コラム【新潮流2.0】:身銭を切れ(マネックス証券チーフ・ストラテジスト広木隆)

2020年3月18日 09:37

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記事提供元:フィスコ


*09:37JST コラム【新潮流2.0】:身銭を切れ(マネックス証券チーフ・ストラテジスト広木隆)
◆新型コロナウイルスの感染拡大で多くのイベントやスポーツの大会等が中止や延期となっている。そうした中、高校野球の春の「センバツ」も中止となった。プロ野球オープン戦や大相撲春場所のように無観客試合で開催するという選択肢はなぜ選ばれなかったのだろうと思う。プロとアマの違いはある。しかし、アマチュアであればこそ競技がすべてであり観客もテレビ放送も要らない。大勢の人を一か所に集めるイベントにしないで「センバツ」を行うことは可能であったのに。

◆中止を決めた意思決定プロセスに疑問を感じる。目的関数がリスク最小化であれば、なにも考えずに「やらない」を選べばいい。しかし、事はそんな単純ではない。わかりやすいように二者択一の例を挙げる。「やる」「やらない」、A or B、こうした選択をする場合、リスク対比のリターン、あるいはコスト対比のリターンで考えないと答えが出せない。すなわちAという選択肢を諦めるコストと選択肢Bがもたらすリターンとの比較だ。

◆大会中止を選べば、「安全」というリターンが手に入る。しかし、「センバツ開催」というもうひとつの選択肢を諦めることになる。主催者側にとっては「センバツ開催」というリターンよりも、万が一開催して「安全」を失った場合の責任問題という「リスク」が大きいので中止という結論になったのだろう。しかし、選手にしてみれば、「感染」というリスクを負ってでも「センバツ出場」というリターンを追求したかっただろう。 主催者側の効用関数(リスクリターンの組み合わせがもたらす満足度)と選手の効用関数は異なる。主催者側はどこまで選手の立場でトレードオフを考慮したのか、簡単な言葉でいえば、どこまで選手の気持ちになって考えたのか、そこが疑問であるのだ。

◆『ブラックスワン』で有名なナシーム・ニコラス・タレブの近著は『身銭を切れ』。著者の主張は、「自分の意見に従ってリスクを冒さない人間は、何の価値もない」。タレブは言う。リスク・テイクは、人間と機械との違いを決める問題であり、人間としての格の問題でもある、と。今、未曽有の危機に際して、僕らは大きな不確実性に直面している。ここでのリスクの取り方は、僕らの生き方そのものだと言える。身銭を切れ。僕自身に対する戒めでもある。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆
(出所:3/16配信のマネックス証券「メールマガジン新潮流」より抜粋)《HH》

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