惑星誕生の謎に迫る 仏天文学者ジョズ・デ・ボーアの挑戦

2019年10月9日 08:38

印刷

原始惑星系ディスクPDS70 ここで発見された惑星の一つが画面中央の黒円からやや右下側に写っている明るい円盤上の存在である。(c) ESO/A. Müller et al.

原始惑星系ディスクPDS70 ここで発見された惑星の一つが画面中央の黒円からやや右下側に写っている明るい円盤上の存在である。(c) ESO/A. Müller et al.[写真拡大]

 1990年代以降、1000個以上の太陽系外惑星が発見されたが、惑星本体を直接捉えた発見はそのうちのごくわずかで、ほとんどは、惑星が回っている恒星本体の半径方向の速度変動を捉えることによって、間接的に惑星の存在を確認したものである。

【こちらも】アルマ望遠鏡、惑星誕生に関する新たな発見 理研の研究

 ヨーロッパ南天天文台(ESO)の天文学者ジョズ・デ・ボーアは、南米チリのパラナール天文台で太陽系外惑星の直接観測による検出に日夜挑戦している。この天文台は、VLTと呼ばれる直径8.2mの4台の超大型望遠鏡群を有する、世界の最先端をゆく観測施設である。

 太陽系外惑星の光を直接捉えるのは至難の業であるが、それを実現する秘密兵器がSPHEREとMUSEである。SPHEREは、恒星本体の光をシャットアウトして、恒星の周りを周回する存在から発せられる光を直接捉えることを可能にしたコロナグラフの一種である。

 SPHEREが恒星からの光とそれ以外からの光を賢く識別できるのは、偏光の有無をチェックしているからである。偏光とは波がランダムな方向に振動する現象で、恒星から発せられた光には偏光がないが、反射光は部分的に偏光する。これにより、その光が恒星からのものなのか、恒星以外からのものなのかが識別可能になる。

 いっぽうMUSEは、積分フィールドスペクトルグラフで、望遠鏡の視野の分光分析を行い、目的とする元素や物質のマッピングを行う装置で、原始惑星系の星間物質の状態をリアルに把握するのに役立つ。

 ジョズ・デ・ボーアが様々な太陽系外惑星の探索を行う理由は、太陽系のような惑星系の誕生メカニズムを解明し、地球のような知的生命体が存在する可能性のある惑星系を見つけ出すためである。

 太陽系をいくら観察しても、直接過去にさかのぼって誕生のプロセスを確認することはできないが、太陽系外では、様々な時期にある惑星系が存在する。誕生の時期に差し掛かっている惑星系を発見できれば、それを詳しく観測することで、誕生のメカニズムを克明に直接研究することが可能になる。

 ジョズ・デ・ボーアが探し求めているのは、惑星が誕生する直前の星間物質が確認できる原始惑星系ディスクである。そこには惑星の卵のような存在が確認できるはずであるとの仮説のもとに、探索を続けている。

 昨年、SPHEREで捉えた原始惑星系ディスクPDS70をMUSEで詳しく分析し、見事惑星の卵を探し当てるのに成功した。PDS70のMUSEによる分析で、2つの惑星の存在が確認された。これらの詳細な研究成果がもたらされるのはまだ先の話だが、新たな知的生命体が誕生しているかもしれない惑星を探し出すための、有力情報が得られることが楽しみである。(記事:cedar3・記事一覧を見る

関連記事