地場企業の育成を担う「株主コミュニティ」制度の期待と疑問

2019年12月15日 19:39

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 日本証券業協会が11月27日、『株主コミュニティの売買金額が20億円を突破』と題するニュースリリースを配信した。

 株主コミュニティ制度は、2015年5月29日に創設(8月28日、取り扱い開始)された。「地域に根差した非上場企業(地場企業)の株式の売買を介し、地場企業の育成につながる資金調達に役立てる」というのが、その趣旨。

 現在、日証協から指定を受けた6社の運営会員(証券会社)により計20社(銘柄)が取り扱われている。累計売買金額は16年2月に1億円を、17年10月に10億円を超え、11月27日時点(開始約4年半余)で20億円を超えた(20億1277万円)。

 日証協では「着実に増加としている」としている。その判断への見方は様々あろうが「地域経済への貢献」という意味では素直に評価したい。

 買い方の主軸は「当該企業の経営者・社員」「取引先企業」とされる。が、地場企業に売買という形で「リスクマネー」を提供しているという事実は地方経済の活性化に役立つからである。

 だが既存の証券取引所に上場してはいない銘柄である以上、リスクにつながりかねない要因も伴う。

 *取り扱い証券会社は、取引希望者に企業情報を提供する。が、対象とされる企業の多くが有価証券報告書を公にしていないのが実情であり、公認会計士等の会計監査を受けていない場合が多い。

 *売買は取り扱い証券会社の店頭に限られる。

 *「超品薄株」という側面が強い。売りたい時・買いたい時に右から左にとはいきづらい。

 結果、こんなケースも出てきかねない。

 19年9月1日に取引対象銘柄だったプラス・テク(茨城県本社の各種プラスチック材料の製販業)という企業が定款を変更(株式の発行から不発行へ)した旨を発表している。現実的にはあり得ないとは思うが、仮にその発表を把握していなかった投資家は店頭での売却が不可能になる。残された方法は相対売買。つまり自らが買い取り先を探さなくてはならなくなる。

 現在、今村証券・島大証券・大山日ノ丸証券・みずほ証券・みらい証券と7月に運営証券となった野村証券(取り扱い実績はない)が運営会員となっている。

 だが証券関係者の関心は正直なところ低い。前向きな関係者の間からも、「真に地方(域)経済の活発化につながる非上場株取引市場にするためには、対象となる企業の内容に関し、より詳細化が不可欠。でなくては登録地場企業関係者の一方通行(買い主体)のマーケットにとどまってしまう」と懸念する声が強い。

 どんな企業が対象銘柄になっているのか。例えば富山県が地盤の島大証券は6銘柄を扱っているが、中にファスナーに代表されるファスニング事業を国際的に展開するYKK(今3月期中間期時点:売上高3718億円、営業利益220億円)がある。惹かれる非上場企業といえる。

 一方、みずほ証券の取り扱い企業にチッソがある。チッソは「水俣病に関する特別措置法」を受け、2011年に既存の主要事業をJNC(株)に譲渡した。現在の使命を同社のHPは「(JNCの収益に基づき)水俣病被害者やご家族への補償を完遂するため努力」と記している。

 みずほ証券関係者の口は重い。「株主コミュニティ制度の前身:グリーンシート時代からの取り扱い銘柄。目下は、旧上場株:チッソの売りを希望する投資家への対応にとどまる」といった具合。

 期待と「?」を有する制度でもある。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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