなっている。

第三に、第15条の中央軍事委員会の機能及び権限に「中国人民武装警察」の任務と責任を規定し、武装警察への一元的な指揮が明示された。この改正は、今までの国務院と中央軍事委員会による二重指揮からの脱却であり、今後人民解放軍と武装警察の一体化が加速するものと考えられる。

武装警察を法執行機関と分類するのであれば、軍と法執行機関の一体化は国際的なトレンドからは逸脱する。そもそも軍の活動と法執行機関の活動は異なる法体系で規定すべきである。軍の活動は国益を守るために、国権の発動として海外勢力に対し行使され、戦争法により規定される。一方、法執行活動は、国内法を執行することであり、犯罪行為の阻止が主たる目的である。かつて多くの国において、軍に治安維持任務を付与、法執行権を行使させていた。しかしながら、各国の主張が混在する海域における行動は、軍として行動しているのか、法執行機関の任務として行動しているのか外部からは判断できない。このため、軍と法執行機関を別組織とするのが近代国家としては一般的である。

例えば、ベトナム海上警察は、2013年に海軍の指揮下から独立している。海警を武装警察の隷下とし、中央軍事委員会の指揮下に入れたことは、海警の船舶を単に法執行機関とは考えていない可能性がある。今後海警の船舶が、第二の海軍としてどのような海域で、どのような活動をしていくのか継続的にモニターしていく必要がある。

第四に、第22条の人民解放軍と民兵の任務に非戦争軍事作戦任務が追加されている。非戦争軍事活動は、通常PKO、海賊対処、対テロ、緊急援助活動等の非伝統的脅威を対象とする軍隊の活動である。この点は国際的潮流に沿うものであるが、中国はそれを超えて自らの権益保護活動も非戦争軍事作戦任務に加えている可能性がある。武装力の一部である民兵、特に海上民兵が尖閣周辺で活動を活発化させることは、日本にとって直接的脅威である。

第五に、国防科学技術の発展に関し、軍民協力を強調し、社会全体の優れた資源の最大活用を規定している。科学技術の発達が著しい現在、軍民融合は、トレンドと言うよりは、常識化している。限られた人的資源を効果的に活用するためには、軍民の連携は不可欠であろう。しかしながら、中国の軍民融合は、ハイテク分野における民間技術の積極的な軍事転用という面のみならず、緊急事態における民間資源の積極的な軍事使用という側面がある。先端技術を持つ中国企業の多くが軍との強い関係を指摘されており、軍民融合は米国等と比較すると各段にやり易い状況にある。更には、有事に、中国国内の日本企業の資産や技術が強引に接収される危険性がある。昨今指摘されている「サプライチェーン・リスク」に留まらない直接的なリスクとして認識しておくべきであろう。

今回の中国国防法改正の注目点は、宇宙やサイバーといった新たな領域における戦闘を追加したこともさることながら、中国の海外を含む権益保護に、人民解放軍、武装警察及び民兵という武装力に加え、軍民融合の名の元、企業を含むあらゆる組織を一体的に運用する体制が整えられた点である。米国は中国を現状変更勢力と位置付け、対決姿勢を露わにしている。今後中国軍隊が国防法に基づき、海外の中国権益保護のための活動を行った場合、これに反発する米軍と摩擦が生起する可能性が高い。

尖閣情勢を考えると、現在活発に活動している海警の船舶と人民解放軍及び民兵が中央軍事委員会の指揮のもと一体として運用される点に注目される。国防法の改正に伴って、リスクが上がったと見るべきであろう。尖閣防衛に関する日本の弱点は、領土を守り抜くという国民の気概がやや希薄であること、軍事力の使用に極めて抑制的な法体系であること、琉球列島に自衛隊の基地が少ないこと等が考えられる。一方で、米国のコミットメントがあること、東シナ海には自衛隊による警戒監視体制がとられていること等は強点と言えるであろう。中国国防法の改正は、日本の尖閣防衛体制を見直す絶好の機会であり、特に不測事態に対応できるように武器使用規定を含む法体系を見直すべきであろう。

サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。

写真:新華社/アフロ

※1:https://web.fisco.jp/platform/selected-news/fisco_scenario/0009330020210125005《RS》

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