糖尿病性腎臓病克服の鍵を握るケトン体、ヒールからヒーローへ 滋賀医科大ら

2020年7月31日 13:06

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図1(画像: 滋賀医科⼤学の発表資料より)

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  • 図3(画像: 滋賀医科⼤学の発表資料より)

 糖尿病の合併症のひとつとして、糖尿病性腎臓病がある。血糖値が高い状態が続くことで腎臓の働きが徐々に悪化する。人工透析患者の半数近くは、糖尿病性腎臓病が原因で透析治療を受けるに至っている。

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 滋賀医科大学らの研究グループは、糖尿病の急性合併症を引き起こす原因物質となることから、「悪役」として知られているケトン体が、糖尿病性腎臓病を改善する可能性があることを世界で初めて明らかにした。ケトン体が糖尿病治療薬SGLT-2の腎臓保護作用の一端を担っていることも、明らかにしている。

 この研究は、滋賀医科大学糖尿病内分泌・腎臓内科 富田一聖大学院生、久米真司学内講師、前川聡教授らを中心とする多施設共同研究グループにより行われた。

 私たちが普段生命活動を行うためのエネルギーは、ブドウ糖を分解して得ている。だが絶食時やインスリン不足でブドウ糖が利用できなくなると、肝臓が脂肪を分解して作り出す物質がケトン体であり、ブドウ糖の代わりにエネルギー源として利用される。

 ケトン体が血液中に増えすぎると、体内が酸性になるケトアシドーシスとなり、吐き気や腹痛などの症状が現れ、重篤になると昏睡状態になることもある。そのためケトン体は、これまで糖尿病合併症を起こす「悪役」として扱われてきた。

 研究グループは、糖尿病性腎臓病モデルマウスを使用して研究を行った。腎臓を構成する近位尿細管の細胞は、正常時には脂肪酸をエネルギー源としていることが知られている。しかしモデルマウスでは、脂肪酸からのエネルギー産生が障害されていく一方で、ケトン体からエネルギーを産生するようにシフトしていくことが明らかになった。(図1)

 次にモデルマウスにケトン体前駆物質(体内でケトン体の材料となる物質)を投与した。すると腎臓でのエネルギー産生が改善し、腎機能が改善。糖尿病性腎臓病でみられる腎臓の繊維化などの症状も改善がみられたという。(図2)

 この結果から、ケトン体をエネルギー源とする糖尿病性腎臓病に対してケトン体を供給すると、腎臓病の改善や治療につながる可能性が世界で初めて示された。

 さらに研究グループは、糖尿病治療薬SGLT-2にみられる腎臓保護効果について検討。ここでは、ケトン体を体内で作れない糖尿病性腎臓病モデルマウスを用いた。すると、ケトン体を作れるマウスにみられたSGLT-2の腎臓保護効果が、ケトン体を作れないマウスでは失われた。つまりSGLT-2が腎臓保護効果を現すためには、自分でケトン体を作れなくてはならないことがわかったという。(図3)

 また細胞のシグナル伝達に関する検討も行った。細胞は体外の栄養状態に応じて機能を変化させる仕組みを持つ。栄養感知シグナルのうちのひとつ「mTORC1」は、過栄養を感知するシグナルだが、糖尿病性腎臓病では異常に活性化し、腎臓に障害を引き起こしていることがこれまでの研究でわかっている。その状態においてケトン体を与えると、ケトン体が絶食シグナルとしてmTORC 1を抑制し、腎臓を保護することわかった。

 本来、食料が得られない絶食時のエネルギー補給のために体内で作られていたケトン体だが、食糧不足が少なくなってきた現代においては、ケトアシドーシスの原因物質として悪役イメージを持たれている。だが今回の研究によって、ケトン体は糖尿病性腎臓病において腎臓を保護し修復する働きを持つことが明らかになった。

 ケトン体の利用方法としては、ケトン体前駆物質やSGLT-2、低糖質食などが考えられるが、適切な濃度で安全に使用していく方法を模索してしていく必要があるだろう。その上で今後、ケトン体を利用した糖尿病性腎臓病治療法のさらなる検討が期待される。

研究の詳細は、28日発行のCell Metabolism電子版に掲載された。(記事:室園美映子・記事一覧を見る

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